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イベリア半島への旅(8) ~ 囲碁愛好家の旅 ~
【北の国からのエッセイ】 2009年07月07日

スペイン 車事情
リスボンから入って、主にスペインの南西部を回った私たちの旅は、最終目的地に着いた。人口300万の首都マドリードは、2016年の夏のオリンピック誘致を東京などと争っている大都市でもある。


車の行き来が激しい。早朝ホテル周辺の住宅商業地を散策すると、幾何学的な路上駐車の車の列に驚かされる。止っている車と車の間には人が通り抜けることができないほどに密着した数珠繋ぎである。延々と続いている。(写真右)

これでは、車を出せないではないか。どうやって車を出すのだろう。まさか最先端かしんがりの車が出るのを待つわけでもないだろう。ガイドに聞いてみた。

すると、バンパーで前の車を擦って押し、ハンドルが切れる空間をつくるのだという。相手の車を傷つけて問題にならないのか、かさねて尋ねると、「バンパーはそのためにあり、少々凹んでも誰も文句は言わない」という。日本なら「おまわりを呼ぼう」眉間に皺を寄せて言い合うケースだが、市民全体がそう思ってるからから警察沙汰にはならないという。

この話を聞いて、走っている車を見ると、確かに凹んだり擦られたりしている車によく出くわす。数珠繋ぎの路上駐車は、アパートができたあと車社会となって車があふれ、駐車場を作ることができなかったご当地の生活の知恵なのだろうか。

車を所有する際には駐車場を義務付けるなどの法律や条例を出したら、その政権や首長は、直ちに市民によってノックアウトされそうな雰囲気だ。マドリードだけでなく、訪れたスペインの都市すべてに、芸術的な路上駐車技術をみることができた。

朝の出勤のラッシュのとき、警察官が交差点の真ん中で、身振り手振りの交通整理をしている。(写真左)あれ、停電で信号が作動しなくなったのか、と思ったらそうでもない。きちんと赤と青の信号が点滅している。スペインのおまわりさんは暇なのかなあ。いや違うな。信号があっても、おまわりさんが交通整理をしなければいけないほど、信号を無視して走る車がいるということか、日本では信号の機能停止か、VIPの通過のときしか見られないおまわりさんの手信号が、ご当地では恒常的に見られる。

ホテルを出発する前の周辺散歩で、スペイン社会の一端が覗かれて面白い。

イベリア半島 駆け足
今回訪れたポルトガル・スペインは、私の頭の中でははるかに遠い国だった。ところが、訪れてみると、他のヨーロッパ諸国とは一味もふた味もちがう、魅力的なものを持ち合わせてる国であることを知った。

数々の歴史的遺産を見学しながら、この地が古くからイスラム教とキリスト教の接点として、独自の文化を形成していたこと、世界史上特記すべき大航海時代発祥の地であったことなどを、証拠物によって接することができたのは、単なる観光以上の収穫だった。

また、イベリア半島の植生が北欧や中欧・東欧とは一部は混在しながらも、明らかに違う実情も自分の目で確認でき、地球の自然の豊かさを堪能できた。


美人の女性も多い。豊満で陽に焼けた小麦色の肌は、いかにもエネルギッシュである。フラメンコの本場セビリアで、かぶりつきでショーを鑑賞した。(写真上左)切れ味の良いリズムで鳴らす踊り子の靴音で、白い頭をふんずけられるような気がした。

マドリードの闘牛場では、牛を殺すたびにハンカチを振って闘牛士にエールを送る女性を目の当たりにした。ご当地は肉食女性が多い国なのかなと、東洋の草食男は思った。(写真上右)

囲碁キチの旅

私たちの一行は囲碁愛好者グループである。愛好者の域を越えて、囲碁キチの集まりと言った方がいいのかもしれない。

囲碁の醍醐味を知り尽くした知人が「醍碁味」という本を送ってくれたことがある。その醍碁味を求めて、旅の移動のちょっとした休憩時間、朝のホテル出発前のひと時に、すぐ碁盤を開いて烏鷺の戦いをする集まりである。(写真右:グラナダ郊外)

マドリードでは地元の囲碁愛好者と懇親会を持った。碁会所「南蛮」の事実上の席亭は、今回の旅行でお世話になった旅行会社の日本人社長である。

この社長は若き頃プロを目指したほどの筋金入りの打ち手だ。数年前、北海道新聞に、プロの道をあきらめた小樽出身者が、異国で苦労の末に活躍するサクセスストーリーが大きく取り上げられた。囲碁と関わりがある記事だったので切り抜いて保存していたが、その当人がこの社長だった。(写真下左の挨拶者)スペインで会社を経営しながら、囲碁に無縁の地に碁石の種をまいて数十年、今では日本の6段を上回る打ち手まで育ったという。


おまけに、旅の間ずっと同行してくれた日本人ガイドが、無類の囲碁好き、スペインを訪れるプロ棋士のガイドを一手に引き受けているような人で、日本を離れて28年経っても囲碁界の実情に詳しい。還暦近いひげガイドが、囲碁界のアイドル万波加奈ちゃん大好きなんていうと、まさに美女と野獣だ。この社長あってこのガイドというコンビに、今回の旅は大変お世話になった。

マドリードを離れる前日の夜、日本人社長は、サッカーファンなら一度は訪れてみたいレアル・マドリードのグラウンドが見渡せる場所で、宴を開いてくれた。 (写真左)コンサドーレ札幌の札幌ドームにも行ったことがない私でも、この場所が誰しもが入れる場所ではないということが、その雰囲気からしてすぐわかった。帰国してまもなく世界ナンバーワンプレーヤー、クリスティーナ・ロナウド選手が、129億円のこれまで最高の契約金で、レアル・マドリードに移籍したことが報じられた。

新型インフルエンザ騒ぎの大波を乗り越え、趣味の碁がご縁で、こんなに素晴らしい旅を満喫することができたことに、囲碁の神に感謝するのみである。(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。