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札幌にドカ雪
【北の国からのエッセイ】 2010年01月20日

週末、札幌にドカ雪が降った。朝起きると一面の銀世界である。この冬はじめての大雪だ。これまで雪が少なかっただけに、ようやく札幌らしい冬となった。18日現在の積雪量は60cm、ほぼ平年並みになった。雪が積もると尻尾を振って外に出る犬ではないが、ちょっと外に出たくなる。

雪の街 札幌
マンションを出ると、まず駐車場の車の屋根の雪の量に驚かされる。(写真右)ざっと30cmはあろうか。もうちょっと降ると車全体が雪に埋まりそうだ。これでは車の持ち主は、出かける前に相当な時間をかけて除雪を迫られそうだ。

街路樹や公園の木々に積もる雪の花も見事である。落葉樹は木の枝に綿菓子のように雪をつけている。常緑樹は雪が重たそうで枝が肩下がりになっている。ただいくら雪が降っても、主要な道路はきれいに除雪されている。夜中に起きると除雪車のエンジン音が窓越しに聞こえて来る。こうした人たちのおかげで、日常の経済活動・市民生活は、多少の影響はあってもほぼ滞りなく進んでいる。

日本の国力
何をもって日本の国力を感じますか?と問われると、自衛隊とは思わない。GNPの数字もピンとこない。

私は、朝起きても道路が除雪されていることに一番の国力を感じる。世界を見渡しても、人口100万人以上の都市で札幌より寒い所はロンドン・ニューヨーク・ベルリン・モスクワ・・・いくらでもある。けど、一冬で6mを越す降雪量がある100万都市は、札幌以外にない。それもダントツの多さである。

つまり、雪という自然の障害のために、鉱山や漁業などの特定の集落としては成立しても、総合都市として発展し得ないのだ。それを日本では可能にしている。家の周りの除雪だけでも大変なのに、道路の除雪などはとても個人でできるものではない。これこそ国力以外何ものでもない。いいご時世に生まれたものだとつくづく思う。

国力で札幌は雪を克服し、人口は190万に達した。東京・横浜・大阪・名古屋に次いで、日本で5番目に大きい大都市になった。

数年前、北海道開発局の除雪見学会に参加したことがある。冷えきった深夜、都心の国道脇で見ていると、巨大なロータリ除雪車が道路わきの雪山を削り、長いアームを伝って飛ばされた雪が(写真下左)大型トラックにみるみるいっぱいになり、排雪されていく。仕上げは雪や氷ででこぼこになった道路をタイヤローダーが力強く削って平らにし(写真下右)、最後に凍結抑制剤材まで撒かれる手際よさ。(いずれも07年2月撮影)

 

この数台一組となった除雪機動力と迫力に寒さを忘れて見とれ、いつの間にか除雪車にくっ付いて歩いている自分にきづく。余りの迫力に2年続けて見学した。

この見学会は結構人気があり、毎年数百人が道路わきで見とれている。 観光資源としての価値が十分にある。隣で見学していた人曰く「雪まつりより面白い」。除雪車は細かい部分も除雪できるよう、ボタン一つでロボットのように動く。その機動力と技術力は日本が世界一だそうで、毎年各国から視察に来るという。その結果、市民が眼を覚ました時は、ごらんのような広い道路巾が何事もなかったように確保されている。(写真右)

その恩恵を市民は当たり前のように受けている。除雪作業に見入ると、氷点下の吹雪の中、夜通し作業に当たる人には 「どうもありがとう」「ご苦労様です」 と声をかけたくなる気持が胸一杯に広がる。

車道だけではない。主な歩道には朝の通勤時に間に合うよう、巾1mほど雪が固められて道がついている。防寒服を身につけたサラリーマンやOLが長い列を作って、足元を気にしながら急ぎ足で雪道を歩いてゆく。(写真下左)
 

