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小さな春
【北の国からのエッセイ】 2010年03月19日

札幌の3月の天気は気まぐれである。16日現在、積雪はまだ38cmあるが、都心の歩道はほぼ雪も消え、先日初めて自転車に乗った。陽は照っているが頬をなでる風は冷たい。ところが翌日になると吹雪で、うっすらと雪が積もって自転車は見送りである。しかし確実に道路に山積みされている雪の山は小さくなっており、今年は春は早いぞと実感する。

冬の間じっと堪えていた森も、この時期になると少しは胎動が見られるかもしれない。久しぶりに郊外の森に入った。

昔の札幌の面影
札幌郊外に広がる野幌森林公園は東京都港区とほぼ同じ面積があり、平地の公園としては日本一である。

森に入る入口はいくつもあるが、このうち大沢口一帯の原生林の景観は、札幌に和人が入る明治以前はこのようではなかったかと専門家が言う、昔の札幌の面影を残すところである。(写真右)

ハルニレ・ヤチダモ・カツラ・シナノキなどの木々が葉を落としてじっと春を待っている。積雪は札幌よりはるかに多く、まだ60cmはある。雪に埋もれた行き先を示す標識が足元にある。

雪の上にヤチダモの種が無数に落ちている。ヤチダモやハルニレは水に強く。これらの樹々が生えているところは肥沃な土地で、開拓者は樹を見て適地を探したことだろう。木々の冬芽はまだ硬い。一日の平均気温がまだ氷点下では、じっとしているしか仕様がないのだろう。

それでも参加者は森を見上げては鳥の姿を追い、特徴のある冬芽を見てはこの木が何の木かを学ぶ。枝が赤い木に遭遇した。

ミズキである。ミズキは枝が正しくほとんど水平に出て、小枝が細くそろっている。(写真左)  枝が赤みを帯びて美しいため、正月に繭玉を飾る木として使われている。冬、枝が赤く、冬芽を上に向けている元気はつらつなミズキを見ると、前向きに生きている木だなと思う。

生活の跡
木の幹に楕円形の真新しい穴が開いていた。(写真下左)クマゲラの食痕である。穴が開けられた木の下には、木屑が一杯落ちていた。(写真下右)

 

雪をまだかぶっていないので今朝か、遅くとも昨日、ここにクマゲラが姿を現したことを示している。毎年クマゲラと対面しているが、今年はまだ鳴き声しか聞いていない。

右の写真は、同じ野幌で穴を掘っては、くちばしで木屑を撒き散らしているクマゲラである。(7年4月) 穴を開け始めると結構執念深く、10分以上はじっくり観察できる。

クマゲラは穴を掘っては、木の中にいるアリなどを食べている。従ってどちらかというと、やや腐れかけの木に穴を開けるケースが多い。北海道と東北白神山地しか生息しない、天然記念物クマゲラを見つけると、それだけで森に来た甲斐があるだけに、周辺を見渡すが姿は見えない。

新しい食痕の下には古い穴もできていた。キツツキの仲間でも穴の開け方に特徴があり、アカゲラが円であるのに対し、クマゲラは楕円形になるので見分けやすい。

小動物を目撃
同行した仲間が突然「キタキツネだ」と叫ぶ。犬のような動物が前方の雪道を横切ろうとしていた。(写真左)  とっさにシャッターを押した。キタキツネは足跡をよく見かけるが、実物を見るのは2年ぶりだ。丸々太っていた。おもに雪の下に潜むエゾヤチネズミを餌にしている。

この森にはテンもいる。トキが被害を受けたということでトキの話題となっているが、テレビで見る限りあの程度の防護策では、テンで問題にならない。

イタチやキツネの仲間は生きるために必死で知恵もある。いずれ放鳥するために保護柵の中で訓練してるというが、襲われたら逆に保護柵が邪魔で逃げ切れない。日中は広い保護柵の中で放鳥しても、夜は確実なネットの中で保護しない限り無理ではないかと思う。

エゾリスとも久しぶりにご対面だ。尻尾がふさふさとしている。木の下で一生懸命何かを食べている。そのしぐさがとても可愛い。(写真右)  みんなで立ち止まり7m先のエゾリスをじっと観察する。逆光になっているのが残念だが、シルエットもまた趣がある。

エゾリスが去った後にはどんぐりの皮が落ちていた。恐らく雪が降る前に蓄えておいたのだろう。何処に蓄えたかよく覚えているものだと思う。専門家によると、忘れることも多く、その場合そこから芽を出すので、どんぐりの木のミズナラが広範囲に分布する役割を担っており、こうして自然の生態系が保たれているという。白一色の冷え切った森のなかでも小動物は生きている。

野幌の森は動物だけでない。人間も動いていた。歩くスキーを楽しむ人がやってきて、細い雪道を譲り合う。

「こんにちは」「こんにちは」あいさつが冷え切った空気に伝わる。少し上りだったためか、結構荒い息をしていた。雪の合間から小川が見えてきた。

雪が多いと小川もすっぽり覆われるだけに、小川のせせらぎをみると、森も春も近いと感じる。せせらぎの真中に芽が出て、せせらぎの流れを左右に分けている。よく見るとミズバショウの赤ちゃんだ。

この日一番の春を見つけた。(写真右) いまは芽出しだけど、これが5月頃になると、芭蕉の葉のように大きくなる。水と日光だけでわずか2ヶ月で百倍以上に大きくなる植物も、考えてみると恐ろしい生き物だ。

春が待ち遠しい。(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。