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迫力満点 秋サケ漁
【北の国からのエッセイ】 2009年10月05日
9月に入って十勝沿岸から始まったサケ定置網漁は、全道各地でも解禁となり、今が最盛期である。サケは食べるものだと思っていたが、共に観光ボランティアガイドをしているご婦人から、「これからは体験観光よ」と聞かされた。このご婦人はフードマイスターである。

フードマイスターとは地元で生産収穫される食材を自らの生活に生かしながら、食文化の理解を深めている人である。北海道では検定試験があり、合格すると「北海道フードマイスター」という資格が得られ、北海道のおいしい食材の伝道師となる。世間を騒がせた漢字検定ではないが、世の中検定花盛りだ。

ご婦人に言わせると、サケは食材の王様。フードマイスターとして食べるだけでなく、一度漁の模様を見てみたかったという。私にも体験ツアーの案内が来ていたが、残念ながら食については感度ゼロ。そのままゴミ箱に放り投げていた。



けど「これからは体験観光よ」という一言に新鮮さを感じて、改めてゴミ箱から拾い出してみた。

テレビでしか見たことのないサケ漁が、漁船の上で間近かに見学できる。

一度は見てみるか。色香を放つ年代をとうに越えたご婦人の、食の執念にフラフラ?となって、船上の人となった。


寒村の漁港
港の朝は早い。漁船の出港に間に合うよう自宅を午前2時すぎに出る。
まだ暗闇の集合場所に集まった物好きは6人。男2人、女4人だ。大勢参加すると漁の邪魔になり、これくらいがちょうど良いようだ。

札幌をマイクロバスで北上すること1時間半、午前5時前に日本海側の寒村、旧浜益村の漁港につく。救命具を身に着けて、まだ薄暗い港を出港し、沖合いの漁場に向かう。 (写真左)

北国では夏の夜明けは早いが、秋分の日を過ぎると日の出が目に見えて遅くなる。夜明け前の風はさすがに冷たい。

17トン程の小さな船だが風はなく、べた凪でそれほど揺れず、船酔いの心配はなさそうだ。ただ、漁船は網を甲板に手でひき上げるために平べったく、海中転落の恐れがあるので注意が必要だ。手すりなどはない。

30分ほどして仕掛けた網の海域に着く。さあ、いよいよ始まるぞ。

サケの習性
サケは4年前後で、放流した川に戻ってくる。川に遡る前の海域で網を仕掛けておき、戻ってきたサケを一網打尽に捕獲するのが秋サケ定置網漁である。(写真右)

網の周辺にはすでにカモメが集まって、おこぼれを頂戴しようと待っている。

サケはなぜ放流した川に戻ってくるのだろう。不思議でならない。「母川回帰」と言われている。標識をつけて放流すると確かに戻ってくるという。稚魚の段階で長旅に出たサケは、はるか北太平洋を回遊し、数年後に生まれ故郷に戻ってくる。


サケは地形を覚えているのかな。そんなばかな。専門家によると、母川回帰には嗅覚が主要な役割を演じているという。ただ何のにおいを感じているのか、定かでないという。

鳥にせよ、魚にせよ、生物には人間では考えられない特殊才能があるようだ。このいわし頭め!などと蔑んではいけない。(写真左:始まった網おこし)



変わるサケの味
川に上る前のサケは脂がのっていて、もっともおいしいといわれる。地域によってはブランドとなっており、例えば日高沿岸の定置網で獲れる秋サケは「銀聖」とよばれるブランドで出回り、高値で取引されている。

よく川を遡るサケを見かけるが、こうしたサケは定置網をかいくぐってきたサケである。浜益沖に仕掛けられた定置網をかいくぐったサケは石狩川を遡る。サケは一度川に入ると目的は一つ、ひたすら次世代に命をつなごうと、よき産卵場所を求め、オス・メスとも懸命に川の流れに逆らって、上流へ上流へと向かう。その途中の孵化場でサケはさらに捕獲され、資源を絶やさないよう卵と精子が取り出され、人工増殖されている。

