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宮廷才女 植物競演!
【北の国からのエッセイ】 2008年10月15日

10月も半ばに入りますと、北海道では紅葉がどんどん北部から南部へ、高地から平地へと移ってきます。

札幌では早くもユキムシが観察されました。ユキムシというのはアブラムシの仲間の昆虫で、正式名はトドノネオオワタムシと言います。特殊な生態系を繰り返す虫で、初雪が降る2~3週間前になりますと、寄生しているトドマツから一斉に飛び立ち、ヤチダモに引っ越します。お腹が白い綿毛で覆われているため、あたかも雪がちらつくように見えることからユキムシと言われています。このユキムシを観察すると冬も近いぞと思わせる、北海道の人にとっては馴染みの虫です。

札幌の去年の初雪は11月2日でしたので、ちょうど3週間前、里にも冬は忍び寄ってきます。

紫式部
3連休の一日、紅葉を求めて函館山まで南下しました。札幌から車で5時間、往復10時間の強行軍で、お尻がモグモグします。

紅葉はさほどではありませんでしたが、函館山の中腹でムラサキシキブの実を観察しました。(写真)高さ2メートルほどの低木ですので、たまたま停車した車中から偶然みつけたもので、紫色の実がとても鮮やかです。ムラサキシキブは本州ではあちこちに観察されるそうですが、北海道では道南地方しか自生していません。

自然界の中での初めての観察で、感激して写真を撮っていると、「ムラサキシキブなら自宅の庭にあるよ」感激に水を差す?同行者が現れました。すると「それは園芸用のムラサキシキブではないの」別なご婦人が口を挟みました。専門家に整理してもらったところ、ムラサキシキブに似ているコムラサキという植物がある。これをムラサキシキブと称して販売しているケースがあり、実際に園芸用のムラサキシキブの多くはコムラサキだそうです。その見分け方は、紫の小さな実が混んで沢山ついていたらコムラサキ、まばらに数個しかついていなかったらムラサキシキブ、もしご自宅に植えているなら、確認してみたらいかがでしょう。

清少納言
紫式部があるなら清少納言はないだろうか。凡人はつまらないことを考えます。それが実はあるんです。今年の6月、札幌豊平区の農業専門学校を訪れますと、広大な菖蒲園があり、そこに清少納言がありました。(写真左)菖蒲の一品種の園芸植物で、実に見事な清少納言でした。なぜ清少納言と名づけたのかはわかりません。

清少納言は『枕草子』で
  節は五月にしく月はなし。
  菖蒲・蓬などのかおりあひたる、いみじゅうをかし

と表現しています。

どちらかというと、色香よりは才気煥発な清少納言に似合わない艶やかさがありました。清少納言がそばにいたらいいなと、一鉢購入し家に飾っておきました。手入れが悪いのに怒ったのか、まもなく枯れてしまいました。

一人静
宮廷美女の香りする名前の花は他にないでしょうか。ヒトリシズカという花があります。早春の野山の明るい林の中に咲いています。4枚の葉を突き抜けたように、一本の白いブラシ状の白い花が咲く面白い植物です。(写真:野幌) 清楚ですが、お世辞にもきれいな花だとはいえません。

他の花がまだ余り咲いてない早春の花だけに、姿の変わったヒトリシズカを見つけると、いつも歓声があがります。ヒトリシズカも迷惑なことでしょう。漢字で「一人静」と書き、源義経の側女「静御前」が、源頼朝に捕らえられた義経を慕って鶴岡八幡宮で、1人で舞った姿に見立てたと言われています。これに対してヒトリシズカは必ず群生している。
愛妾になったほどの美人なのに花はきれいでなく、「静御前」のイメージに合わないなどという有力な反論もあります。むしろ静御前の亡霊に、義経の家来の大勢の亡霊が付き添って群生しているのでこの名がついたという説を唱える人もいます。

花が二本咲くのもあり、それはフタリシズカと言われています。(写真左:厚真町)まれに3本咲くのもありますが、サンニンシズカとはいわず、フタリシズカです。かしましい3人以上のご婦人が、いつも喧々諤々言っている植物です。

御前橘
ゴゼンタチバナというミズキ科の植物があります。白い4枚の花びらをつけて一輪の花のように見える格式のある花です。花びらのように見えるのは苞(ほう)で、実際の花は真ん中に小さく密生しています。これも由緒のある氏素性があるのかと思って調べて見ました。すると、石川県の白山の主峰御前峰で初めて発見され、実がカラタチバナに似ていることから名づけられたことがわかりました。人間模様とは無関係でした。夏に白い花を咲かせ、秋に赤い実をつける人気のある花です。(写真下左:上川町浮島湿原、右:足寄町)阿寒湖から十勝の足寄に向かう途中の国道沿いに大群落があり、通るたびに車を止めては見ています。


こうして花の名前と花姿をオーバーラップさせて観察すると、その特徴を捉えて名前がつけられているのがよくわかります。ただママコノシリヌグイのような気の毒な名前がついた植物も結構あり、命名した植物学者の感性と品性が垣間見れるのも面白いところです。ママコノシリヌグイの意味?  口で言うのも憚れますのでここでは割愛です。
(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。