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毒のある食べ物
【北の国からのエッセイ】 2009年02月27日

植物には毒がある!

と言っても、トリカブトのように根から花・葉まで、すべての部分に毒がある全草有毒から、根や種だけが有毒だという部分有毒なものもある。また、ある時期は有毒だけど、その時期をはずせば毒性はなくなるという植物もある。全草有毒を除き、私たちはごく身近な食物の中で、巧みに無毒な時期を狙ったり、無毒にしておいしく食べている。人間が長い間かけて生み出した生活の知恵といえようか。

ウメ
短歌に詠まれている花と言えばサクラを指しているといわれるが、平安時代以前はウメを指していたという。そのウメといえば、菅原道真の大宰府の花を思い出す人より、まず梅干や梅酒を思い出す食通人が圧倒的に多いと思う。

梅干弁当から食前酒としての梅酒まで、ウメは私たちの食生活の中に深い関わりを持つ。とくに梅干は漢方薬にもなっており、胃を丈夫にする上、整腸作用から強心作用まであるという。おにぎりや弁当に梅干を入れるのも防腐効果があるからだという。

この役に立つウメも、ある時期に食べると死に至る猛毒を有するというから恐ろしい。ウメの実がまだ青いときである。(写真右)未成熟の青い実、種の核の中には青酸配糖体が含まれ、腸内細菌の酵素によって猛毒シアンを形成する。痙攣や呼吸困難、さらには麻痺状態になって死に至るという。昔から「ウメの青い実は食べるな」と親からよく言われていたが、科学的な裏づけだけでなく、経験が口述となって後世に伝わっているのだろう。

もっとも、梅酒は青い実を使って作る。これはアルコールによって毒性が失われているから大丈夫、おいしい梅酒となって食卓をにぎやかにする。

ジャガイモ
6月、ジャガイモ畑は一斉にうす紫の花を咲かせる。緩やかな丘に一面に咲くジャガイモの花は、北海道観光にも一役買っている。実に土の匂いのする光景である。

このジャガイモは、なぜかナス科に所属する。ジャガイモがナスと同じ?と首をかしげる方も多いと思われるが、花を見ると納得する。(写真左)ナスの花にそっくりだ。

このナス科の植物には、どういうわけか有毒なものが多い。

チョウセンアサガオ
猛毒で、江戸時代 華岡青洲が世界で初めて乳がんの外科手術を行った際、麻酔薬として使ったことで知られている。普通のアサガオよりも大型の白い花である。青洲の画期的手術は記念切手にもなっている。(写真右)

ハシリドコロ
誤って食べると狂乱状態になって走り回ることからこの名前がついた。トリカブトなどと並ぶ毒草として知られており、北大植物園で初めて観察したとき身震いがし、これが名高きハシリドコロかと思った。(写真左)じっくり観察するとかわいい植物で、花はやはりナスの花のようだった。




ナス科のジャガイモのどこに毒があるのかというと、芽と緑色を帯びた皮の部分にある。ジャガイモは昔からよく貯蔵された。貯蔵されるとよく芽が出た。(写真右)その芽をいつも切り取り、緑色の皮はむいて食べたものである。

ジャガイモの芽には毒があるというのは常識かと思ったら、最近ではそうでもないらしい。東京の小学校で、理科の時間に自分たちで育てたジャガイモを皆で食べたら、70人余りの児童が中毒を起こした。ジャガイモには芽がでていたという。こともあろうに教員まで中毒の被害にあったという。ジャガイモの生活史を教えないで、食べることが理科教育か。

学校の先生のレベルだけでは片付けられない。氷山の海面の部分しか見ていない、最近の日本の生活文化の底浅さを象徴した事故のように思えた。2年ほど前に大きく報じられた。

ナス属の学名は Solanum という。ナス属に属するジャガイモには「ソラニン」という有毒なアルカロイド配糖体が含まれている。学名と密接なかかわりのある有毒物質である。

では本家のナスに毒があるのだろうか。余り聞いたことがない。むしろ、「一富士・二鷹・三茄子」とか、「秋茄子は嫁に食わすな」とか、めでたい・おいしい例えとして使われている。今度専門家に聞いてみよう。

ジャガイモが歴史を作る
ジャガイモの原産地は、南アメリカのアンデスの高地である。スペイン人がヨーロッパに持ち込んだジャガイモ栽培は、冷涼な気候とよくあって、北部ヨーロッパを中心に広く栽培された。とくに冷涼でやせた土壌のアイルランドでは、19世紀初めの人口が300万人だったのが、ジャガイモのおかげで、わずか40年間で800万人に急増したという。このような人口の増加が多くの労働人口を発生させ、産業革命の基盤のなったという話もある。

ところが、世の中はうまくいかなかった。19世紀半ばにジャガイモの腐敗病が発生し、貯蔵イモだけでなく、畑のイモも腐敗する大被害が発生した。とくに湿度の高かったアイルランドの被害は甚大だった。100万人が餓死し、500万人が国を離れた結果、ジャガイモが導入されたときよりも人口が減ったという。単一品種の広面積栽培と連作障害の恐ろしさを証明した。(写真:じゃがいも畑)

国を離れた人はどこに行ったかというと、新天地を求めてアメリカの西部にわたった。大量の民族大移動はジャガイモが原因であったことは、インディアンと戦う西部開拓史の中でも余り知られていない。凶弾で倒れたケネディ大統領の曽祖父はこの時期のアイルランドからの移民である。たかがジャガイモというなかれ。ジャガイモがアメリカの歴史をつくったとなるとおもしろい。

今日地球上では中国・インドなどで人口が急増し、今後アフリカで爆発的な人口増が予想される。いずれは地球は食料難になり、食料争奪戦争が起きることになりかねない。そのとき、人類を救う食物は何か。トウモロコシでも、コメでも、小麦、マメでもない。ジャガイモだという講演を複数の植物学者から聞いたことがある。

ジャガイモはやせた土壌でも栽培しやすく、ビタミンやでんぷんが豊富に含まれている。茹でるだけで簡単に食べられる上、加熱してもビタミンが壊れにくい。日本では飢饉のときジャガイモは「お助けイモ」といわれたという。「このジャガイモ頭が!」などとさげすまないで、ジャガイモを尊敬しなくてはいけない。

男爵イモなど、皮を捨てるとバチがあたるような高貴な?名前のジャガイモもある。おしいただいて食べないと失礼になりそうだ。実際、ホカホカの男爵イモにバターをつけて食べると、本当においしい。幸せを感じる。日本に男爵イモをイギリスから導入した川田龍吉男爵に謝々である。函館市の隣、北斗市に「男爵資料館」があるという。当地を訪れたときはじっくり見学してこようと思う。
(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。