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イベリア半島への旅(1)
【北の国からのエッセイ】 2009年06月15日

どんなに遠い国でも身近に感じる国もあれば、やはり遠い国もある。

私にとってフランスやイタリアは近くても、その隣のポルトガルやスペインはとても遠い国であった。せいぜい鉄砲伝来か、闘牛・フラメンコ、それにサッカーの盛んな国ぐらいの認識しかない。そのイベリア半島に行きませんかというお誘いが、趣味の囲碁サークルからあった。

碁学は少し出来ても、語学のほうは全くだめ。外国語のガイドで各地を回っても寝るのがオチとわかれば、折角のお誘いにも躊躇する。ところが、旅行会社の社長が大の囲碁好きで、長らくスペインに住んで当地で囲碁普及の礎を築き、両国の文化交流に功績があったとして外務大臣表彰を受けた人である。囲碁愛好者がスペインに見えるとならば「全行程ベテランの日本人ガイドをつけましょう」といってくれた。遠い国も近くに感じる絶好の機会といえる。

あとわずかな人生、地中海の入り口をふさぐような形で、大西洋に突き出ているイベリア半島に向けて、アクセルを踏んだ。

手談で交流
一行は「日本メール碁会」の会員である。メールで全国の囲碁愛好者と碁を楽しんでいる仲間である。碁盤のソフト画面に一手打ってはメールで送り、相手も一手打っては送り返してくる。旅に出て不在のときは数日間メールは途絶え、たまたま共に、パソコンの前に双方座っていれば、一日に数手進むこともある。

メールが入っていれば自分の手番だ。いつ打ってもよい。大会の持ち時間は二人合わせて半年間である。

会ったこともない全国の会員と勝負がつくまで250回ほどメールを交換し、季節の候などを添え書きしていると、次第に昔から知っている錯覚に陥る。対局者のイメージが勝手にでき上がるのが面白い。碁は相手がいなければ打てないが、目の前にいなくても打てるのがメール碁である。世の中便利になったものだ。

このメール碁会、生き生きとしたシニア世代の優秀団体として、その筋から全国表彰を受けたこともある。首都圏の会員が大半であるため、単にメールだけでなく、定期的に顔を合わせて他のサークルと懇親対局をしたり、囲碁とは別に、各地に見学会を催して見聞を広めているようだ。地方にいると参加はできないが、メールで碁が打てるだけでも、これまた楽しと思って会員の末席に名を連ねている。

日本のインフルエンザ?
幹事のご尽力で、スペイン旅行計画が1年かけて順調に進んでいる中、突然出発1ヶ月前、目に見えない微生物が私たちの行く道をふさいだ。新型インフルエンザ騒ぎである。メキシコから端を発した新型インフルエンザは、瞬く間に世界に蔓延し、こともあろうにスペインが、ヨーロッパ最大の流行地になっていた。中止か、延期か、続行か。 (写真右:スペインの首都マドリード

参加者は社会の第一線を退いて、静かに余生を送っている人たちばかりである。出発直前なので、それなりのキャンセル料は痛いが、ここは無理することはないという気持ちになっても当然のことだろう。ところが、危機に対してきちんと対応し、相手を討ちのめすことこそ囲碁の真髄と思っている人が多いのか、アンケートの結果参加者は少し減りはしたものの、企画は決行された。肉体は衰えても精神は若者だ。

幸いなことに出発時には、それほど強い症状ではないこと、年配者は罹りにくいなど、追い風となる情報が出回った。万全の体制をとり出発したが、スペイではマスクをする市民は 皆無で、ニュースにもなっていなかった。参加者の中押し勝ちである。(写真左:ポルトガルの首都リスボン

スペイン在住の日本人社長曰く、
「大騒ぎをしている日本とスペインとの落差がありすぎ、地元では日本インフルエンザと言っています。」

(つづく)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。