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北の国からのエッセイ
狙った恋の落とし方
【北の国からのエッセイ】
2010年04月01日
ちょっとひと捻りされて素直でないけど、興味をそそるタイトルは、映画の題名である。去年中国で公開されたこの映画は大ヒットし、3億人が鑑賞して興行収入約50億円を記録し、中国映画史上最大級の作品となったという。
多くの中国人を魅了したこの作品のロケ地は北海道、おかげで中国の北海道ブームに拍車がかかり、北海道には中国人観光客がどっと訪れている。
この映画が今月札幌でも上映された。北海道がどのように描かれているのだろう。映画館に足を運んだ。
婚活ドラマ
映画のあらすじは、発明品を投機資産家に売って、一晩で大金持ちになった主人公は、それを元手に「理想の妻を」探す旅に出る。さまざまな女性と会う中で美しい女性に出会う。
ところが、この女性は既婚男性に恋をしていた。彼女は不倫を清算するため主人公と北海道に旅立つが、主人公の煮え切らない態度に身投げをする。たまたま目撃していた漁船に助けられ、この出来事を契機に2人の絆は深まっていくという物語である。
今流行の婚活を始めた主人公と、出合った女との掛け合いが、深刻というよりは軽妙で、ときに笑いを誘う恋愛コメディーとなっている。
2人の揺れ動く気持ちが、雄大さと寂寥感をあわせ持つ北海道の景観を背景に展開する。真実の愛は北海道で試されるということだろうか。
主人公には中国映画界のトップを走りつづける名俳優の葛優(ダイ・ヨウ)、お相手の女性は台湾・香港映画界を代表する国際派女優の舒淇(スー・チー)、監督は2008年世界で最も影響力のある中国人大賞を受賞した馮小剛(フォン・シャオガン)。いずれも私にとってこれまで全く縁のない人ばかり、中国ナンバーワンという男優がどこにでもいそうな男に、なーんだと思うとともに親近感も感じられる。ただ演技は抜群にうまい。
北海道の大自然
舞台となった北海道は東部、地元北海道では「道東」と言っている地域である。阿寒・摩周・網走・知床などの自然豊かな地域が舞台だ。なんとなくラジオドラマが始まると、女湯をもぬけの殻にした伝説の「君の名は」を連想させる。「君の名は」のクライマックスの舞台は屈斜路湖の美幌峠だった。
映画で描かれた夕日に沈む阿寒湖は、物思いに沈む心を引き立たせるのだろうか。(写真下左)知床岩尾別の露天風呂や出現するクマは心の高ぶりを現すのだろうか。(写真下中)女性が身投げをするオホーツク海の能取崎灯台(網走)は地の果て、人生の終焉の象徴なのだろうか。(写真下右)
恋心を持つ男と女の繊細な心のあやが、道東の大自然の中にたくみに織り交ぜられていく。
一番感心したのは、北見・女満別の丘陵地帯「メルヘンの丘」付近の映像である。どこまでも続くアップダウンの直線道路が自らの気持ちを貫きたい期待と憧れを強調している。この付近の道路は、向う数十キロ一本道である。行けども行けども車はひたすら直線道路を走る。
蝦夷地を目指した坂本龍馬は志半ばで斃れたが、明治中期に甥の坂本直寛が、和人として初めて北見に入植したのが、ちょうどこのあたりの隣接地域だ。
北海道は広い。
「右を向いても左を向いても山ばかりで鼻がつかえる故郷の土佐と比べて、目の届くかぎり続く原始林と未開の草原に心を動かされた」のが自由民権運動の同志だった土佐の武市安哉である。武市は国会議員をやめて、旧約聖書の理想郷「カナンの地」を作ろうと先行して空知の浦臼に聖園農場を開き、これを見届けて坂本直寛が更に奥地の北見に入植する。この地域は鼻がつかえる所と対極にある地域で、地球が丸く見えるところである。
自然観察ツアーで2年に一度は道東地方を走り回っているが、見慣れた景観にうたた寝して起きてもなお直線道路だ。この直線道路を映画はうまく使っているのに感心した。緩やかな丘陵地に連なる両サイドの畑が、季節ごとに美しいパッチワークとなって、のどかな田園風景を演出する。
