_blank
     
儚きカタクリ 今盛り 
【北の国からのエッセイ】 2009年05月01日

4月も下旬になりますと、北海道は都会も野山も一斉に花が咲き始めます。本州ではとうに散ってしまったサクラはまだつぼみですが、サクラより先に咲く早春の花ほど、長かった冬との決別を実感させるものはありません。野山が一気に胎動し、明るくなります。

お尻がむずむずし始め、私にとって一年で一番忙しい時期です。

大型連休が始まった29日、カタクリの一大群生地・旭川郊外の突硝山(とっしょうざん)にでかけてきました。この日の旭川の朝の気温は氷点下2度、日中の予想最高気温は17度です。こういう寒暖の差の大きい日こそ、抜けるような青空が広がり、絶好の自然観察日和となります。

札幌から高速道路で一路北上です。日本一の米作地帯・空知(そらち)平野の田にはまだ水は張っていなく、目覚めたばかりの黒々とした土が延々とつづきます。遠くにそびえる日本海側の暑寒別連山は、上の方はまだ白く、空気が澄んでとても近くに見えます。(写真右)

高速道路を突っ走ること2時間、お目当てのカタクリの里、突硝山につきました。雑木林が一面の里山・突硝山は、日本でも有数のカタクリの大群生地で知られ、恋人に会うかのように毎年訪れています。ところが、一番の見ごろというときには、まだ一度も遭遇していません。

はかなき命のカタクリです。もう終わりかけだとか、まだ残雪があってちょっと早かったとか、なかなかうまくいきません。おばあちゃんでも子供でもない、年頃のカタクリの大群落を見たいものだ。今年は情報を収集し、天気図も綿密にチェックしました。

山一面の見事なカタクリが迎えてくれました。森の妖精が乱舞していました。(写真左)


もののふの 八十(やそ)乙女らが 汲みまがう 
寺井の上の 堅香子(かたかご=カタクリ)の花


万葉の時代から詠われているカタクリほど、日本人の心を捉え続けてきた野の花を、他に知りません。雪解けとともに咲き始める、色は可憐なピンク色、花の咲き方が籠のように反り返る、花の命はせいぜい2週間・・・健気に生きるカタクリは、昔は全国どこにでも咲いていたのでしょう。けど、今は限られたところでしか観察することができません。

カタクリは発芽後、葉は一枚しか出さず、花も咲きません。りん茎といわれる根の部分に、養分が十分に蓄えられると初めて葉が2枚になり、花茎が立ち上がって花を咲かせます。(写真右)

この間、発芽から開花まで7~8年もかかります。そして開花して僅か2週間くらいで花は終わります。なんともはかなき命です。 それを思うと、路傍にはみ出しているカタクリの花をとても踏む気になりません。


満開のカタクリですが、北向きの斜面などにはまだつぼみのカタクリもあり、これがいずれバレエリストのように、花弁が反って開花すると思うと楽しいです。(写真左)

カタクリは根はでんぷんが豊富で、かつては片栗粉として食用になっていました。江戸時代には病人に与える貴重な薬となっていたようです。カタクリの花粉はハチやチョウによって運ばれます。花が下向きに咲いて満開のときは、おしべとめしべがむき出しになります。


受粉してできた種は直径が2mmくらいの楕円形ですが、これにアリさんの大好物の甘いものがついています。エライオソームという附属体で、種子が落下しますと、甘い匂いに誘われたアリが集まり、せっせと巣に運びます。アリがエライオソームを食べると、種子は周辺に散布されることになります。

カタクリの一生には、アリが大きな役割を果たしており、植物と昆虫の関わりを興味深く鑑賞することができます。(写真右:カタクリの実 07.5突硝山)


カタクリの学名は
Erythronium japonicum (エリスロニウム・ジャポニクム)
属名にはアリさんが大好きなギリシャ語が付いており、種名には「日本の」という単語が入っています。 けど、カタクリは日本特有ではありません。去年、北大の先生からアメリカ・ロッキー山脈のカタクリを見せてもらいました。あちらに咲く自生のカタクリはピンクでなく黄色でした。

えっ カタクリが黄色?びっくりしましたが、最近では品種改良した園芸種で、黄色いカタクリが花屋さんに出ているようです。この日の一番の花はこの写真です。(写真左)

ピンクでも黄色でもありません。数百万も咲き乱れているカタクリの中から、たったひとつ、突然変異の白いカタクリを観察することができました。 (完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。