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高貴な輝き ヒスイカズラ
【北の国からのエッセイ】 2010年04月08日

札幌は3日、積雪ゼロになった。ほぼ4ヶ月ぶりに雪から解放された。

都心のビルでは、垣根の冬囲いの取り外しが始まった。(写真右)除雪車で削り取られた横断歩道の白線塗りも行われている。くすんだ横断歩道に、白くて真っすぐの太い白線が引かれていく。道行く人々のコートも、クマのような防寒具からレインコートに変わった。

札幌は本格的な春に向けて動き出した。

北国に珍しい南国の花
「ヒスイカズラを見に行かない?」

植物観察仲間からのお誘いは、他に用がない限りは断らない。名前は聞いたことあるけど、どんな植物か定かでないのに二つ返事でOKする。

ヒスイカズラは、花の色が宝石のヒスイに似ていることから命名された熱帯性のツルになる木だという。従って北国では温室でしか生育しない。

札幌の隣町、石狩当別の北海道医療大学薬学部の温室に車を走らせた。郊外に広がる広大な石狩平野は、まだ一面雪である。ただ雪の厚さはだいぶ薄くなっている。白一色から黒々とした土色に変わるのも、そう遠くない。(写真左:大学の高台から5日)

車で小1時間、道路わきの雪山がまだ高い温室に着いた。 

土手の土が見える南斜面にはフキノトウが顔を出している。「あらおいしそう」同行したご婦人から主婦らしき第一声が出る。フキノトウはちょっと大きくなると虫が入っており、小さいときに摘むのがコツである。都心から離れているため、粉塵などとは無縁の汚れなきフキノトウである。 味噌汁に入れると春の香りが漂う。

背後から「フキノトウにもオスとメスがあるんだよね」今では一目でわかっても、みんなで確認しあった植物観察1年生のときが懐かしい。土手まで行くのに足場が悪く、横目で眺めて温室に入る。

温室の入り口に入って、すぐ歓声があがる。

まるで、いらっしゃいませといわんばかりに、ヒスイカズラの花がぶら下がっている。濁りなき薄い青色の花、天高く雲ひとつなき秋空のブルーだ。まだ雪残る温室の外とは対照的に、ヒスイカズラのコーナーだけはノーブルな澄んだ雰囲気が支配する。

「ヒマラヤの青いケシの色だわ」そういわれると連想ゲームのように幻想的なケシ、メコノプシスを思い出す。(写真下円:滝野すずらん公園 03年6月)

さっそく温室の世話をしている人に話を聞く。この人は長年北大植物園で働いていたという超ベテランだ。

ヒスイカズラはフィリピン ルソン島原産で、大学の先生が日本で持ち込んだものだという。当時はまだ持ち出し禁止でなかったということで、北海道ではこの温室にしかないそうだ。全国的にも東京小石川植物園・新宿御苑・熱海熱川・京都植物園・長崎熱帯植物園など、ヒスイカズラを育てている箇所をすらすらという。どこにでもある花ではないようだ。

ヒスイカズラはマメ科であり、そら豆のような種子を作る。自然交配は蝶や蜂でなくてコウモリで、コウモリが甘い汁を吸いにくるとき、めしべとおしべが受粉するという。

ヒスイカズラの一番の特徴は、触られるのを嫌がることだという。触れたらどうなるのかと尋ねると、花は落ちるという。しかし「手を触れないでください」という注意書きはない。きれいな花には自然と手が伸びる。そのせいか、そばの水を張った洗面器には、落ちた花が一杯浮かんでいる。ブローチのような格好だ。記念に一個みんなでもらう。


都心の春
都心に戻ると時計台構内にフクジュソウが咲いていた。包まっていた花が開こうとしている。(写真右)まだ空気は冷たいかな。

去年までは時計台にフクジュソウはなかった。毎年この周辺を散策しては、観光ボランティアガイドをしているだけに、どんな木が、どんな草が生えているかみなインプット済みだ。誰かが植えたな。管理人に聞いてみた。北大OBのご婦人サークルが植えたそうだ。やはりそうか。

フクジュソウは野にあって初めて映えるもの、大都会のど真ん中ではねえ・・・
個人的にはあまり感心しない。

このサークルは、おととしは有島武郎が作った北大美術部のシンボル、クロユリを植えた。その前の年は、北大の校章にもなっているオオバナエンレイソウを植えた。しかし、クロユリにしろフクジュソウにしろ、明治のころには確かに時計台周辺に咲いていたのだろう。観光客が珍しいと、しゃがんで写真を撮っている。いつの間にか看板まで立った。(写真右)

ご~ん、ご~ん 毎正時ごとに鳴る時計台の鐘がなった。この鐘の音を聞いて農家の人は、畑で弁当を広げたそうだ。明治11年の創立以来一度も絶えることのなく鳴っている鐘の音である。

放送局の南斜面にはクロッカスが顔を出している。 都心で一番先に咲く花だ。(写真左:北1条西8)クロッカスが観察できるともう春だ。

これから札幌は、冬のほこりを洗い落とす作業に入る。大通公園では花壇が作られ、ベンチも設置され、大型連休が始まる29日から春の装い新たに札幌観光シーズンの幕があける。

サクラやウメの開花まであと1ヶ月だ。(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。