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色と匂い 漂う公園
【北の国からのエッセイ】 2010年05月18日

大型連休明け後の週末、札幌ではサクラがようやく咲いた。サクラの名所で知られる円山公園ではピンクのサクラと若草色の木々の葉で、半年振りに色彩感のある公園となった。

遠目で見ると、初々しい萌えるような色合いである。この時期、公園は一日一日変わっていく。わずか1週間で殺風景な冬の公園から、温かみのある春の公園と変身した。

繰り出す花見客
連休明け後の最初の日曜日の10日、円山公園では朝から場所取りが始まり、見る見る空間がなくなって大勢の花見客で賑わった。

北海道の花見というと、ジンギスカンが定番だ。円山公園は肉の焼ける臭いが充満した。
円山公園は風致地区であり、普段は火気の使用は禁じられているが、花見の時だけの一定期間は、使用が認められる。

ところが今年はサクラの開花が遅かったため、行政当局は急遽、火気の使用期間を1週間延長する、粋な計らいをした。

北海道のサクラ
満開になったサクラはエゾヤマザクラである。花の色は赤味がかり、花と一緒に葉も出てくるのが特徴だ。  (写真:左)

本州で咲く白いソメイヨシノは、満開までもうちょっとだ。
北海道で平地に自生しているサクラはエゾヤマザクラが圧倒的に多く、この他、チシマザクラ・カスミザクラの3種類がある。

根室千島方面で咲くチシマザクラが、暖かい札幌では一番早く咲き、ついでエゾヤマザクラ、カスミザクラの順に咲いていく。

この他、ソメイヨシノやサトザクラ(ヤエザクラ)などが続いて咲き、札幌は5月一杯はサクラが楽しめる。

花見をよそに観察会
エゾヤマザクラが満開の円山公園で自然観察会が催された。と言ってもサクラの観察ではない。私たちは花見客の輪を遠巻きにしながら、広い円山公園の別の林を散策した。

この時期の落葉樹はまだ葉が出ていない木が多い。
その中で、カツラの木は早くも若葉を出している。
特徴のあるハート型の葉が、規則正しく枝についてかわいい。夏になるとうっそうと繁り、秋には黄葉となって甘い匂いを出す葉である。

英語で「カツラツリー」で通用する日本特有の存在感のある樹であり、カツラの大木を見ると、この樹で碁盤が何面とれるかな、といつも思ってしまう。

カラマツの花に遭遇した。
高木のため普段はなかなか見られない花である。

たまたま崖下からカラマツが生え、崖の上のほぼ目線のところに枝が出て花を観察できた。

カラマツは雌雄同株である。花粉を出し終えた雄花はすでにしょんぼりしているのに対し、受粉した雌花は大きく赤く膨らんでいる。
(写真左の赤いのが雌花、茶色で小さいのが雄花)

オスは役割を終えるとなんとも冴えない。参加者の多くが女性だけに、なんとなく肩身が狭い。 赤く膨らんだ花は次第に色褪せて、秋には松かさとなっていく。

カラマツは常緑のマツの仲間では珍しく落葉する落葉針葉樹である。従って春に新芽を出すが、この芽吹きが実に美しい。

早春の 淡き芽吹きの カラマツは 北の大地の 郷土種なりて

40年以上、山一筋の人が詠んだ歌である。
カラマツはもともと北海道には自生してなく、明治時代国策で長野県から移入された。現在は北海道の主要な造林樹種となっており、道東地方の山のほとんどはカラマツである。

花粉症のもと
樹皮の白いシラカンバが、この時期一層白く見える。
枝先にぶらりとぶら下がっているのが雄花だ。無数の花粉を撒き散らす。

道南の一部を除いて、スギが自生しない北海道ではスギ花粉症に悩む人はいない。代わって花粉症のもとになるのはシラカンバの花粉である。

先日のテレビで、今年はシラカンバの花粉量が多いので注意をというニュースが流れていた。もともと植物は地球上に登場して以来、その生殖は風まかせである。

ところが風はどの方向に吹くかわからず、またどの程度吹くかもわからない。従って受粉効率は極めて悪い。このため子孫を残すために膨大な花粉を撒き散らして、数十万か、数百万分の一の確率で、なんとか受粉しようとする。

植物は長い年月をかけて風任せの裸子植物だけでなく、より効率的な虫媒花の被子植物も出現して進化していくが、それでも風を頼りに子孫を作る植物は多い。懸命に子孫を残そうとする行為が人間さまに迷惑をかけているとは、風任せ君は全く知らぬ存ぜぬことだろう。

ぶらりと垂れ下がっているシラカンバの雄花に対し、雌花はすぐ近くで、細く短く上に向いている。(写真下の円)

    

自家受粉しないよう、雄花と雌花の咲く時期に時差がある。近親結婚すると悪影響を及ぼすことを植物も本能的に知っているのがすごい。従って、雌花はすぐ傍の雄花からではなく、どこからか飛んでくる他の雄花からの花粉を受粉して果実を作る。生物の神秘を思い知らされる。

ここでも役割を終えた雄花は、あと1週間もすれば地面に落ちて野垂れ死にするのに対し、エキスをもらった雌花は逆に次世代をじっと抱え込み、女を謳歌する。

植物の世界ではどの種類もそうだが、オスは使い捨てが顕著だ。思いやりは全く見られず、オスの老後は哀れなものだ。人間世界にも広がらなければいいと思う。

それとも未来の人間世界を先取りしているのだろうか・・。

花より団子
円山公園をぐるりと回って2時間、ちょうど昼時に花見の輪が広がる広場に戻ってきた。
すると、食欲をそそる強烈な臭いが漂ってきた。あちこちでジージーと肉を焼いている音が聞こえる。

この風任せの臭いはたまらない。他人への影響は花粉以上だ。

来年は植物観察でなく、食物観察をしようと同好の士と話し合った。 (完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。