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イベリア半島への旅(7) ~ 街全体が世界遺産 ~
【北の国からのエッセイ】 2009年07月2日
ユネスコが指定する世界文化遺産には、特定の歴史的建造物や建物群が多いが、その地域全体が指定されてるところもある。スペインの首都マドリードから1時間ちょっとの2つの小都市は、街全体が世界文化遺産都市に指定されているという。西洋史に疎い私にとって、初めて聞く町の名前である。どんな所でどんな歴史が詰まっているのか、興味をもって訪れた。

スペインの古都
次に行く観光地のトレードマークは何だろう。だじゃれを言って笑わすのも楽しいが、口にするのも恥ずかしい。そう思って1人でニヤニヤしていると、バスの隣に座っている家内が「何にニヤニヤしてるの。薄気味悪い。」

マドリードの西70kmほどに、人口7万人の小都市トレドがある。6世紀に西ゴート王国の都になって以来、16世紀に当時の王国の宮廷がマドリードに移されるまで首都として栄枯盛衰。数々の支配者によって統治されていた。この間、キリスト教徒・イスラム教徒・ユダヤ教徒が、それぞれ追放と居残りを繰り返しながら、融合しあって独自の文化を作り出していった「3つの文化の街」、それがトレドだという。

日本でいえば奈良や京都のような町で、奈良市とは姉妹都市になっている。ただ首都時代の長さ、民族と宗教の多様性からすると日本の古都より複雑な歴史を持っている。まさにスペインの歴史を凝集した迷宮都市で、ガイドの噛んで物を含める説明も、頭の中ではなかなか整合性が保てない。


トレドはスペインでもっとも長いホセ川によって囲まれている。(写真右) 渓谷の上に立っている、イスラムの影響を強く残した中世の城砦都市だ。深く刻まれた川は、ちょうど日本のお城の堀のようでもある。この町を攻めるのは兵糧攻め以外なかったのではないかと思わせる断崖絶壁の上に立っている。

トレドの旧市街地に入るために橋を渡ると、長い長いエスカレータが待っていた。古都を訪ねるのに近代的なエスカレータで入るとは面白い。観光が売り物の街の知恵ともいえようか。ここにスペインカトリックの総本山の大聖堂があった。(写真下左)

13世紀から300年近い歳月をかけて建設された大聖堂はゴシック様式で、建物の外壁だけでも高い芸術性が感じられた。


街の中は迷路のようで、道路も狭い。敵に一直線に攻められない城下町特有の街づくりなのだろうか。狭い路地から大聖堂の尖塔が見えた。(写真上右)スペインではこうした絵になる構図があちこちで見られた。エル・グレコ最高傑作といわれる「オルガス伯爵の埋葬」が展示されているサント・トメ教会を訪れた。あいにくお目当ての絵画は、ロンドンの英国博物館に貸し出され、もぬけの殻だった。

栄華を誇ったトレドもマルセイユに遷都されてからは、町の発展がパタッととまったという。現在は観光都市・古都トレドとして知られているが、旧市街地に住む人の高齢化は進んでいるという。ガイドによると、日中観光客で賑わう旧市街地は、夕方になって店を閉めると若い人は川を渡っていなくなり、年寄りしか住んでいないひっそりとした薄気味悪い街になるそうだ。

旧市街地では巨大な建築物を見上げるだけで、旧市街地の全貌はわからない。しかし、旧市街地を一歩出て、タホ川の対岸から眺めると、トレドの全貌をみることができ、まるで絵葉書を見ているような美しさだ。( 写真上:聳えているのは左から教会・大聖堂の尖塔・お城で、手前はホセ川 )

ローマ時代の遺構
マドリードの北西95kmに、人口5万人余りの小都市セゴビアがある。ヨーロッパにはセビリア・セルビアと紛らわしい都市や国があり、うっかりすると間違いやすい。


そのセゴビアで私たちを迎えてくれたのは、ローマ時代の痕跡をくっきり残す巨大な水道橋だった。(写真右)長さは728mで、2階で最も高いところは28mに達し、世界でもっとも保存状態の良い水道橋として知られているという。この橋を築いている石と石の間には、接合材は何も使われてないそうだ。

紀元1世紀頃に建てられた建造物で、当時のローマ人の高い土木技術水準に驚かされる。この水道橋は19世紀まで使われ、今でも橋に水道管が敷設されてその役目を果たしているという。イタリアを訪れたとき、ローマ時代に水道を管理する役人は高級官僚で、高い報酬を得ていたと教わったことを思い出した。

セゴビアにもカテドラル(大聖堂)があった。(写真下左)16世紀に建設が始まり、ゴシック様式の大聖堂としては新しい建物だが、その優雅な姿から「カテドラルの貴婦人」と呼ばれているという。


ローマ時代要塞のあった高台に、これまた優雅なアルカサル(古城)があった。(写真上右)ディズニー映画「白雪姫」のお城のモデルになったという。

お城からはカステーリャ地方が眼下に広がっていた。この古城の前庭には、マロニエ(セイヨウトチノキ)が直径3cmほどのかわいい棘のある実をたわわにつけていた。セゴビアには古代ローマ時代から中世までの歴史的建造物が数多く残されていた。

街全体が世界遺産になっている街で、そぞろ歩きを楽しんだ。(つづく)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。