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癒しの森 体験ツアー
【北の国からのエッセイ】 2010年05月21日
「森に入ってストレスを解消しませんか」
「森の香りに包まれる至極の癒しを体験しましょう」


自然観察でいつも森を歩いているとはいえ、こうしたキャッチフレーズに弱い。森の持つ効果は森林浴などですでによく知られている。それでもどのようなことが現地で行われるのか、興味を持って体験ツアーに参加した。

森林療法
行き先はアイヌコタンで知られるポロト湖畔である。

苫小牧と室蘭のほぼ中間の太平洋に面している。湖そのものは近くにある支笏湖や洞爺湖ほど大きくはない。しかしアイヌの人にとっては、大きな湖に思えたのだろう。

アイヌ語で【ポロ・ト】=広くて大きな湖を意味し、アイヌの人は自然に恵まれたこの地に、【コタン】=集落をつくって住んでいた。

札幌からバスで1時間半、ポロト湖畔のビジターセンターについた私たちは森に入る前に、待ち構えた地元 の白老町の保健師さんから健康診断をうけた。(写真下)

血圧測定や口の中に試験紙をいれて、唾液によってストレス度調べる検査である。

森林散策前に測った私のストレス度は、参加者25人中最高の部類の数値となった。これはめったに一緒に行動しない家内が参加したためではないでしょうか、と答えた。

一通りの事前検査のあと、自然観察員のインストラクターを先頭に、さあ森に出発である。

自然休養林
実はポロト湖畔にはほとんど毎年のように訪れている。

春のスミレ、夏のアカゲラ、秋の紅葉、冬の凍結の湖散策とモモンガ観察、実にすばらしい自然休養林が広がる。(写真右:舟はアイヌの丸木舟)

ところが、しばらく歩くと5月も半ばになるのに森がまだ眠っていることに気づく。地面を覆う春植物の花もほとんど見られない。自然観察員によると、例年今頃はキタコブシやサクラがもう終わりの時期だが、今年は咲くどころか花芽がまだ固いという。

すでにエゾヤマザクラが咲いた札幌より南に位置するポロト湖畔ではあるが、太平洋からの海霧をまともに受けるため冷涼な気候となっており、もともと気温はそれほど高くはならない地域である。

ミズバショウの大群落
しばらく歩くと湿地帯にはいり、一面のミズバショウに歓声が上がる。

北海道のミズバショウは本州と比べて大きい。まさに「芭蕉」で、どちらかというと可愛げがない。
道産子の年配者は、ミズバショウを若い頃「ヘビノマクラ」と言ったという。ミズバショウはよそ行きの言葉だそうだ。誰も入らない気味悪い沼地に咲いた大きなミズバショウは、蛇の寝床にふさわしいと思ったのも、何となく理解できる。

ところがポロト湖のミズバショウはまるで尾瀬のようでじつにかわいい。(写真左)

沼地にかかる浮橋を歩いて左右のミズバショウを鑑賞し、盛んにシャッターを押す。ただ、湿地帯を流れる清流に、いつもは見られるクレソンが全く見られない。やはり気温が低すぎるのだろうか、それとも地元の人が失敬したのかな?

環境保全
このポロト湿原の上を室蘭から札幌に通じる北海道中央自動車道が走っている。(写真右)

この高速道路の建設に当たって、橋脚を湿地帯に建設しないよう地元が強く要請したそうだ。 この結果、今日こうした自然が保たれているという。

森には倒れた大木があちこちで見られた。


根元の黒土をさらけ出した倒れたばかりの高木もあると思えば、数十年もたってコケの生えた倒木もある。
除去せずそのまま放置して自然の分解にまかせているという。

微生物の分解で腐葉土となり、また虫が棲みついてこれを食べる鳥が訪れる。自然界の輪廻を垣間見れる森でもある。


大きく傾いて倒れんばかりの大木に出会う。よく見ると、幹の背中の部分が背骨のように張っていて幹が丸くなく、三角に筋が入ってごつごつ尖っている。(写真右:幹の白い部分)

また、付け根にはコブを作っている。これは木が倒れるのを防ぐため、本能的に背中に梁やこぶをつくって支えているのだという。数十年も踏ん張ってできた、木の生きるための姿でもある。 花だけでなく、葉がまだついてない木々もよく観察すると楽しいものだ。


冬の間エゾシカが食べたと見られる食痕が残る樹木も観察できた。

3時間ほど歩いて観察できた花は、ミズバショウのほか、紫色のタチツボスミレ 1個(写真左) と黄色いナニワズだけだった。

ポロト湖の春はまだだった。

癒しの森効果は
ビジターセンターに戻った私たちは、再び健康診断を受けた。血圧は下がり、ストレス度数も大幅に下がっていた。参加者は具体的な数値をみて満足し、充実した一日を過ごした。また昼食には地元食材を使った体に優しい弁当が用意され、アイヌ薬草茶も味わった。今回このツアーを企画したのは白老町観光協会である。

ポロト湖を魅力ある観光地・行楽地にしようと、町の8割を占める森林を「森林療法」とともに、「環境教育」を実践する「癒しの森」として売り出すのだという。企画した観光協会の若者たちに、自然観察員や町の保健師も協力した。

地域おこしのひとつの実践例でもある。

地域に根ざした若者の熱心な行動を見ると、森林散策以上の充足感を覚えた。 (完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。