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イベリア半島への旅(5) ~ 街をうるおす南国の街路樹 ~
【北の国からのエッセイ】 2009年06月25日


ポルトガルでもそうだったが、スペインでも大都市の街路樹に、プラタナスが圧倒的に多いのに気づく。(写真右:セビリア)
フランス・イタリアもプラタナスが多いが、もう一段南下したイベリア半島でも、プラタナスが街路樹の主役だった。大きな葉と、枝からぶら下がるゴルフボールのような丸い実。 プラタナスがマロニエ・シナノキ類・ニレ類と共に、世界4大街路樹種のひとつであることに、改めて納得した。

モミジバスズカケノキ
プラタナスは成長が早くて公害に強いうえ、手のひらのように大きい葉は、街路樹に必要な緑の陰を作ってくれる。「緑陰樹(りょくいんじゅ)」ともいわれる由縁である。また、枝に垂れ下がる直径3cm前後の実が、じつにかわいい。樹皮はうろこ状に剥げ、鹿の子まだらの淡緑色になるのが特徴だ。ひらたくいえば、幹は自衛隊の迷彩色のようだ。

札幌でもプラタナスは5番目に多い街路樹で、雪が降る冬になれば、枝に残る丸い実が白い帽子を被る。じつに絵になる街路樹である。(写真左:札幌  6.12撮影)

和名は「モミジバスズカケノキ」である。モミジのように大きな葉、実は山伏が羽織ったひもに垂れ下がった鈴に似ていることからこの名がついた。厳密に言うと、ヨーロッパのプラタナスと、日本で見られるモミジバスズカケノキは分類学的にちょっと違うが、親戚同士なので総称して日本ではプラタナスといっており、和名をいう人は少ない。

ただ♪ 友と語らん  鈴懸の径 通いなれたる 学び舎の街 やさしの小鈴 葉陰になれば 夢はかえるよ 鈴懸の径 ♪
戦時中にできた歌とは思えない叙情詩を通じて、スズカケノキはそれなりに親しまれている。

ところが、こちらに来て驚いたことがある。プラタナスの街路樹がじつに高いことである。こちらのプラタナスの街路樹はみな20m以上あり、道路に面するアパートの4階以上に達している。(写真右:マドリード)

プラタナスはもともと放っておけば、25m以上になる高木だ。札幌では公園内にそのような大きな大木を時々みかけるが、街路樹ではまずない。電線の邪魔になることもあるが、何よりも住民から窓が遮られて陽が入らなくなると、苦情がくるからだ。このため、札幌市は定期的に剪定して、一定以上の高さにしない。

その剪定の仕方も、トラ刈りのように枝をどんどん切ってしまう。するとまた市民から、「乱暴な剪定の仕方だ、もうちょっと風情のある剪定の仕方ができないものか」と苦情が相次ぎ、毎年のように新聞ネタになる。

フランスのカンヌで、札幌より徹底した剪定をしたプラタナスに遭遇したことがある。(写真左:5.05撮影)

極端に言うと、幹だけ残して枝は殆ど切っている。最初のセビリアの写真をごらん頂きたい。枝分かれした部分からすべて切った状態である。住民になぜこんなに切っちゃうのかと尋ねたら、すぐ大きくなり4年に一度は丸坊主にするんだという返事が返ってきたのを思い出す。

スペインでは、プラタナスがこんなに大きくなって住民の苦情がないのか、当地在住28年の日本人ガイドに聞いてみた。すると驚くべき返事が返ってきた。「苦情は全くありません。むしろ街路樹によって日陰になるアパートは、高くてステータスがあります」

う~ん ところ変われば価値も変わる。何事も多面的に見なければならないと思った。

新鮮! ムラサキの街路樹
道行く市民に安らぎを与えてくれる街路樹であるが、これまで見たことがない花の色の街路樹に遭遇した。車窓から見えるムラサキ色の街路樹。寝てない限りは目に飛び込んでくる新鮮な街路樹だ。(写真右:リスボン)

あの木は何という木だろうか。ガイドは車内の客の関心が向いているのを見透かすかのように、質問をしないうちに「左に見えるのはジャカランダです」と言った。聞いたこともない木だ。今が一番の見ごろだそうで、「皆さん良い時期に訪れました」と、観光客の心をさらにくすぐる憎いことを言う。

翌日、早朝の散歩でさっそくジャカランダの木の傍まで行ってじっくり観察した。

花が鐘状で、一見キリの花に似ていると思った。(写真左)しかし、葉はキリとは全く違う。帰って調べてみると、和名がなんとキリモドキと記されていた。格の高い僧侶の袈裟、まもなく4年ぶりにお目見えするであろう解散詔書を包んだふくさ、これらはみなムラサキ色である。

こうしたムラサキの花の街路樹が、札幌にもあってもいいなと思うが、残念ながらジャカランダは亜熱帯地方の植物だ。日本では西日本で単発で散見されるというが、街路樹として植えているところがあるのだろうか。

黄色いアカシア
高木に一杯咲きそろう黄色い花、風にゆれて蝶のようにひらめく花の街路樹もあちこちで見られた。(写真右:セビリア)

葉は鳥の羽のような羽状複葉である。札幌に住んでいる人なら、一見しておなじみのアカシアの仲間だとわかる。アカシアは、札幌ではナナカマドに次いで多い街路樹で、札幌市の木を決める市民投票で、ライラックと最後まで争った木だ。

ただ、札幌のアカシアの花は、黄色でなく白だ。しかもアカシアではなく、ニセアカシアである。かといって日本のニセアカシアが、にせものということではない。学名の種名をそのまま直訳した為に、このような和名がつけられてしまった。(写真下:ニセアカシア  札幌 6月)

話は少しずれるが、「ニセアカシア」では余りにもかわいそうだということで、アカシアのほうを「ホンアカシア」と呼び、ニセアカシアを「アカシア」にしたらどうかという意見が以前あったという。

命名したフランスの植物学者の名前からついた、ニセアカシアのフランス語「ロビニア」にしたらどうかという有力意見もあったが、決定打がでないまま今日に至っている。

これは本物のアカシアが、日本ではよほど暖かい場所でなければ育たなく、ニセアカシアをアカシアといっても競合しないため、実用的には差し支えないからだという。

♪ アカシアの雨に打たれて・・・♪  ニセアカシアの雨に打たれて ではムードもなにもない。また♪ この道はいつかきた道 ああそうだよ アカシアの花が咲いてる♪

これを、ニセアカシアにしなければいけなかったら、札幌を訪れた北原白秋はこの歌を絶対に詠まなかっただろう。アカシアの黄色の花は珍しかったが、やはり白に趣がある。札幌に帰国したとき、ニセアカシアの白い花はちょうど花吹雪、ポプラの綿毛とともに風に舞っていた。


街路樹は街のイメージを表現するポイントでもある。スペインではユーカリ(写真上左)、ヤシの実(写真上右)、オレンジなどの街路樹も散見され、ああ、やはり南の国に来たんだなあと実感した。(つづく)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。