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植物の性表現
【北の国からのエッセイ】 2009年05月19日

ぎょっとするような題名で驚かせてすみません。艶かしいことが書ければいいのですが、そちらの方は力量不足でご期待に沿えません。しかし、花の観察をすると生物の神秘さに驚くばかりで、むしろ次の世代に命を託そうとするメカニズムは神々しいばかりです。

生物は、ごく一部を除いてオスとメスがあり、一緒になって子孫を残します。これが性の基本です。人間で言えば男と女で、それぞれ別の個体です。ところが、植物のオスとメスはそんなに単純ではないようです。とても複雑で変化に富んでいます。

両性花
単に花といえば、昔からサクラをさしました。札幌では大型連休期間中に開花宣言されましたが、わずか3日ほどで満開となり、その翌日から散り始めで、エゾヤマザクラやソメイヨシノはあっという間に終わりました。代わって、開花の遅いカスミザクラやサトザクラなどが今満開です。

サクラの花を見ますと、5枚の花びらの真ん中に、多くのおしべと、1本のめしべがあります。(写真:エゾヤマザクラ)このように一つの個体(花)の中に、オスの生殖器官のおしべと、メスの生殖器官のめしべがある花は「両性花」といわれています。

人間を含む動物の世界では、ちょっと考えられないことですが、被子植物の70%が両性花といいますから、植物界ではこれがもっともポピュラーな性表現といえそうです。

雌雄異花
これに対してカツラの花はどうでしょうか。カツラは、おしべだけを持つ雄花と、めしべだけを持つ雌花は別々の木です。(写真左:カツラの雄花)「雌雄異株」と言われています。イチョウやヤチダモなどもおなじ雌雄異株です。

4月下旬、都心の円山や藻岩山が真赤に色づきました。北海道では紅葉が2度見られるとよくいいますが、その正体はカツラの花です。雄花も雌花も赤いですが、とりわけ雄花は赤く、これが山を見事な紅色に染めます。

まだ雪が残る早春の野山のいたる所に、いち早く顔を出すのがフキノトウです。これも雌雄異株で、何年も観察してると色合いと花芽のこみ具合などで、オスメスを識別できるようになります。典型的な雄花と雌花が寄り添っていました。写真下左:右側が雄花で左側が雌花です。


オスは役割を果たすとすぐ枯れますが、受粉したメスはオスとは対照的に、新しい命をもらい1m近くまで育ちます。そして見事な白い種をつけて次の時代に託します(写真上右)

一般的に植物界では役割を終えたオスには老後はなく、哀れな野垂れ死にとなります。これに対し、次の世代の命を宿したメスは、生命を謳歌します。フィールドワークで専門家からこういう話を聞きますと、身につまされ、せめて濡れ落ち葉にならないよう前向きに生きなければと思います。「サードエイジは女性の時代よ」自然観察に参加する圧倒的多数はご婦人で、その息遣いが荒く聞えるように思えるのは、気のせいでしょうか。

雌雄異花同株
同じ株(木)にオスとメスがいながら別居している植物もあります。シラカンバがそうです。「雌雄異花同株」といわれています。枝先にだらりと毛虫のように垂れ下がっているのが雄花です。これに対し、同じ木のすぐ近くに、細く上に向いているのが雌花です。(写真右:斜め上に向いている)

シラカンバは風によって受粉する風媒花です。風媒花は全般的にとても地味です。これは受粉のために、虫をひきつける必要はないからで、お化粧はしません。

人間はどうでしょうか。風まかせでは婚期を逸してしまうかもしれません。年頃になると女性が積極的にお化粧し始めて虫(男性)の気を誘う― とても自然ということでしょうか。

シラカンバの雌花は地味ですが、雄花が放出する花粉をキャッチしたら生き生きと新しい生命を宿します。これに対し、花粉を巻き終えただらりと垂れ下がった雄花は、ここでもあわれ、地面に落ちて屍の山を築いていました。

性転換
雄花と雌花の組み合わせはもっといろいろあり、とても変化に富んでいます。

マムシグサという怖そうな名前の草があります。コウライテンナンショウというロマンある名前を持っていましたが、学会ではマムシグサに統一したようです。茎の模様がマムシに似ており、先端がとぐろを巻くような形をしているからマムシグサという名前になったようです。(写真左)


この植物を有名にしたのは、途中で性転換をすることがわかったからです。栄養状態が悪いときはオスで、環境が変わって栄養状態が良くなるとメスになるそうです。オスは安上がりにできているのでしょうか。

花の構造図
被子植物の花はどうなってるの?

高校時代、よく寝ていた生物の教科書や植物図鑑などに、右の写真のような図がよく見られました。一番外にがくがあって、花びら(花冠)があり、その中に多くのおしべ(やく)と1本のめしべ(柱頭)があって、めしべの基部に子房があって、その中に一番大切な胚が包まれている・・・被子植物はみなこういう構造になっているのでしょうか。どうやら答えはノーであるということを、最近になって知りました。

ミカンの子房はどこに、いくつあるでしょうか。ミカンをむいてでてくる房の数だけあります。つまり一個のミカンに子房は8~11あります。では、バナナの子房は?というと、少し柔らかくなったバナナを折ると3つに折れませんでしょうか。そうです。子房に沿ってまとまるように折れます。ではイチゴはといいますと、表面の粒粒の数だけ子房があるといいますから、これは無数です。

つまり胚珠を包んでいる子房は、必ずしも図のように、1個体ひとつではないということがわかります。図鑑の構造図は、被子植物の最大公約数の構造図とうことでしょうか。植物は長い間かけてそれぞれ独自に進化して、今日に至っています。

札幌のサクラの名所、円山公園は、連休中、花見客で賑わいました。そばを通るとジンギスカンの匂いがぷ~んと漂ってきました。連休も終わり、花も散った9日10日の週末はというと、連休と全く変わらず大賑わいでした。(写真10日 円山公園)花はどうでもいいんですね。花見は名目で、市民は自然豊かな公園でジンギスカンをつついては歓声をあげていました。

あちこちに円陣ができていますが、よくみますと、雌雄異株はありませんでした。みな雌雄同株の両性花でした。人間もオスとメス双方がいて初めて和が保てる生物だと、改めて思いました。(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。