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新型インフルエンザ騒動
【北の国からのエッセイ】 2009年05月22日

新型インフルエンザウイルスはついに日本に上陸し、あれよあれよという間に感染者は292人(5月21日現在)、世界でもアメリカ・メキシコ・カナダに次ぐウイルス汚染国となった。

新型インフルエンザウイルスの感染力は、相当強いようだ。抗体を持ってない以上、当たり前といえば当たり前だが、現実に目に見えない病原体が体調不良という形で人間に拡大しているのが判明すると、改めて病原体の恐ろしさを感じる。 こうなると「一たび外に出ると、みな敵だとおもえ」。聞いたような言葉だが、敵の対象となるのは人間だけではないようだ。

空港での検疫は、感染者を直接見つけるもっとも有効な方法ではある。しかし潜伏期間が1週間ほどあるため、発病前に帰国することが十分考えられ、水がザルからもれるが如きでもある。その結果、帰国後発症となれば、発症前に国内で接触した人は際限なく広がり、フォローは困難となる。

こうして新型インフルエンザウイルスは、関西では点から線、線から面とひろがって、さらに首都圏でもみつかった。今後もどんどん広がることだろう。

ただ、幸いなことに新型インフルエンザウイルスは弱毒性のようだ。この1ヶ月間の感染者の状況から、香港型・ソ連型などの通常のインフルエンザと変わらないと指摘する専門家もでてきた。この結果、強毒性の鳥インフルエンザを想定した政府の対応マニュアルも、柔軟な対応へと変化させる気配もでてきた。ただ、現在は弱毒性でも強毒性に変異することは、猛威を振るったスペインかぜの経験から十分予想され、まだ人類が抗体を持ってない新型インフルエンザの警戒を怠るわけにはいかない。

新型インフルエンザに有効な薬として「タミフル」という抗ウイルス薬がある。若い人が服用すると、異常行動を起こす副作用があるとして話題になった薬である。スイスの製薬会社が製造しているが、日本が70%を消費してるという。日本での大量消費はスモン・クロロキン・コラロジル・・・世界でも例のない数々の薬害を発生させた、20世紀後半の薬漬けニッポンを連想させて、気分はあまりよくない。

そうはいっても、タミフルは新型インフルエンザには有効だ。患者はタミフルか、吸引薬リレンザのどちらかを必ず服用する。タミフルは処方薬であるため、一般には市販されていない。

海外の汚染地域に出かけるのに、予防薬としてタミフルを持っていけないのだろうか。毎月通っている病院の主治医に聞いてみた。

すると、病気でもないのに薬はだせないという。それではタミフルを入手するには、新型インフルエンザに罹患しなければもらえないのだろうか。医師にちょっと石を投げてみた。

「国をあげて懸命に拡大防止を図ってるのに、病気になってから出しましょうではちょっとおかしくないですか。
舛添大臣は3800万人分の備蓄があるので安心してほしいといっているが、病気になってから安心してほしいということですかねえ」

するとドクター曰く、「俺に聞かれても困るよ。厚生労働省に聞いてくれ」

ごもっともである。

それでもドクターは関心を持ったと見え、「ちょっと医事課に調べさせてみよう」

しばらくして、「タミフルを出しましょう」

ただ、予防薬の場合は保険の対象外となるということだった。そして「一錠いくらで10日間で・・・」と言いはじめた。

「せ、先生、そんな高いのいらないわ。」

「もし持っていくなら最低7日間は服用しなければ効果がないんだよ」

「先生 それは旅行前から服用するのですか。それとも現地に行ってから。あるいは症状がでてきてからですか」

「初めてのケースで俺も知らない。製薬会社に聞いておくからまたいらっしゃい」

それにしても、国の危機管理に直面した場合、新型インフルエンザに有効な薬を臨機応変に活用できないものかと思う。舛添さん、考えてみてよ。海外で非常時にタミフルを入手・服用できる方法は、現段階では医師が同行するなら先ず間違いないだろう。そうでなければ保険外で入手するしかない。

地球上でもっとも恐ろしい病原体は、致死率の高いエボラ出血熱・マールブルグ・天然痘などの、いわゆる取り扱い最注意の「P4レベル」といわれるウイルスではなく、レベルの低いインフルエンザウイルスであるということを専門家から聞いたことがある。世界の人口が不自然な推移を示すのは、戦争とインフルエンザの蔓延で、インフルエンザが大流行すると世界の生命保険会社は、保険料の掛け率の見直しを検討するそうだ。

こうした目に見えない病原体の蔓延が予想される場合の防御方法としては、マスクをつけたり手洗いやうがいをまめにするなど、初歩的対応を愚直にするしかない。ただ、報道によると、欧米ではマスクをする一般市民はほとんどいないようだ。マスクをするということは「私は保菌者ですということ示すことになる」というコメントをみた。日本ではかならずしもそうではない。生活慣習の違いからくるものだろうか。

今回のインフルエンザ騒動で一番不思議に思うのは、若い人が感染し、お年寄りが感染したという話を聞かないことである。インフルエンザが怖いのは、感染すると体力のないお年寄りが肺炎などをおこしてそのまま昇天するケースが多いからだ。

なぜ今回、年寄りの感染者が余り聞かれないのだろう。もしかしたら、長い人生のなかで「清濁併せ飲んで」生きてきたからだろうか。知らない間にインフルエンザH1N1型ウイルスの親戚を飲み込み、抗体ができているのだろうか。もしそうだとしたら、これまた興味深いことだ。

寺田寅彦がいうように「ものを正当に怖がることは難しい」ことかもしれない。けど、怖がりすぎて経済や生活をシュリンクさせることは大きな損失である。また、怖がらなくてパンデミックを引き起こすような状況を起こすのは、もっとも不幸なことだ。集団心理に陥って思考停止にならないよう、冷静な対応が強く望まれるのが危機管理である。

インフルエンザウイルスはいろいろブラフをかけて、人間の知恵を試しているのかもしれない。(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。