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晩秋のエルムの杜
【北の国からのエッセイ】 2008年11月04日

11月に入りますと札幌の週間天気予報にも雪だるまが登場してきました。冬の足音が近づいてきました。

植物の世界の冬支度を覗きに、3連休の中日、晩秋の北大構内を散策してきました。

黄色いトンネル
植物の冬支度は落葉です。気温が下がって根から水分を吸い上げる力が弱まりますと、葉も光合成ができなくなり、緑の葉は化学変化を起こして、赤や黄色に変色した後 落葉します。これによって体のバランスを保ち、余計なエネルギーの消耗を防ぎます。紅葉とか黄葉は、落葉樹が葉を落とす準備段階といえ、人間はその葉の変化を愛でて楽しんでいます。

北大構内の北13条通りには道路の両側380mにわたって、70本ほどのイチョウの木があります。(写真上)イチョウ並木といわれ、ポプラ並木と共に北大の代表的な観光ポイントです。そのイチョウが見事に色づきました。まるで黄色のトンネルです。たまたまこの模様は、2日の夜のテレビ全国放送で紹介されていましたので、ご覧になった方は多いかと思います。11月はじめの3連休は、車の出入りは規制され、行楽客のために歩行者天国となりました。観光客から親子連れの市民まで大賑わいのイチョウ並木です。

見上げるとイチョウの実がたわわになっています。(写真左)イチョウの実はぎんなんです。茶碗蒸しにぽつんと入っているグリーンの実です。居酒屋に行きますと、3個ほど刺した串刺しのぎんなんが、結構、高値で客に出されています。

たわわに実ったぎんなんを見て、同行した婦人が「誰か木を揺すって!」風が吹いた日の早朝に来なければ、ぎんなんはそう簡単には拾えないそうです。

赤い建物
古めかしい旧理学部の建物が赤くなっていました。(写真右)北大構内では最も古い建物のひとつで、現在博物館になっています。ツタが下から上に伸びてびっしり付着しており、見事な紅葉となっていました。

♪ つたの絡まるチャペルで、祈りをささげた日  ♪

建物に絡まるツタは、夏は涼しそうに見え、秋は夕日に映えてエキゾチックです。

建物を覆っているツタは、ナツヅタといわれるブドウ科のつる性の植物で、いずれ落葉します。これに対しフユヅタというつる性の植物があります。一般的にキヅタと言われていますが、冬でも常緑のことから落葉するナツヅタに対して、フユヅタとも言われています。広葉樹の色が変わって落葉する時期になりますと、フユヅタの緑が目立ってきます。

北国のお父さん
農学部のほうに足を向けますと、ハルニレの木ばかりという広場にでます。ハルニレはここばかりではありません。北大構内のあちこちでハルニレが見受けられます。

ハルニレは英語でエルムといいます。北大が「エルムの杜」といわれる所以です。ハルニレはすっかり葉を落としていました。(写真左)早や冬の装いです。

ハルニレは花も葉も地味で、おっとりと構えている感じの大木です。けどどういうわけか、ハルニレは洋の東西でとても尊敬されている木です。アイヌ叙事詩ユーカラには美しい女神として登場し、人間の子アイヌラックルを産みます。アイヌラックルの父は雷神、母はハルニレです。ハルニレの木の上に雷が落ちて、人間は火を使うのを覚えたと言われるのがアイヌ神話です。

実際ハルニレは火をよく起こします。というのもハルニレは老木になりますと、空洞(ほら)ができます。よくフクロウがねぐらにしている空洞です。(写真右06.12)落雷すると空洞に堆積した落ち葉などの木屑が着火して、火を得やすいことから、ヨーロッパでも重要な木として位置づけられています。

ハルニレは水気の多いところに生えます。開拓に入った人はハルニレの生えるところを開墾しました。ハルニレは肥沃な土地であるというバロメータであったわけです。本国を追われてアメリカ東部にたどり着いたイギリスの新教徒は、インディアンからエルムを土地条件の指標にするよう教えられたそうです。肥沃で耕作に適し、水も得られるためです。

札幌は豊平川の扇状地の上にできた町です。川の水は扇状地ではいったん地下を流れますが、扇の先端にきますと、湧き水となって地上に出てきます。アイヌ語でメムといい、ちょうど北大や道庁前庭、植物園などいまの札幌中心部がメムがあるところでした。この周辺にハルニレはよく生えました。このためハルニレは札幌を代表する木といわれています。

今は高層ビルが林立して水脈は寸断され、メムは消えてしまいした。池の水はすべてポンプアップです。ハルニレの花言葉は「信頼」です。とても地味な木ですが、どっしりした頼りになる北国のお父さんという木です。葉はすっかり落ちても、存在感のある広葉樹です。

かわいいバンカラ学生
ハルニレの街路樹を歩いていますと、面白い光景に出会いました。赤ふんどし姿の学生さんです。構内にある学生寮・恵迪寮(けいてき)の寮生です。現在寮祭をやっており、ぜひ来てくださいという勧誘の赤ふん学生でした。チラシを受け取るご婦人も、目のやり場がないようですが、笑顔で受け取り、寒くないのかと気遣う観光客もいました。

恵迪寮といいますと

♪ 都ぞ弥生の雲紫に  花の香漂う宴遊(うたげ)の筵(むしろ)・・・♪

明治以来寮生が高言放歌した寮歌の生まれたところです。

昔の恵迪寮は、構内にはもうありません。札幌近郊の北海道開拓の村に移設されて、歴史的建造物として保存されています。(写真右08.5)

代わって北大構内には近代的な寮が建っています。北大の寮生というと、バンカラ学生のイメージですが、赤フンの二人の学生はまだあどけなさの残るかわいい学生でした。聞くと1年生だそうで、さぞ楽しい寮生活を送っていることでしょう。

札幌農学校3賢人
工学部の入り口前の広場で、珍しい植物が観察できました。クロビイタヤです。(写真左)北大植物園の初代園長・宮部金吾博士が日高地方で見つけたことから、別名ミヤベイタヤといわれています。宮部博士は優秀な学生が輩出した札幌農学校2期生で、内村鑑三・新渡戸稲造とともに農学校の3賢人と言われています。ほかの二人が東京へ世界へと活躍の場を求めたのに対し、宮部博士はクラーク先生が提唱した植物園の初代園長となり、27年間も園長を務めました。札幌名誉市民の第一号です。

ミヤベイタヤは、葉の形が一見カナダの国旗のサトウカエデに似ています。絶滅危惧種で、工学部の著名な教授の退官記念に植樹されたという立て札が立っていました。

冬 間近か
広い北大構内は自然が一杯です。すでに葉が落ちたカツラの木には種子が一杯ついていました。(写真右)その形からバナナと呼んでいます。イチョウの実のぎんなんは人間の好物ですが、カツラの実のバナナは鳥の大好物です。もうちょっとやわらかくなると、鳥がわんさと訪れて食べつくしてしまいます。

近くの池には、カモがいつもより多く羽根を休めていました。晩秋の色濃いエルムの杜でした。 見上げると札幌郊外の手稲山(1024m)の頂上部分がすでに白くなっています。まもなく里にも白いものがちらつくことでしょう。去年の札幌の初雪は11月2日でした。(完)


望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。