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スウェーデンの湖沼に秘めたるロマン (下)~ ベリーの王様 ~
【北の国からのエッセイ】 2008年9月22日

今度の旅で、私はある植物にこだわりを持っていた。
クラウドベリー、イチゴの仲間である。(写真)

去年の冬、元・北大植物園園長の坐講で、クラウドベリーを初めて知った。スウェーデンの隣国フィンランドでは、野山にはブルーベリーやストロベリーなど、日本でもおなじみのイチゴがあちこちに生えており、シーズンになると住民はバケツを持って森に入る。その場で食べたり、長い冬のビタミンの補給としてジャムにして蓄えるという。

フィンランドではいろいろなイチゴが採れる中で、ベリーの王様といわれるのがクラウドベリーだという。フィンランドの硬貨にも刻み込まれている。

名前が示すとおり、クラウドベリーは雲がかかるような高いところで採れることからこの名がついた。ただ高地の湿地帯という限られた地域で採れるため希少価値があり、高価なベリーになっているという。

私はこの話を聞いて先生に尋ねた。
「来年の夏 隣国のスェーデン中部の自然豊かな所に行きますが、そこにもクラウドベリーはあるでしょうか」
先生曰く、「植物には国境はありません。森と湖の同じような環境なのであるでしょう」

よし、レクサンドに行ったらぜひ探してみようと思った。

実はクラウドベリーは日本にもある。ホロムイイチゴといわれている。日本でもっとも古い炭鉱の一つ、幌向炭鉱(岩見沢市)付近で初めて、発見されたことからこの名がついた。

ホロムイイチゴなら、確かニセコかどこかで観察した記憶がある。たまたま観察したホロムイイチゴが貧弱だったので印象も薄く、写真も撮ってない。

同じ種類のイチゴなのに、ホロムイイチゴは赤いのに対して、クラウドベリーは黄色い。これは先生によると、それほど珍しいことではないという。フクジュソウは日本では黄色いのに対して、ヨーロッパでは赤いそうだ。

毎朝午前5時前からシリアン湖畔を散策した。昨日が西ならきょうは東と、植物観察しながらクラウドベリーを捜し求めた。朝露で足元はぬれる。

しかし、あるのは木イチゴばかりである。(写真右)旅に誘った東京の婦人は、幼き時の青森の田舎を思い出すと言って、赤い実の木イチゴを見つけてはパクリパクリと口に入れている。
一度にそんなに食べると、お腹がおかしくなるのではないかと心配するほど、夢中で採っている。

遠出したときもクラウドベリーを探した。けど見当たらない。インフォメーションセンターや、宿の受付の人などにも聞いたが、この辺にはないのではという。むしろ「クラウドベリー?」という感じである。

ただ、当地ではクラウドベリーの絵葉書が売っていた。冒頭の写真がそれである。絵葉書になっているのをみると、このベリーはやはりそれなりの価値があるのだろう。見つけることをできないことを想定して、記念に絵葉書を購入した。

クラウドベリーを見つけるには、もう少し北の高地に行かなければ無理かとあきらめかけていた時のある朝、宿の受付女性が事務室に来いという。行くとコップに一輪挿しになっているクラウドベリーがあるではないか。(写真下)




「あっ、クラウドベリーだ。これがクラウドベリーだ」思わず叫んでしまった。毎日あちこち探している私を見て、知人に頼んで高地から採取してくれたそうだ。一輪挿しのクラウドベリーを借りて部屋に置き、毎日恋人のようにクラウドベリーを眺め続けた。黄色に光り輝いて、確かにベリーの王様のような風格があった。

クラウドベリーのジャムを土産に買おうと、スーパーマーケットに行った。(写真左)すると、ここで、また驚きである。高さ10cmほどの瓶に入ったクラウドベリーが、2500円前後もする。通常のジャムの2倍から3倍もする値段だ。

クラウドベリーを知ってる人は、このジャムは余り好きでないという人が多く、嗜好が分かれるようだ。どうやら黄色いせいか、甘みがないようだ。それがなぜこんなに高いのだろう。

帰国直前に泊ったストックホルムのホテルの朝食バイキングで、ジャムが数種類あり、たまたまクラウドベリーのジャムもあった。旅の最後に食することができるなんて、これ幸いと早速パンにつけて食べてみた。

多くの人が言ってるように、余りおいしくなかった。やはりジャムは甘いのがいいと思った。

北欧の湖沼には、同じような冷涼な気候の北海道とは、また一味違うロマンがある。

(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。