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北の国からのエッセイ
オロフレ峠の魅力
【北の国からのエッセイ】
2010年06月25日
シラネアオイ
という高山植物がある。
そんな花シラネーなどと言わないでほしい。薄紫からピンク色のふっくらとした花で、優雅な気品のある花である。人によっては山野草の女王と言う人もいる。この花の群生地で知られる胆振のオロフレ峠を、6月中旬訪れた。
一幅の絵
オロフレ峠(930m)は登別温泉と洞爺湖のほぼ中間に位置している。太平洋側に面してガス(濃霧)がかかりやすく、道内で一番の多雨地帯である。実はこのオロフレ峠には去年も訪れた。その時は風雨が強く、視界不良だった。ところが今年は快晴、峠付近から見る眺望は抜群だ。
雪を頂くはるか遠方の羊蹄山の手前に、ダケカンバの樹林帯が広がっていた。まるで一幅の絵のようだ。(写真左)
左手前の雲海の切れ間からは洞爺湖が見える。野花観察はこれからなのに、車から降りた途端の素晴らしい樹林景観に、別世界に入り込んだ気持ちとなった。
雪残る峠
オロフレ峠はオロフレ山 (1230m) の登山口で、峠までは車で行ける。ところが、この日は峠の手前で車が多く乗り捨てられており、前に進めない。この時期路肩に車を置きっ放しにしているのは、タケノコ採りに山に入った人たちに違いないと思った。しかたなく車から降りると、様子がおかしい。峠に通じる道が閉鎖されており、登山者はここから山に向かって歩いていたのだ。なぜだろう。まだ山開きをしてないためだろうか。私たちも車の終着地点のオロフレ峠までの2.5キロを歩き始めた。
まもなく通行止めになっている理由が分かった。路上にまだ雪があるのだ。(写真右)
今年の春は低温だったとはいえ、海抜1000m程度でまだ雪が残っているのに驚いた。これではもしかしたら、目的のシラネアオイがまだ咲いてないのではという不安がよぎった。
この日は快晴、ふだんは車が通る広い舗装道路を、雪を避けながら歩くのは気持ちがいい。道の両側では、雪が溶けて土が見え始めたところから、フキノトウがぼこぼこ顔を出していた。1カ月以上も暦が戻った感じだ。
かわいいショウジョウバカマ(写真左)が道脇に咲いていた。
優雅な花
オロフレ峠からオロフレ山までの3キロほどの狭い登山道がシラネアオイの群生地である。ちょっと危険なアップダウンもあるが頂上まで300m、それほど厳しくはない。上り始めてまもなく、先に行く人たちから歓声が上がった。早くもシラネアオイが私たちを迎えてくれた。
咲き始めの初々しいシラネアオイだ。(写真右) 薄いピンクの広い花びらが風に揺れてひらひらしている。何枚も着飾った複雑な花ではない。ピンク一色の単純な花で、高山植物特有の凛とした美しさを持ち合わせている。
汗をかきながら山道を歩いて、こういう花に出遭うとたまらない。清楚で優雅なたたずまいに、心奪われるハイカーが多い。まさに高嶺(高値?)の花か。
前を進むご婦人に 「あなたもこういう時代があったのだろうねえ」「ええ、そうだわよ」 元気な返事が返ってきた。シラネアオイの花言葉は「優雅・完全な美」である。
シラネアオイは茎の高さが20~50cm、茎の頂きに直径5~8cmほどの花をつける。ひらひらとして花弁に見えるのは「がく」で、4枚に深く裂けていて花弁ではない。シラネアオイ科シラネアオイ属の1属一科、日本特有の植物である。冷涼な気候を好み、本州中部から北海道の亜高山地帯に自生している。環境省に先駆けて、北海道では独自に絶滅危急種に指定されている。
咲き乱れる高山植物
オロフレ峠はシラネアオイの一番の群生地で知られている。他にも多くの高山植物が観察され、自然愛好家人気の場所でもある。この日も多くの花が観察された。しばし、じっくりご鑑賞あれ。(写真下)
ツバメオモト
ミヤマキンバイ
ノウゴウイチゴ
イワカガミ
ミツバオウレン
ミヤマスミレ
まるで植物図鑑から飛び出したような花々が観察された。快晴の週末とあってこの日のオロフレ峠は賑わった。狭い登山道を譲りあって上り下りする。山に入っている人は道内近郊の人ばかりでない。
シラネアオイを求めて、東京など本州からのツアーグループも多い。
「どちらからお見えですか」
「群馬です」
「えっ、群馬!わざわざ本場からですか?」
これにはびっくりした。シラネアオイは群馬県白根山で発見された。花がタチアオイに似ていることから「シラネアオイ」と名付けられた。「白根山のシラネアオイはシカに食われてないんですよ」「オロフレ峠のシラネアオイは日本一ですね」
元気のいいおばちゃんツアーである。シラネアオイだけでなく、崖にへばりついて咲き誇っていたチングルマの群落に驚いていた。(写真左)
海抜1000mしかないのに、見事な高山植物である。植物学者によると、緯度の高い北海道は本州の標高にちょうど1000m足すとよいという。オロフレ峠では、ちょうど本州の2000mクラスの植物が観察されるということになる。
天然足湯温泉
往復10キロほどのハイキングだった。去年の悪天候のときには見られなかった花や眺望を、楽しむことができた。帰路、登別温泉の奥地を流れる川が白く濁っていた。温泉が流れているのだ。
大正地獄という温泉を噴き出しているところがあり、そこから川に流れていた。靴を脱いで足をつけると熱い。40度くらいあるだろうか。適当な切り株や丸太が川に置いてあって、座れるようになっている。
川底の砂や砂利を足でならすと、とても気持ちがいい。これこそ天然の足湯温泉だ。温泉宿の脱衣場に足の裏のつぼを刺激する健康器具が置いてある。あれと同じだ。足元の砂利で、足のつぼを刺激すると、このところ酷使気味の足にびんびんと響く。実に気持ちがいい。
ご婦人がたも、「す」が入った大根足を惜しげもなくさらして、川の中で天然足湯を楽しんだ。(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。
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