海では脂がのっていたサケは川を遡るにつれ、エネルギーを使って次第に色香を失う。こうしたサケは脂気がなくおいしくない。北海道ではこのような状態のサケをホッチャレという。

昔、二日酔いで出勤して冴えない顔をしていると、ホッチャレといわれたものだ。生で食べることはほとんどなく、捨てられるか、加工して酒のツマミになる。孵化場の網もかいくぐったサケは、さらに上流に進んで適当な産卵場所を見つけ、思いを遂げたのち昇天する。

秋サケ定置網漁
ホッチャレにならないうちに、おいしいサケを捕獲するのが秋サケ定置網漁ともいえる。最初の網が7~8人の漁師によって手繰り寄せられた。次第に網が近づくと人間の手だけでは足りず、機械で網をピットにまきつける。漁師の動きが激しくなる。

私たちは足手まといにならないよう遠くから見守る。網が海面近くまでくると、サケがピチピチと勢いよく跳ねる。この段階で漁師は私たちに近くで見るよう声をかけてくれる。初めて見る光景に歓声が上がる。

漁師は網の一方を甲板の上で手で押さえ、海側の方の網を漁船に取り付けてあるクレーンに引っ掛けてぐいっと引き起こす。網が持ち上げられサケが甲板に転がる。転がったサケを、漁師はすばやく船底の生け簀に転がして落とす。

網の引き上げから生け簀に入れるまで、作業は実に手際よい。ひと網で百本はかかっただろうか。けど、漁師曰く「漁模様は悪い」海水温が高くサケがまだ岸辺まで近づいてないようだ。

こうして、一回の出漁といっても時間にすれば2時間ほどだが、事前に仕掛けた網を次々に5回ほど手繰り寄せ、この日はあわせて500本ほどの水揚げがあった。漁師によると、例年は一回の出漁で1,000本は軽く上がるという。

一緒に見学した人が「網を引くときに掛け声がなかった」と言った。声を合わせながら網を力強く引く姿をイメージしていたのだろう。

もしかしたら、ひと網100本程度では軽くて、掛け声をかけあうほどでもなかったのかもしれない。

水揚げ
午前7時過ぎ、港に戻ってくると漁協の女性らが待ち構えている。網で生け簀から水揚げされたサケは瞬間的にオスとメスに分けられ、ボックスに入れられる。 (写真下左:水揚げされるサケ、写真下右:サケの仕分け作業)
どうしてそんなに早く仕分けができるのだろう。

 

漁師にオスとメスの見分け方を教わった。

一番の違いは頭の鼻の部分で尖がっているのがオス、丸みを帯びているのがメスだそうだ。(写真右上がオス、下がメス)
また背びれの大きさ、尾びれのカーブの角度などに違いがあるという。

これらを瞬時に見極めて、流れるようにサケは処理されていく。慣れというか熟練というか、見事な早業である。メスは高値で、オスは安値で取引されるという。

サケづくしの朝食
船を下りた私たちは漁師に礼を言った後、近くのサーモンファクトリーで朝食をとった。

出された食事にびっくり。(写真左)

・いくら丼
・サケのカマとハラス焼きの大根おろし添え
・サケの刺身 ルイベ
・サケの白子のスライス
・サケの切り込み
・サケが入った三平汁

すべてサケづくし、名づけて「鮭づくしご膳」である。とりわけカマとハラス焼きがおいしい。おまけに調味料の醤油も魚醤、サケの内臓を醗酵させて作った鮭醤油である。魚の生臭みは全くない。

サケは捨てるところがないというけど本当だ。ふだん漫然と食べているサケもこうしてみると、良質の食材だ。

たまたま新聞に秋サケの漁獲速報が出ていた。北海道の9月20日現在の漁獲量は973万匹、前年同期+18.4%だという。地域別ではオホーツクが圧倒的に多い。日本海側は海水温の低下が見込まれるこれからに期待されている。
北海道の秋サケ漁は11月中ごろまで続けられる。12月にはいると新巻づくりに追われ、お正月に食膳を飾ることになる。

サケを満喫する機会を作ってくれたご婦人さん、あなたはほんとにフードマイスターですよ。
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。