増える中国人観光客
札幌で観光ボランティアガイドをしていると、この2~3年中国人観光客がどっと増えてきたのに驚く。中国語のパンフレッドは繁体字と簡体字の2部が用意されているが、いずれもパンフの山がまたたく間に小さくなっていく。(写真左:観光情報室 3月10日)
彼等の特徴は年代が若いことだ。そして結構日本語を理解する。日本語がだめなら英語を話す。中国の国際化が急速に進んでることが垣間見れる。
何よりの驚きは買い物だ。電化製品から化粧品などの雑貨まで、ダンボール単位だ。みな航空便で送っている。
十年ほど前、ドイツの観光地ノイシュバンシュタイン城を訪れた。混雑する観光客を整理するため、言語別にロープが張られて列となっていた。一つは英語、一つはドイツ語、そして一つは日本語だった。
ノイシュバンシュタイン城は世界的に有名だけど、ドイツの南はずれ、オーストリアに近い辺地である。(写真右)こんなところにも日本人が一つの列を作る程大挙して訪れているのかとびっくりしたものだ。ノーキョー(農協)といわれていた時代である。さぞ日本人は外貨を惜しげもなく落とす気前のいい団体さんだったのだろう。
去年久しぶりにノイシュバンシュタイン城を訪れた。(写真上)相変わらず混んではいたが、入り口には日本語の列はなかった。見渡しても日本人はほとんどいない。様変わりだ。東洋系の顔をした旅行客に近づくと「キャンキャンキャン・・・」オクターブ高い中国語が聞えてくる。中国人が世界の観光地に氾濫することはそう遠くないことを実感した。
観光が目玉の北海道
資源のない日本にとって観光は重要な外貨獲得、雇用の場である。
前原国土交通大臣は「観光は設備投資の入らない外貨獲得手段だ」と言った。一次産業とともに観光が主要産業である北海道の高橋はるみ知事が、中国映画関係者に感謝の意を表したというのもうなづける。
たまたま26日、新千歳空港に新国際線ターミナルビルが完成し、華やかなセレモニーをテレビは伝えていた。(写真左)新千歳空港は民間機・軍用機併用の空港で、管制は防衛省が握っている。このため、ロシア・中国民間機の離着陸はわずか数時間に限定されていた。東西冷戦時代の政策が今日まで続いていたのだ。
ところが政権がかわると、長年つづいた制限はいとも簡単に緩和された。今までの規制は何だったのさ、と言いたくなる。4月以降中国機の乗り入れが大幅に増えることが予想される。英語の観光パンフレッドよりも中国語のパンフレッドが多く捌ける時代である。
1週間ほど前、中国テレビ局の人を重要文化財、旧北海道庁札幌本庁舎(写真右)の内部を案内していたら、やおら今の話を収録したいのでもう一度話してくれと要請された。車の中から急遽カメラと照明を取り出してセットし、ここまで歩いてこの辺りからおもむろに話し始めてくれという。単なるガイドとは話が違うと思いながら、どんどん断りきれない状況が作られていく。私はついにタレントになった。聞いたら中国国営放送の教育番組で放送されるそうだ。
「針の穴から天井のぞく」という。狭い了見かも知れないが、札幌という北の一地方都市からのぞいても中国の急速な経済発展と、数(人口)は力なりという迫力を日々感じる。これからの国際人は中国語が必須条件かもしれない。
新国際線ターミナルビルのみやげ物店が、中国語堪能な従業員を新規採用したとテレビは報じていた。これこそニュースである。(写真上:中国人観光客が必ず訪れる旧北海道庁札幌本庁舎で、記念写真を撮る中国人ツアー:28日)(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。
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