_blank
     
冬の森 スケッチ
【北の国からのエッセイ】 2009年02月05日

大寒から立春にかけては、もっとも寒い時期です。ところが、今年の札幌はいつもと違い、相当暖かい感じがします。防寒具を着込んだ道行く人々の表情は、寒さを警戒する表情と言うよりは、春をまもなく迎える表情のようにみえます。昼休みにはコートを着ないで食事に出るサラリーマンを見かけるほどです。

例年ですと、1月は、ほとんど一日中氷点下の真冬日が多い札幌ですが、今年は数えるほどしかないと、テレビのお天気姉さんが伝えていました。

「亭主元気で留守がいい」とよく言われます。男性の側から見ると、はなはだ都合のいい言い分ではないかと文句を言いたくなります。けど、ここで目くじら立てても話がこじれるだけです。ここは素直に受け入れ、逆に口実にして、先日、冬の野山をスノーシューで徘徊してきました。「退職後 夫が24時間家にいて息苦しいので、私が外にでてくるの」こうしたご婦人も自然観察仲間に結構います。

暖冬異変
今回訪れたのは、岩見沢郊外の利根別自然休養林です。夏の自然観察に訪れたことはありますが、冬は初めてです。大正時代に作られた周囲2kmのため池「大正池」は、80年も立ちますと、すっかり周囲の原生林と融合して落ち着いた佇まいをみせています。ところが、冬は一面の雪で「池だよ」と言われない限り畑ではないかと錯覚します。(写真上)

ガイドを先頭に、男4人女4人の平均年齢還暦以上の健脚?がゆっくり山に入りました。真っ白い雪山には、ウサギやキタキツネなどの小動物の他に、私たちがつけたスノーシューの跡だけがついています。稜線というには余りにも低い山ですが、尾根伝いに上っていきます。岩見沢は札幌より雪の深いところです。

けど、ここでも異変が起きているのに気づきます。小川のせせらぎが聞えてきました。例年ですと、小川そのものが雪にすっぽり覆われ、どこを歩いても問題ありませんが、ことしは橋が姿をみせています。早くも春近しの風情です。

積雪は50cmくらいでしょうか、例年の半分以下だそうです。これではスノーシューでなくても、つぼ足で野山を散策できそうです。

鳥のレストラン
静かな野山を足元に気をつけながら歩きますと、鳥の騒然とした鳴き声に顔をあげます。レンジャクの群れがヤドリギのたくさん付いている木に留まっていました。(写真下左)数羽単位で見かけるレンジャクですが、このように大群で見かけるのは珍しいということです。レンジャクのお目当ては、高木の高いところについているヤドリギの実です。色彩感の乏しい冬の森では、常緑のヤドリギと赤い実はとても目立ちます。


雪の重みなどで、ヤドリギの枝が折れて、地面に落ちていました。(写真上右)高くて赤い点のようにしか見えないヤドリギの実が、一杯についているのがよくわかります。この時期 レンジャクなどの鳥にとって、ヤドリギの実はゴージャスな料理です。あちこちについているヤドリギに、多くの野鳥がとまっているのをみると、ヤドリギは鳥のレストランです。

キツツキの仲間
トントントントン、
音が聞える方向に目を見やりますと、オオアカゲラです。こちらは独立体で、頭をかなづちのように打って、木の中の虫を求めています。キツツキの仲間で、アカゲラよりも一回り大きいです。かなり近いところにとまっており、お腹の筋模様まではっきり観察できました。(写真右)

木に穴をあけるオオアカゲラの首の動かし方は、とても早いです。ファインダーで覗いて、首をそらしたときにシャッターを押しても、オオアカゲラの首はもう木にくっついています。あてずっぽうに10回ほどシャッターを切りますと、一枚くらいごらんのような格好のよい?写真が撮れました。

お目当ての天然記念物クマゲラがいないかと周囲を見渡しますが、そう簡単には観察できません。ただ、クマゲラが掘った食痕はあちこちに見られます。中には幹の半分くらい削り取られた木もあり、ちょっとした風が吹くと倒れるのではないかと思うほどです。(写真下左)クマゲラはキツツキの仲間ではもっとも大きい鳥です。削った木屑を手につまみますと、その一片はミノで削ったのではないかと思うほど大きく、クマゲラの嘴の鋭さが想像されます。(写真下右)


花摘み?
歩いても歩いても森は続きます。樹木以外何もない森の中で、あずま屋などの人工物をみつけますと、なにかしらホッとします。例年ですと、雪ですっぽり埋まっているベンチの上の雪を払い、ここで昼食休憩です。食事をしながら周囲の木々を見やりますと、今この大自然の中に身をおいているんだなあと、つくづく実感します。

4時間ほど森を歩くと、どうしても生理現象を催します。私は山男でもありませんので、登山者の風習などわかりません。こういうときは、男性は「雉を撃つ」女性は「花摘みに行く」といって、藪の中などに消えてひっそり始末をしてくるそうです。そんな隠語を知らず、「なに、花を摘みに行く?おいらも行こう」などとついて行くと、ハナツマミになるそうです。

この隠語を教えてくれたご婦人「望田さんならやりかねないわね。アハハ」
山好きな女性は余り好きになれません。けど、なかなか感じの出ている隠語だと思いません?幸いなことに、ここでは休憩所の近くに簡易トイレがありました。

童心に戻る
食べるものを食べ、出すものを出して、さあ出発です。

ちょっと急な斜面に出ました。こういうところは滑るに限ります。尻すべりです。これを楽しみに森に入る人がいるくらいです。滑りがよくなるよう、お尻の下に敷く敷物をリュックの中から取り出す人もいます。スピードが出すぎると、はいているスノーシューを立てればブレーキの役割を果たします。
キャーキャー、わあわあ 
黙って滑る人はいません。童心に戻れるひと時です。

森の主
利根別原生林にも森の主がいました。エゾフクロウです。雪であまり視界がききませんでしたが、木の洞にすっぽりおさまっていました。(写真左)地面から僅か4~5mでしょうか、こんな低いところでフクロウを見るのは初めてです。しかも地面はフラット、すぐそばまで行こうと思えば行けるところにフクロウがいます。

札幌近郊の野幌森林公園でいつも観察しているフクロウは、谷一つ隔てた20mほど先の斜面にいました。このため、そばに近づくことはできず、人間とフクロウが向かい合うというお互いにとって絶好のポジションにありました。向かいにはうさんくさい動物が入れ替わりたちかわりやってくる、フクロウはこう思って私たちを見ているのだろうと、よく話していたものです。

この野幌のフクロウは余りにも有名になり、今月ついに関西からフクロウ見物を目玉にした観光バスが入りました。旅行会社の商魂もここまで来たかという感じです。自然観察のマナーなど知らない観光客は、わいわいがやがや、森の静けさを破りました。ついにフクロウは姿を消しました。こうして自然は破壊されていくのでしょうか。今度森に乗り入れた観光バスの添乗員にあったら、怒鳴りつけてやろう。フクロウはもう戻ってこないのでしょうか。

利根別原生林のフクロウの森一帯には、ロープが張られていました。そして「お願い、野鳥はとてもデリケートです。そばに近づかないで」と書かれた立て札がたっていました。この日、山で会った人はスキーをはいた人1人、スノーシューをはいたご夫婦1組の僅か3人でした。氷点下の世界ですが、静かにたたずむ冬の森を十二分に堪能しました。(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。