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イベリア半島への旅(6) ~ スペインの原風景 ~
【北の国からのエッセイ】 2009年06月29日

スペインの南西部の3分の1はアンダルシア地方と言われている。これらの地域に点在するセビリア・グラナダ・コルドバなどの古都市には、それぞれ世界遺産に指定されている歴史的建造物がある。

スペインには世界遺産の価値が低くなるのではと思うほど、世界遺産に指定された建物や景観が多い。イベリア半島の位置する地理的関係から、イスラム・キリスト、それにアラブ・ユダヤの宗教と人種が、長い歴史の中で憎しみと融和を繰り返してきた証の建物群である。

これらの背景を理解するには余りにも短い旅であり、ガイドの丁寧な説明にもかかわらず、消化率はきわめて低い。しかし、これらの都市を育んだ自然環境は単純で、とてもよく理解できる。イベリア半島の台地に広がる自然を求めて、日本から訪れる観光客も少なくないという。

排気ガスに強い植物

アンダルシア地方を移動するバスは、ほとんど高速道路を走る。といっても日本のようにきちんとした設備された高速道路ではなく、一般国道のようで信号がないだけだ。時速100キロで突っ走る。

赤茶けた原野を走れば走るほど目に付く植物は、エニシダの黄色い花だ。(写真右)路肩や道路わきののり面に延々とつながっている。エニシダは地中海が原産なので、まさにご当地の植物である。乾燥に強く、フランス、イタリアの高速道路沿いにもよく見られる。花を見るとセンダイハギに似た印象で、柔らかい黄色の花がスピードの恐怖を緩和させてくれる。

ガードレールなどちょっと整備された高速道路では、中央分離帯にキョウチクトウが意図的に植えられ、これまた延々とつながっている。(写真左)キョウチクトウ(夾竹桃)は、葉が竹のように細く、花が桃のようなことからこの名がついた。赤・白・ピンクなど花の色もさまざまで、ガードレールを覆いつくすように咲いている。柔らかいエニシダと違って、こちらは暑さを感じさせる花だ。

キョウチクトウは排気ガスと乾燥に強い植物である。被爆してすべてを破壊し尽された広島の焼け野原に、いち早く顔を出したのがキョウチクトウだ。その生命力の強さと復興のシンボルとしてキョウチクトウは広島市の花となっている。

スペインとひまわり

バスは突然舗装されていない道路に入って止まった。ひまわりが一面に咲いている。(写真右)一行から歓声が上がった。みごとなひまわり畑である。ご婦人たちはひまわりの中に入ってポーズをとっている。ひまわりと一緒に写真を撮ると、若くてきれいに見えると思っているのだろう。

スペインのひまわりというと、絵画の世界だと思っていた。一行の中に絵ごころのある人もいて、ひまわり畑の見物を希望していた。ひまわりはそれほど珍しい植物ではないけど、こうしてひまわり畑にたたずむとスペインを感じるのが不思議だ。

スペインのひまわりを見てちょっと驚いたことがある。茎丈が50センチほどしかないのに、もう花が咲いているのだ。北海道にはあちこちにスケールの大きいひまわり畑があり、背丈も2m以上と高い。とくに北空知の北竜町はひまわりの町として知られ、ひまわりを活用した町おこしをしている。夏になるとひまわり迷路を作って、子供たちは背丈以上のひまわり畑を駆け回って出口を探している。(写真左)


スペインのひまわりは、写真撮影に好都合なひまわりだ。大航海時代にアメリカ大陸から持ち込んだものだという。

ドン・キホーテの風車
車窓から見る高台に風車が点々と見えた。(写真下左)最初あれは何だと思った。ラ・マンチャ地方の風車である。車は丘の頂上まで行った。とても風が強い。11個の巨大な風車と古城があった。(写真下右)


乾燥気味のスペインは、ヨーロッパの他の地域と違って川の水量が少なく、動力源として水車よりは風車が多く作られたという。この風車で小麦を轢いていたのだろうか。360度パノラマの丘に立つ風車は、中世のスペインの農村地帯のシンボルだそうだ。

風車は一つも回っていない。今はすべて観光用である。風車を巨人が変身したものと思い込み、馬にまたがって突進して吹き飛ばされたドン・キホーテの物語を、実物の風車の前で思い起こすと、とてもユーモラスに感じられた。

これぞ スペイン!

スペインは日本よりどれくらい広いのだろうか。

地中海から内陸部に入ると、一面のオリーブ畑が広がる。車窓の左右も、前の丘もみなオリーブだ。行けども行けどもオリーブ畑、バスはオリーブの世界を走り回っている。(写真右)

こういう光景は、日本では僅かに北海道中央部の美瑛が丘に見られる。ジャガイモ・ビート・小麦・花などの畑がパッチワークのように連なり、よくヨーロッパのようだといわれている光景である。かつて日本を代表する自動車メーカーが新車発売のコマーシャル撮影を美瑛でやって、テレビで「ヨーロッパ、ヨーロッパ」と連呼し、「ヨーロッパの山野を軽快に駆け回る」というコメントをつけていた。安くついたCM制作料だと思ったものだ。

観光ボランティアをしている私は、北海道はどこを回ったらいいかと尋ねられると、迷わず美瑛・富良野をお奨めする。(写真左:美瑛が丘 08.7)本州では絶対見られない、もっとも北海道らしい風景である。

ところが、スペインのオリーブの丘のスケールは、美瑛が丘をはるかに上回る。フランス・イタリアを横断しても見られないスケールの大きいオリーブの丘が延々と幾何学的に連なっている。これぞスペインだと思った。


オリーブは大半が食用油になる。秋になると一斉にオリーブの実を摘む。夏にはまだ小さくて硬いが実は次第に大きくなる。(写真右:ローマ郊外 06.8)

木の枝についている実は、機械で収穫することはできない。人間の手で摘むしかない。行けども行けども見渡す限りのオリーブを摘む人がいるのだろうか。

入園料をとってリンゴやブドウのとり放題、観光果樹園にして人出不足をカバーしているところが日本ではあちこちにある。けどオリーブの観光果樹園なんて成り立つのかな、つまらないことが浮かんでは消える。ガイドに聞くとアフリカからジブラルタル海峡を越えて季節労働者が入ってくるという。ガイドもアルバイトをしたことがあったが、とても重労働だったという。

時速100キロで走るバスの最前列で、しばしオリーブの丘に見とれた。エニシダ・ひまわり・オリーブ・・・これらの植物に注がれる明るい太陽の光・・・スペインは絵になる、捨てたものではないと思った。(つづく)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。