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道東1,100キロの旅(1)~ 小清水原生花園 ~
【北の国からのエッセイ】 2009年07月13日

 

北海道一周の旅行をした人なら必ずと言っていいほど訪れるところが、オホーツク海岸に沿った小清水原生花園(こしみずげんせいかえん)である。

砂浜に咲きそろう花々、海岸に沿ってどこまでも一直線に走るJR釧網線と国道244号線、その内側に広々とした濤沸湖(とうふつこ)、その湖畔で草を食む放牧された馬の群れ・・・もっとも北海道らしい景観の一つである。6月末から7月頭にかけ、 2年ぶりに当地を訪れた。

小清水原生花園
札幌から旭川・網走を経てバスでほぼ5時間、オホーツクの海が見えてくる。高速道路のおかげで、ずいぶん近くなった。砂丘が8キロにわたって延びており、車窓から点々と咲いている海浜性の花が目に飛び込んでくる。早くバスから降りたいと思っても、降りるところはなく、結局ほぼ中間のJR原生花園駅付近でバスは止った。

オレンジ色の見事なエゾスカシユリの群生が、私たちを迎えてくれた。(写真左)黄色いエゾキスゲも今が盛りだ。濃いピンクのハマナスも気持ちよさそうに花びらをなびかせている。
いつも春が早かったり遅かったりで、旅行日と花の盛りが一致するのは難しい。けど、地元のガイドによると、今年は今が一番の見ごろだという。ラッキーなときに訪れた。

赤紫色のハマエンドウ、ピンクのハマフウロ、白いエゾノシシウド、さらに草丈がすっと立ち上がっているハマニンニクなど、浜辺ではおなじみの草花が入り乱れている。環境が良いのか、みな伸び伸びと咲いており、他の海岸より大振りで人間でいえば血色がよい。まさに花園である。

元祖原生花園
原生花園は、北海道の海岸砂丘の花園をイメージさせるにふさわしいネーミングだ。学問的には「海岸草原」と言うそうだ。感性が感じられない。

かつて「旅」という雑誌があったが、名物編集長だった戸塚文子さんが「原生花園」の名付け親で、小清水を旅行したときにつけた造語だという。戸塚さんはキャッチコピーの名人だ。

海に囲まれている北海道では、あちこちに野花が咲いている砂浜があり、「石狩浜原生花園」などと地元の名前をつけて呼んでいるが、元祖原生花園は小清水原生花園である。単に原生花園というと、小清水原生花園を指す場合もある。
(写真右:エゾノシシウドとオホーツク海)

放火で復活 原生花園
原生花園というネーミングにつられて訪れる観光客は多いが、一時、花が余り咲かず、観光客から見放される苦難の時期もあった。それは並行して走っている釧網線の電化と大いに関係があった。釧網線に石炭を燃やして走っていたSL時代は、煙突から黒煙とともに火の粉も飛んで、毎年のように野火が発生していた。これによって土壌が生き返り、植物が伸び伸びと育って花が咲いていたという。ところが、釧網線が電化されて火の粉も姿を消し、野火がなくなると土壌は硬くなって植物の生育に影響を及ぼした。

火を放とう。

地元の依頼で調査に入った北大の植物学者は、野焼きを提案した。春先に奈良の若草山や、阿蘇山で行われる野焼きと同じ理屈である。

けど、こんな原野にしかも広範囲に放火するとは何ごとぞ、当時は浜に網を干している漁業者や、すでに新しい環境で棲息している昆虫を研究している昆虫学者などから反対の声があがったが、決行された。

気象条件の良い日を選んで、鉄路・国道を遮断して火付けが行われた。(写真左:エゾキスゲ

原生花園は再び蘇った。

「人間は火を見ると生理的に心が騒ぎますねえ、火事を見に行く野次馬の気持ちがよくわかります。」今回の旅に同行した、火付けの提案者である植物学者は、笑ってこう話す。最初の年は 国鉄から電柱の設備が燃えたと、文句がでたという。「何を言ってるのか、それくらいで。これによって原生花園が蘇えれば、多くの観光客が釧網線を利用するんだぞ」

国鉄は何も言わず、逆に翌年から野焼きに積極的に協力するようになったという。原生花園の野焼きは、現在も毎年行われている。 (写真右:ハマフウロ


ラムサール条約登録地
小清水を訪れると、どうしても先ずオホーツク海に面する原生花園に目が行く。けど、反対側の鉄道と国道越しの濤沸湖の茫洋たる風景も素晴らしい。(写真:濤沸湖、手前の花はハマナス

濤沸湖は周囲27km、砂州が発達した細長い砂丘によって、海と遮断してできた海跡湖である。水深は浅くて平均で70cmほどで、冬になると完全凍結し、厚い氷で覆われる。

古い話になるが、第一次南極観測隊の犬ぞり隊は当地の氷の上で訓練をした。例のタロー、ジローの時代である。また湖が浅いために、えさの水草が豊富で、渡り鳥の中継地点として知られ、ラムサール条約の登録地にも指定されている。毎年10月にもなると、湖はオオハクチョウの大群で埋まる。

茫洋とした風景の中で絵になるのが、放牧されている馬である。なんとも牧歌的である。今回原生花園に到着したとき、すぐ目の前に馬の群れがいた。先に花園を観察してから馬をじっくり見ようと、馬に背を向けオホーツク海の原生花園を回った。

1時間ほどして、濤沸湖畔に群れる馬の写真を撮ろうかと振り返ると、馬が一頭もいない。あれっ 、横になっている馬までいたのに、どこに行ったのかなと双眼鏡で覗くも、見当たらない。まるで神隠しにあったみたいだ。原生花園の管理人詰め所で聞くと、移動して東の方に行ったという。馬の集団の中でボスがいて、ボスが「行くぞ」と合図すると、すべての馬がついていくのだという。「馬の世界にも火付けボスがいるのか」私どものボスの前で言うとボスはにやりと笑った。

もう出発しなければならないという直前に、馬が戻ってきた。ラッキー。

ボスを先頭に走る馬の行進はなんとも壮観だ。競馬場でムチを叩かれ、懸命に走るサラブレッドとは全く違うおっとりとした馬の早足行進だ。(写真右)

中には子供もいる。夢中でシャッターを切った。同行者の1人が数えたら68頭いたという。管理人によると、馬群は一日何度も湖畔を往復するという。

放牧馬は湖畔の草を食べているが、草原に生えているヒオウギアヤメは食べない。有毒であるということを本能的に感知するのだろうか。広い草原でこんもりと緑濃いところが所々に観察される。馬が草を食べてないところで、そこには青いヒオウギアヤメが咲いている。(写真左)

濤沸湖畔は、結果的にヒオウギアヤメの観察地にもなっているというのもおもしろい。(つづく)


望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。