それが都心に入ると、歩道には雪はなくなる。歩道にロードヒーティングが敷かれて、熱で自然に雪が溶かされているのである。(写真上右、いずれも18日)銀行・大企業のビル・人の出入りの多いスーパーマーケットなどの歩道は、いくら雪が降ってもアスファルトが顔を出している。「耐雪」雪に耐える時代でなく、「克雪」の世を強く感じるシーンでもある。

裏通りでは・・・
「こうした恵まれた道路環境が札幌にある」と言いたいところだが、残念ながら都心や主要道路などの一握りである。

大半が除排雪が追いつかない。歩道のない道路や、道路一つ隔てた裏道に入ると、道路わきは雪の山が連なって、もともと狭い道巾を更に狭くしている。市民は除雪だけでも大変だ。(写真左)
四つ角に余り高い雪山ができると、視界が遮られて交通事故のもとになる。 市民の足であるバスが、屋根に20cmほど雪の帽子をかぶりながら、こうした裏道を通っていった。(写真下17日)

平均気温が氷点下となる札幌の冬は、一度降った雪は容易に溶けない。そこで、除雪だけでなく排雪が重要になってくる。札幌市の除雪予算は140億円、このうちの65%が除雪でなく、排雪のために使われているそうだ。

氷点下10度は当たり前、寒さは超一級でも雪が余り積もらない十勝の帯広市では、今冬はどういうわけか例年の4倍の大雪に見舞われた。除雪費用が底をつき、すでに二度も補正予算を組んだそうだ。雪はずしりと北国の台所に響く。

大雪余波
私は大雪の日曜日の17日、所用で地下鉄とバスを利用して郊外に行った。週末の郊外に行くバスは1時間に1本しかなく、安全を見越して地下鉄で30分も早くターミナルに行くと、5分もしないうちにバスが来た。あれ、バス停を間違ったかなと思いながら、「このバスは○○に行きますか」と運転手に尋ねると「は~い、行きますよ。1時間20分遅れで今着きました」という。1時間以上前に着くべきバスが、大雪のため遅れて今着いたばかりなのだ。おかげで寒いバス停で長時間待つことなくすぐ乗れた。なんとなくラッキーという気持ちになった。

この日はたまたま大学入試センター試験の2日目だった。試験開始時間の繰下げが朝から盛んにテレビで放送されていた。それでも夕刊や夜のテレビニュースでは、心配していたことが取り上げられていた。遅々として進まぬバスに、車内で涙が止まらなかったという女子受験生の話や、追試を受ける受験生が100人以上に達したことなどが報道されていた。さぞ小さな心を痛めて落ち着いて受験できる状態ではなかっただろう。

追試を受けることになった受験生がテレビで「追試は一般的に通常の試験よりは問題が難しくなるといわれているが、これも仕方がないです」と苦笑いをしながらインタビューにこたえていた。妙に印象に残った。

四季を強く感じる札幌
都心では、ロードヒーティングで雪のない歩道から道路一つ隔てて大通公園がある。雪の花で一杯の大通公園には、7階建てのビルに相当するやぐらが、あちこちに組まれていた。来月のさっぽろ雪まつりに向けての大雪像つくりが自衛隊によって着々と進んでいた。

今回のドカ雪は、雪像つくりにとってありがたき雪であっただろう。今年は雪不足ということはまずなさそうだ。どのような大雪像がお目見えするのであろうか。

この冬、札幌に降った雪はトータルでちょうど2mである。ドカ雪が降ったとはいえ、平年と比べて1m少ない。3月までの2ヶ月余りで、あと3~4m降ることになろうか。雪が多く積もると市民生活に影響が出る。逆に雪が降らないと、冬期間除雪で飯を食っている建設会社は悲鳴を上げる。また、雪が降ることを前提として成り立っている事業、スキー場なども雪乞いを行う。

札幌の冬は、寒さよりは雪なくして語れない。明治以来の開拓も雪との戦いの歴史だった 。その雪道を踏みしめて黙々と歩く。私にとって四季の一つを強く感じ、気持ちの落ち着くひと時でもある。 (完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。