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雪まつり大雪像制作現場を覗く
【北の国からのエッセイ】 2009年01月27日

札幌の冬の一大イベント、さっぽろ雪まつりは来月5日から開催される。雪まつりの最大の呼び物は、大通公園にお目見えする大雪像である。大雪像の制作現場は重機などが入るため、立ち入りは禁止されているが、今回初めてじかに見る機会を得た。

開幕まであと10日に迫った、大雪像の制作現場を覗いてみた。

還暦のさっぽろ雪まつり
さっぽろ雪まつりは今年でちょうど60回目を迎える。終戦直後のまだ暗い世情の昭和24年、高校生らが当時雪捨て場であった大通公園で、6基の雪像を作ったのが最初である。以降、徐々に内容も充実し、昭和30年 当時まだ国民には十分認知されていなかった自衛隊が、愛される自衛隊をめざして地元に協力を申し出たことから、大雪像が制作されて飛躍的に発展した。

雪まつりの大雪像づくりは、正月明けから始まっている。公園のほぼ一丁ごとに大雪像が作られている。(写真右)それ以降、開幕までは、大通公園を通るたびに、ビルの建設現場のような枠組みを遠巻きに見ていた。今回、初めて制作現場に足を踏み入れると、自衛隊車両と多くの隊員が出入りするため、踏みつけられた雪はスケート場のリンクのように凍っていた。足元に気をつけながらの見学である。

人海戦術
今年の目玉の大雪像のひとつは、600年前の朝鮮王朝時代に建てられたソウルの崇礼門(スンネムン)別名南大門である。韓国の国宝第1号だ。小渕恵三首相と金大中大統領が、日韓パートナーシップ共同宣言を発表して、文化交流が始まってちょうど10年、これを記念して作られている。南大門は1年前放火で焼失し、韓国国民に大きな衝撃を与えた。2013年までに復元されることになっているというが、雪まつりで一足早く再現される。

再現される南大門は実物の4分の3とはいえ、高さは15m、7階建てのビルに相当する。(写真左)屋根の部分に上って作業している自衛隊員が小さく見える。結構急な屋根の上でも自衛隊員は命綱をつけてない。滑って危険ではないかと思う。隊長の佐官曰く、足元の雪を掘ってるので大丈夫、終わったら足元を埋めるという。

説明を受けている間にもひっきりなしにトラックが中に入り、雪が下ろされていく。これだけの大雪像を作るのに、5トントラックで350台分の雪を必要とし、動員される自衛隊員は延べ3390人に達するという。たまたま2週間ほど前、豪雪地で知られる札幌郊外の中山峠の山野をスノーシューで歩いたとき、第3雪像制作隊と書かれた自衛隊車両に遭遇した。こんな遠いところから運んでいるのかと思ったものだ。

じょろで箱の中に入れた雪に水をまいていた。そして水を含んだ雪をセメントのように混ぜていた。なぜそのようなことをしているのかと尋ねたら、雪がよくくっつくようにするためだと言う。北海道の雪は本州の湿った雪とは違い、さらさらしたパウダースノーである。パウダースノーでは雪像は作れず、適当な湿り気をつけなければいけないという。言われてみるとごもっとも、北海道の雪では雪合戦ができないことを思い出した。

制作段階では枠組みや雨を防ぐため、シートなどがかぶせられて見栄えはしない。ただ「完成したらこうなりますよ」という南大門の模型が、会場に置かれてあった。(写真右)

このところ急激な円高ウォン安となっている。これに伴い去年の晩秋以降、韓国人観光客が目に見えて減っているのが、観光ボランティアをしているとよくわかる。山のように積んでいた韓国語の札幌観光パンフレッドが、これまではすぐなくなって補充に追われていたのに、最近は相当残っている。せっかくの自国の南大門を、多くの韓国人観光客に見てもらいたいものだと思う。

雪工工場
大雪像に似合うのはお城である。毎年のように、全国各地の天守閣が大通公園会場にお目見えする。今年は徳川家康が作った浜松城だ。お城の足元で、半円筒の型枠に雪を詰める作業が行われていた。天守閣の瓦だという。(写真下左)また離れの小屋ではメジャーを合わせて寸法を取り、お城の部品が作られていた。(写真下右)作業をじっと見ていると木工工場にいる気持ちになった。これらは木工品ならぬ雪工品である。ここで作ったものをこれからどんどん貼り付けていくのだと言う。


隊長が雪像の見どころを説明した。天守閣の曲線と軒先の張り出し部分だと言う。曲線は寸法比率を正確に測って、曲線美を出していると言う。張り出しは骨組みを作って、雪像内に組み込んで補強すると言う。(写真右)これまでは漫然と見ていただけに、出来上がった浜松城を見るのが楽しみになった。

今現在の浜松城は下左の写真である。枠組みとシートで覆われて全貌が見えない。写真右は4年前の名古屋城である。浜松城も枠組みがはずされてライトを浴びると、このようになるのであろうか。「本物よりきれいだわ」名古屋から来た観光客が歓声を上げていたのを覚えている。


      

化粧雪
それにしても開幕まであと10日ほどなのに、制作が遅れているのではないかと気になった。隊長に聞くと、現在の進捗率は55%ほどだけど大丈夫だと言う。考えてみると細かい部分は早く作ると暖気や雨ですぐ崩れる。むしろ雪像つくりは、限りなく一夜漬けがいいのかもしれない。これからは夜遅くまで作業を進めるという。冷え込みが強まる中で大変な作業だと思う。

新しい言葉を一つ覚えた。「化粧雪」である。これからは札幌郊外から無垢な化粧雪がドンと運ばれて仕上げに入ると言う。(写真右)粉塵などで汚れてない中山峠の雪は高級化粧品である。


今回見学できたのは、自衛隊が制作している大雪像だったが、大雪像作りは最近では自衛隊の専売特許ではなくなった。市民の雪像技術も進んで、一般人が作る大雪像もある。また圧倒的に多い雪像は、職場や地域、サークルなどが作る小雪像である。

60年目の節目の今年は、雪像制作を希望するグループが増えて抽選になったと言う。すでに2m四方のサイコロ型の雪のブロックが置かれ始めた。開幕1週間ほど前から、仕事を終えた夜や週末を利用して、大車輪で雪像が作られる。制作内容は自由、毎年世相を反映したものがお目見えする。今年はどんな雪像が登場するだろうか。

雪像の材料はいずれ溶けてなくなる天然資源だけど、制作は多くの人たちの手作業である。こうした人たちによって、世界にまで知られるようになった「さっぽろ雪まつり」がお膳立てされている。と同時に雪まつりは、厳しい冬を前向きに乗り越えていこうとする、北国の住人の知恵でもある。雪像づくりの制作過程を初めて拝見して強く感じた。(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。