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支笏湖畔 台風跡の野花
【北の国からのエッセイ】 2008年9月26日

支笏洞爺国立公園の一角を形成する支笏湖は、北海道ではサロマ湖・屈斜路湖についで3番目に大きいカルデラ湖です。いくつかの顔を持っている支笏湖ですが、今回はちょっと変わった湖畔を訪ねました。


4年前の9月8日、台風18号が北海道を襲いました。札幌市内で最大瞬間風速50.3mを記録し、街路樹がバタバタ倒れました。最も被害が大きかったのが支笏湖畔で、7000haの国有林が被害を受け、大量の風倒木が発生しました。

ちょうど50年前の史上最悪の林業被害といわれた洞爺丸台風以来の大被害でした。元の森を取り戻そうと、植樹が地道に行われました。小学生から自然愛好家、エコロジーに理解のある企業まで、さまざまな人たちによって、これまでに100haであわせて10万本の木が植えられました。

一口に100haといってもどれくらいかといいますと、東京ドームが4.6haですので、ざっと22倍です。植樹された木が順調に育っているのか、周辺にどのような秋の野花が観察されるかが、今回のフィールドワークの目的です。


支笏湖畔は強い風が吹いたと思われる方向に向かって、森にぽっかり穴が開いていました。風倒木の後始末はまだ終わってなく、あちこちに掘り起こされた根が散乱していました。(写真上左)鬱蒼と繁っていたであろう木々に代わって、広い原野に繁殖力の強いセイタカアワダチソウが咲き乱れていました。

この原野にちょうど列車の線路のような景観があちこちに見られました。(写真上右)植林されたところです。アカエゾマツやトドマツなどが植林されていました。植林された木々はまだ30cmほどの幼木です。この2年間ほど先頭になって植林してきたグループの案内人は「30年後には立派な森になりますよ」と目を輝かせていました。立派な森を見届けるためには・・・年齢から推定すると、このリーダーは1世紀は生きなければなりません。夢を持ってヒグマやエゾシカが出没する原野で植林を続けたそうです。

この原野には夏から秋にかけての野花が観察されました。アケボノソウです。(写真右)花びらが5枚に見えますが、花冠が深く5裂しています。白っぽいクリーム色、先に緑色の斑点があります。白い花びらを明け方の空に、花びらの斑点を夜明けの星に見立てました。札幌近郊ではアケボノソウを一本でも観察すると、歓声をあげるほどの人気ですが、ここでは群生していました。おまけに環境がよいのか、茎が伸びて50~90cmほどに生長しています。伸び伸びとした健康そうなアケボノソウを観察できて感激です。




トモエソウです。(写真下左)花の形が船のスクリューのようにねじれて咲きます。これもなかなか観察できません。

オトギリソウです。(写真下右)狩で傷ついた鷹を治す秘薬で、名前を問われても鷹匠は口外しませんでした。
ところが鷹匠の弟が漏らしたため、怒った兄が弟を斬殺したことからオトギリソウ(弟切草)の名がついたといわれています。葉や花びらに黒点があるのはそのときの血しぶきとか・・・伝説は面白いです。


それにしても秋の野花には黄色が多いです。野花の色は白32%、黄32%、紫青22%という調査結果があります。
秋に黄色が多いのか、逆に白や紫青が少なくて結果的に黄色が目立つのか、どちらなのでしょうか。

このようなことを思いながら歩きますと白い花に出会いました。ツルリンドウです。(写真左)林の中で蔓状になって伸びているリンドウです。まもなく赤い実をつけ、春先、雪の中からこの赤い実を見つけると、心ときめき、よく生き伸びていたなと声を掛けたくなります。つる性の植物だけに他の草木に絡み付いており、葉の影に隠れて見落としがちです。





路傍に高さ10cmほどのひょろひょろとした花を見つけました。一見もやしのような植物です。けど、先端についてる花にはラン科特有の唇弁がついています。ミヤマウズラです。(写真右)初めて観察しました。子羊のような顔をしていました。野生のランはその表情が千差万別、しかも他の草に紛れて咲いていることが多いです。しかし一旦、見つけると、凛として咲いているその姿に、ランの“矜持”を感じます。

青紫の花もありました。タカアザミです。(写真下)花を支える茎が1.5mほど高くつき上がっていることからこの名前がつきました。頭花は多数で下に垂れ下がっています。いかにも原野にふさわしい野花です。森林や原野は安定すると、その林床部に咲く花も大体決まってきます。しかし台風などで一度環境が変わりますと、咲く花もがらりと変わります。この結果、ふだん余り見かけない野花が観察されます。


種子はどこから飛んでくるのでしょうか。風だけではありません。虫も、動物も種子を運んできます。これによって自然は変化し、その変わり具合を観察するのはとても楽しいものです。

植林された木々が大きくなるにつれて、日光をもらえなくなる林床の野花は次第に姿を消して、次の舞台を探すことでしょう。環境に順応して、懸命に次の世代にバトンタッチしようとする生物の知恵と強い生命力を感じました。  (完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。