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北の国からのエッセイ
都市公園に思わぬ来訪者
【北の国からのエッセイ】
2009年12月11日
師走も佳境に入った中旬、今年最後の自然観察会に参加しました。寒くはなるし、暮れも次第に迫ると何かと気ぜわしく、それほど参加者は集まらないのではないかと思いました。
ところが、予想に反して30人を超え、今年一番の参加者です。大半が女性です。平日の午前中、これらのご婦人は家事をどうしてきたのかしら、と思うのは古い考えでしょうか。
何はともあれ、寒さを吹き飛ばす賑わいとなり、動物と植物の2人の専門家のお尻に付いて回りました。
閑静な公園
この日の自然観察場所は、札幌市内の円山公園です。隣接して北海道神宮の広い境内とつながってます。都心にきわめて近く、北海道ではサクラの一番の名所として知られているところです。
こんな都市公園のどこを見るのかと思う人がいるでしょうが、自然観察はどんなところでも対象となります。花や葉があるときはもちろん、雪が積もっていても自然観察には事欠きません。
すっかり葉が落ちた公園ですが、集合場所の大木の下で参加者が集まるのを待っていると、参加者の1人が「リスがいる!」と叫びました。指差す方向に眼を向けますと、エゾリスがイチイの木の上で盛んに手を口にあてています。 (写真右)あたかも私たちを歓迎しているかのようです。公園の垣根一つ隔てて車が往来する場所ですが、こんなところでリスに遭うとは驚きです。
北海道にはエゾリスの他にシマリスもいますが、シマリスは冬眠するのに対し、エゾリスは冬眠しません。寒さに耐えれるよう、エゾリスはシマリスに比べて尻尾は長く、毛もふさふさしています。
エゾリスは夢中でイチイの赤い実を食べています。耳が垂れているときは警戒心を持たずに夢中に食べているということを意味します。私たちの物音を察知すると耳がピンとそば立ちます。
イチイの実は甘くておいしいですが、種は有毒です。シェイクスピアの戯曲ハムレットで、デンマーク王の耳に注ぎ込んで殺した「ヘボナの毒汁」はイチイの毒だといわれています。鳥や動物はイチイの実を飲み込んでも、種はそのまま排泄します。
単調でない探鳥会
「きょうは幸先いいですねえ。」参加者の口元がほころびます。参加者はみな防寒具を着込んでいます。(写真左)この日の午前10時の気温は2.2℃、氷点下にはならず、それほど寒く感じません。
ヒヨドリが飛んでいます。シメもきました。冬は葉が落ちているため鳥を見つけやすく、植物の冬芽観察の外に探鳥会もかねることになります。決して単調な自然観察会ではありません。それなりに楽しいものです。
また、参加者の半数以上が常連の顔見知り、元気な姿を拝見して軽く会釈し、会話を交わすのも楽しみの一つです。ただ、お名前はわかりません。
鳥はどこに止まるかなと見上げていると、高木のてっぺんのヤドリギに止まりました。(写真右)ここでもヒヨドリは、常緑のヤドリギの赤い実を食べています。ヤドリギの種は有毒ではありませんが、鳥は消化しきれず、種をそのまま排泄します。
ただ、ヤドリギの種には粘り気があり、地面に落ちないで、他の木の枝にくっつき、そこで発芽します。他の木に寄生して生きていけるように種に粘り気をもたせたと思うと、自然の神はうまく采配したものだと感心するばかりです。
高地の珍鳥
見たこともない模様をした鳥が地面の落ち葉をほじくっています。なんだろうと思っていると、きょうのガイド役の鳥の専門家が「ホシガラスです」といいます。「えっ、ホシガラスが何でこんなところに」眼を見張りました。たしかに身体にホシガラスの象徴である星のような斑点がたくさん付いています。嘴も長いです。
ホシガラスは知床や大雪山系などの高地に生息しています。ハイマツの実を食べて生きており、種を排泄します。逆に言えば、ハイマツはホシガラスによって群生場所を広げています。高地に生息するホシガラスが、なぜ平地の都市公園にいるのだろう。仲間が広げた鳥図鑑によると「まれに平地でも観察される」と書いてあります。
きょうの動物の専門家はこの図鑑の共著の1人でもあります。先生曰く、「札幌都心部の山は藻岩山の531mが最高で、この付近にはハイマツは生えていません。迷い込んできたのでしょう。まだ1歳前後の幼鳥でこの先が案じられます」この「はぐれガラス」は人間が近づいても物怖じしません。まだ世慣れていないのでしょうか。
ホシガラスはこれまで大雪山の旭岳でしか見たことがありませんでした。(写真右:旭岳のハイマツ5年8月)それも遠くを飛んでいるというだけで、まともに観察したことはありません。ところがきょうは、3mそばに行っても、逃げようとせず、落ち葉の中に首を突っ込んでいます。ズームアップせず、標準でもトレードマークの星の斑点がバッチリ撮影できます。
「道新(地元紙の北海道新聞)に情報提供すると飛んでくるね」「だめよ、望田さん、書かれたらわんさと人が集まってもう見れなくなるんだから。フクロウと同じよ」ふくよかな“独占おばさん”から、ドスの効いた声が飛んできます。
このホシガラスなかなか動こうとしません。(写真下左)私たちはもう十分に写真も撮りました。けど、誰も動こうとはしません。ホシガラスが何を食べていたのか知りたいのです。
ようやくホシガラスが近くの木の枝に移動しました。どっとホシガラスがほじくっていた落ち葉に集まり、今度は私たちがほじくりました。専門家によりますと動物が何を食べていたのか、これを知ることが動物の生態調査にとても重要だということです。余り良い趣味ではありませんが、フンや口から吐いたものを丹念に調べるのがイロハです。
ナナカマドの実などが落ちているのかな。みんなでしゃがみこんでほじくりましたが、何も出てきません。ホシガラスは確か首を突っ込んでは上げ、上げては首を突っ込んでいました。たしかに何かを食べていたんだがなあ、と専門家はつぶやきながら食べ端のかけらがないかほじくります。
すると落ち葉の下から動くものがありました。ワラジムシです。これだ。「ホシガラスは雑食なので、ワラジムシをついばんでいたんだ」さらにほじると、体長3ミリ程度のワラジムシがうようよ出てきました。
この日は今年1年の中で、もっともビッグな観察日となりました。それも自宅からわずか10分で歩いていける、ごく身近な都市公園でです。道東や大雪山系に行ってもなかなか見られないものが、こんな身近なところで観察できたなんて感激です。
先生をお誘いしてレストランに入り、グループとしては今年最後となる自然観察会に乾杯しました。
それにしても暖かい師走です。ポプラの葉が落ちれば根雪になるといわれています。
円山公園のセイヨウハコヤナギ(ポプラ)はすっかり落葉していました。 (完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。
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