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スウェーデンの湖沼に秘めたるロマン (上)
【北の国からのエッセイ】 2008年9月18日

北欧のスウェーデンは森と湖の国だ。湖沼は9万6000もあるという。今夏、札幌市に隣接する石狩当別町と姉妹都市の提携をしている小都市レクサンド市を訪れた。

スウェーデンのハート
レクサンド市は首都ストックホルムから西方向に列車で北上すること3時間、風光明媚で知られるシリアン湖のほとりにある。緯度でいえば北緯61度、日本の最北端、稚内が45度なので、それよりはるか北のカムチャッカ半島の付け根付近に相当する。

姉妹都市の石狩当別町とは、冷涼とした気候と自然がよく似ているという。夏は完全な白夜ではないが、日没は午後10時過ぎ、朝は4時にはすっかり明るくなる。

レクサンド市を含むシリアン湖周辺は、広大な森林に囲まれた豊かな自然と、スウェーデンの伝統や文化が残っている地域だ。こうしたスウェーデンの原風景を色濃く残していることから「スウェーデンのハート」とか「スウェーデンの心のふるさと」と呼ばれているという。

150年前、デンマークの童話作家アンデルセンが当地を訪れて、その自然のすばらしさに感激して、欧州の芸術家に熱狂的な手紙を書いたそうだ。アンデルセンはレクサンド観光をマーケティングした最初の人と位置づけられ、以降レクサンド市は、長い冬は凍結する湖を活用したウインタースポーツ、夏は自然環境を楽しむ観光客で、一年中賑わう観光都市として発展している。

夏は短く気温は20~25度、札幌よりやや涼しい。野花が咲き乱れる湖畔を散策した朝5時半ころ、天空に虹がかかった。これまでに見たことがない大きな虹だった。余りに大きくてカメラには全貌を収めることができなかった。虹の片方は湖に落ち、もう片方は、はるか遠い森に落ちていた。



シリアンリング
レクサンドを含むシリアン湖の風景は、隕石の衝撃で作られたと聞かされ驚いた。

先史時代のことである。3億6000万年前、大きな火の玉が地球に向かって落下した。それは直径2.5kmもある大隕石で、とてつもない勢いで地面に落ち、その衝撃で地面は波打って盛り上がった。その衝撃のエネルギーは、核爆弾5億個に相当するという。衝撃でできた噴火口は、直径75kmという大きなもので、シリアンリングと呼ばれている。シリアン湖はそのときにできたそうだ。(写真左)

ヨーロッパ最大の隕石跡で、地球がちょっと傾いているのは、この隕石の落下によるという説があるという。いまでも世界の地質学者が、隕石衝突によって変形した大昔の堆積岩に含まれている化石などを求めて、シリアン湖周辺に調査に来るそうだ。

シリアン湖周辺の地質・動植物を展示している自然公園がバスで30分のところにあった。大型の路線バスには、行きも帰りも同行した仲間5人以外は、1人か2人しか乗ってない超田舎道である。

そこには1mほどの隕石らしきものが8個ほど、道筋に並んでいた。宇宙のかなたからの訪問者?に遭遇した同行の婦人は、静かに石に触れて、その手を自分の体に当てていた。「宇宙のエネルギーを私にもください」というのだろうか、人間の信仰心はこういうところから自然に、素朴に生まれるのかと思った。

夏至祭
レクサンドを歩くと、広場のあちこちに高いポールが立っている。スウェーデン最大の祭り「夏至祭」の象徴、マイストングである。民族衣装の男たちが「オー」と声をあわせて、花輪などをかけたマイストングを立ち上げると、取り囲んだ行楽客らが「ヘーイ」と 応じ、一体感がかもし出されるという。祭りの核のマイストングが立ち上がると、地元の人から観光客まで輪になってフォークダンスを踊って祭りを祝うそうだ。

市内の中心部に大きな窪地があった。(写真左下)「面白い窪地だね」と言いながら、毎日、窪地の周辺を歩いていた。氷河期時代にできた窪地だそうで、その真ん中にこの地域では一番高いマイストングが立っていた。ここで行われる夏至祭はスウェーデン最大級の夏至祭で、数万人の観光客が訪れるという。

市内でも郊外でも湖畔の広場でも、マイストングが立っているのを見かけると、夏至祭が住民の間にいかに浸透していることがよくわかる。さすがスウェーデン一番のお祭りだ。夏至の到来で、太陽と自然の恵みに感謝する素朴なお祭りに、冬が長くて夏の到来を心待ちにするスウェーデンの人たちの心を感じた。

右下の 写真はレクサンド市と姉妹都市の石狩当別町でこの夏行われた夏至祭である。(8.6.22)広くて大きい窪地に、ぽつんと立っているレクサンドのマイストングをみて、6月にこの地で行われた夏至祭の模様を連想した。


(つづく)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。