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秋しのび寄る夏の森
【北の国からのエッセイ】 2009年08月26日
お盆を過ぎると、残暑の中でも、吹く風の気配から朝夕秋を感じる。 テレビでも、今年初めての秋雨前線がお目見えしたことを伝えている。お盆を過ぎた一日、札幌郊外の森を歩いた。そこには、朝夕どころか、あちこちに秋を感じるものを観察できた。北国札幌の森はすっかり秋の気配である。

森林セラピー
この夏は札幌を留守にすること多く、久しぶりの自然観察だ。今にも雨が降りそうな曇り空でも、森を歩く靴音がかろやかに感じられる。
森はこの時期、日光を一杯に受けて葉が伸びきり、緑がもっとも濃い。緑濃い森はとても落ち着きがある。(写真右:空を覆うカツラの大木)

最近、フィトンチッドという化学物質が注目を浴びている。樹木が発散する揮発性の物質で、他の植物を阻害する反面、人間にとって癒しとなる物質を含んでおり、森林浴効能のキーワードとなっている。

このフィトンチッドは空気よりやや重いため、朝は地面近くに漂っている。朝早くから散策すると、まだ拡散してないフィトンチッドを一杯に吸うことになり、気持ちがいい。

秋の花
緑濃い森の中で、薄紫の花がまとまって咲いていた。キクの仲間のエゾノコンギクである。

この花を観察すると、ああもう秋なんだなあと実感する。
キクはまさに秋の花である。
似たような花でユウゼンギク、ネバリノギクがある。これらはアメリカからの帰化植物であるのに対し、エゾノコンギクは自生種、昔から北海道に自生していた。


花の色は同じ薄紫でも、こちらはエゾトリカブトである。保険金殺人で一躍有名になった猛毒草で、日本三大毒草の一つとされる。

烏帽子のような花は夏の森にひときわ目立ち、女王の貫禄がある。
トリカブトは、この夏訪れたヨーロッパアルプスの標高1500m付近でも観察された。
色は濃い紫だった。

この時期の花は春ほど多くはないが、それでも30分も歩けば10数種はすぐ観察できる。
黄色いキツリフネ(写真下左)、白いミミコウモリ(中央)、赤いミズヒキ(下右)などである。
   
いずれも秋の訪れを感じさせる花だ。

今回初めて新しい花を観察した。クサコアカソである。

イラクサ科の地味な花で、茎も葉柄も赤くなるこの時期しか目立たない。北海道よりは本州で多く見られる草のようだ。

この森にはこれまで百回は訪れているが、それでもまだこうして新しい花を見つけることができる。

森は奥が深く、何度来ても楽しい。

愛の結晶
すでに赤い実をつけているものもある。ナニワズだ。
ナニワズは、雪解けとともに黄色い花が地面を這うように咲く低木である。夏になると落葉することから、ナツボウズともいわれている。赤い実をつける秋口に新たに葉をつけ、常緑のまま冬を越す変わった生活史を持つ。

また、この木を折ってちぎろうとしても、ちぎれない。鬼を縛っても切れないとしてオニシバリともいわれる面白い植物だ。
このオニシバリがルビーのような赤い実をつけるというのも趣がある。

森を歩くとあちこち秋の気配を感じる。その決定版を見つけた。
サラシナショウマのつぼみにアキアカネがとまっていた。
(写真左)

このシ-ンを見ると、断片的にみられた秋の気配が森全体に広がるのを感じた。森はあと2週間もすれば、ツタウルシを先頭に色づきはじめることだろう。

森の秋は早く、そしてあっという間に冬が来る。(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。