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絶滅危惧種 ホッキョクグマの双子
【北の国からのエッセイ】 2009年03月24日

20日、札幌・円山動物園でホッキョクグマの双子の赤ちゃんが公開された。

春分の日とはいえ、この日の札幌はみぞれ混じりの北風の吹きつける、寒さ逆戻りの一日となった。それでもシロクマの双子の赤ちゃんを見ようと、地元だけでなく、遠く東京などからも大勢の観光客が訪れた。

初の一般公開
円山動物園は、天然記念物の原始林が生い茂る札幌のシンボル円山(標高226m:写真右中央)の麓にある。原始林があるとっても、札幌の都心部に位置し、緑豊かな札幌の町の象徴でもある。

この動物園で去年の暮れ、ホッキョクグマの双子が生まれた。「ホッキョクグマ」と言われているが、全身は白い毛でおおわれ、むしろ「シロクマ」のほうが通りがよい。

初めて一般公開された20日、歩いて20分の円山動物園に行った。年齢のおかげで今年から入場無料である。園内に入ると、他のコーナーには客がほとんどいないのに対し、シロクマのコーナーだけは黒山の人だかりだった。テレビが入り、あちこちでリポートやインタビューが行われていた。

午前中外に出てきたのは母親のララと、一頭の赤ちゃんだけだった。赤ちゃんといっても体重は10kgを超え、体長60cm、普通のイヌ並の大きさである。ただ、体長2m強、体重200kgを越す母親から見ると、かわいい赤ちゃんだ。母親の足元にまつわりついている。

午後になって、ようやくもう一頭の赤ちゃんも外に出てきた。どうやら昼寝をしていたらしい。2頭の赤ちゃんは、さっそくじゃれあいはじめた。そのしぐさが実にかわいい。ぬいぐるみのようだ。この日は寒さがぶり返して日中は氷点下になったが、シロクマには寒さが当たり前、元気にじゃれあっている。

雪のある斜面を上ろうとしても滑り落ちてしまう。「あ~あ」見物客から一斉に歓声が上がる。イチローのセカンドゴロのため息の「あ~あ」とは違う。語尾に温かさが感じられる歓声だ。

地球温暖化防止の象徴
ホッキョクグマは陸上最大の肉食動物である。北海道に棲むヒグマも大きいが、ホッキョクグマのほうが一回りも大きい。

この動物が最近世界的に注目されている。地球温暖化の影響で北極海の氷が少なくなって、ホッキョクグマの棲息場所が狭まり、個体数の減少が心配されている。このため、世界の科学者などでつくる国際自然保護連合(IUCN)では、ホッキョクグマを絶滅危惧種・希少動物に指定している。温室効果ガスの排出規制に消極的なアメリカも、昨年ついに北極海の氷の減少で、ホッキョクグマが近い将来絶滅の危機に瀕するとして、アラスカ州に棲息するホッキョクグマを絶滅危惧種に指定することを決めた。アメリカが地球温暖化を認めた具体的な行動として捉えられた。ホッキョクグマは地球温暖化防止の象徴となった。

オス転じてメスに
去年11月 釧路動物園からびっくり仰天のニュースが飛び出した。繁殖のため円山動物園から釧路動物園に婿入りしたホッキョクグマの「ツヨシ」が、オスではなく、メスであったことが判明した。

今頃になってなぜ?と大半の人が思ったことだろう。どうやらホッキョクグマは、人間と違って?外形だけでは雌雄の判別が簡単にできないらしい。 釧路動物園に婿入りしたツヨシは、繁殖期に入ったメスと同居はしたものの、半年過ぎても子孫を残そうとする行動はとらず、ツヨシはほんとにオスだろうかと疑われはじめた。いろいろ調べてみたけどよくわからず、ついにツヨシに麻酔銃を打ち込んでの強制調査、その結果メスだとわかったという。

そのせいか、性別を間違ってツヨシと名づけてしまった「生家」の円山動物園は、新たに生まれた双子の赤ちゃんに名前をつけるのにはとても慎重だ。近くDNA鑑定をしてから名前をつけるという。

オスからメスになったツヨシは、名前は依然オスの名前だけど、「あなたがほしい」というオスがあちこちから現れた。まず、秋田の男鹿水族館から「ぜひ嫁に来てほしい」、つづいて大阪の天王寺動物園からも猛烈なラブコール、双方の館長や園長は「釧路動物園詣で」をはじめた。「うちの男やもめにお嫁さんを」そして「絶滅危惧種の子孫を残してほしい」まさに天から降ってきた絶好のチャンス到来と思えたのだろう。天王寺動物園では2万5000人の署名簿を添えて地元の熱意をアピールした。プロポーズ大作戦である。

動物の行動展示
シロクマはどこの動物園でもほしがっている現代の寵児となっている。

動物園の寵児、旭川の旭山動物園ではどうしているのだろう。日本最北の小さな動物園に訪れる入園者は年間300万人、規模が日本一の東京・上野動物園をもしのぐ、集客数日本一の超人気動物園である。動物を単に檻の中に入れただけで「どうぞ見てください」とう従来の動物園から、動物の生態系を見てもらう「行動展示」というアイデアが受けた。動物園は子供だけの施設ではなくなった。大人も楽しめる施設にした旭山動物園の功績は大きい。景気の低迷がつづく北海道で、旭川周辺だけは動物園景気で沸いた。

 

このところ、毎年旭山動物園を訪れている。散歩するペンギンとともに人気となっているのがホッキョクグマである。プールの壁に窓をつけ、300kgの巨体でたくみに泳ぐ姿を目の前で見ることができる。ダイビングも圧巻だ。写真上右は飛び込む寸前のポーズである。迫力がある。これこそ行動展示の粋と感じた。

それだけではない。敷地に半円形の透明ドームが、埋め込まれるように設けられていて、そこからノシノシと歩くシロクマを目の前で見ることができる。写真右の子供が顔を出しているのが、透明ドームである。これは、北極海で氷の隙間から顔を出すアザラシをすばやく捕らえて餌にするホッキョクグマの習性を、見事に反映させたアイデアである。半円形から顔を出す人間は、シロクマにとってアザラシということになろうか。感心したものである。



華麗な?閨閥
メスとわかった釧路動物園のツヨシはどうなるのだろうか。

1月、北海道内にある4つの動物園、円山(札幌)・旭山(旭川)・帯広・釧路の動物園長会議が開かれた。その結果、成熟期に入った釧路のメスの繁殖をはかるため、円山動物園のオス「デナリ」(写真左)が釧路に送られることになった。道内には繁殖可能なオスは、「デナリ」と旭山動物園の「イワン」の2頭だけで、繁殖実績のあるデナリが選ばれた。

これにより、釧路のメス「ツヨシ」の行き場がなくなった。嫁入り先ついては、釧路動物園長の判断に任せられた。秋田になるのか大阪か、それとも第3の道か、これだけ世間の注目を浴びると、釧路動物園長も慎重に判断せざるを得ないことだろう。

円山から釧路に「異動」することになった「デナリ」は15歳、オスと間違われた「ツヨシ」の父親でもある。と同時に、この日一般公開された双子の赤ちゃんの父親でもある。ということは、ツヨシと双子の赤ちゃんとは兄弟ということになる。「デナリ」はいまや日本国内でもっとも優秀な「種クマ」となった。

双子の赤ちゃんは、華麗な?閨閥の一員となったとは、つゆ知らず、無邪気に戯れている。いずれオスかメスか判明するであろう。どちらになるにせよ、数年後には間違いなく引っ張りだこのスターの道が約束された寵児である。(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。