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北の国からのエッセイ
ラベンダー 満開
【北の国からのエッセイ】
2010年07月26日
ラベンダーのシーズンである。 丘の斜面一面に紫色の世界が広がる。 花穂が揺れて、ラベンダーの濃い香りが漂う。抜けるような青空に、白い雲がぽっかり浮かんでいる。もっとも北海道らしい北海道の風景の一つである。
ラベンダーと言えば、十勝岳連峰を背景に、初夏の風に揺られる富良野を連想することだろう。それくらいラベンダーは富良野に根付いており、毎年観光客がどっと訪れる。
ところがどっこい、ラベンダーの古里はこちらですよと頑張っているところがある。花の満開と重なった7月の3連休の一日、さっそく出かけてきた。
ラベンダー発祥の地
出かけると言っても、そう遠出することもない。
札幌市郊外、札幌市南区南沢地区である。
この地がラベンダー発祥の地であるという。(写真右)
南沢地区にある、東海大学札幌校舎の広い構内の一角にラベンダー畑があり、たまたま学生たちによるラベンダーコンサートが開かれていた。
ラベンダーの香り漂う構内で、ガイドをしてくれた南沢地区町内会連合会の役員の話をじっくり聞いた。
昭和のはじめ、南フランスを旅した若き日の曽田政治(曽田香料の創始者)は、地中海沿岸のプロパンスの丘を、紫色に彩ったラベンダーの色と香りに魅せられた。
「これを日本で育てられないものか」
曽田さんは心に思いながら、帰国した後の昭和12年、ラベンダーの種子5kgを輸入した。これを北見・札幌・千葉・長野・岡山の各地に試作した結果、生育状況は札幌が最も良かったという。
そこで南沢地区の麻田農園の北斜面一帯にラベンダーを植え、初めてラベンダーオイルの抽出に成功した。昭和17年のことだそうだ。戦後は、ラベンダーに加えてハマナス、バラなどの栽培も始まり、北斜面全体が「香りの楽園」となって訪れる人が絶えなかったという。
こうして、ラベンダー栽培熱が道内各地で高まり、富良野・ニセコなどにも苗移植が始まった。
ところが、昭和40年、ソ連などから安い合成香料が大量輸入される時代となって、経営が成り立たなくなり、やむなく昭和47年に閉鎖して、30年ほど続いた南沢ラベンダーが姿を消したという。
その後、南沢に進出した東海大学が構内にラベンダーを植えて、今日に至っている。(写真左)
ファーム富田
一方、 富良野でラベンダー栽培を始めて、悪戦苦闘していたファーム富田に一大転機が訪れた。
昭和50年、国鉄のカレンダーにファーム富田のラベンダー畑の写真が掲載された。一面に広がる紫のじゅうたんと青い空、外国を思わせる富良野の丘陵に、日本でもこんなところがあるのかと人々は驚き、翌年から観光客がどっと押し寄せた。(写真右:08.7.22)
このあたりはオホーツク海沿岸の砂浜に咲き乱れる野花が、雑誌「旅」に「原生花園」として紹介されてから、観光客がどっと押し寄せるようになった事例を連想させる。
当時ラベンダーはファーム富田一軒だけだったが、今では富良野から美瑛にかけてラベンダー畑があちこちで見られ、見事な“花街道”になっている。
今日、富良野がラベンダーの発祥地だとほとんどの人が思っている。南沢の人にとって気持ちのいいものではない。富良野にとっても発祥地と名乗っていても忸怩たるところがある。そこで双方が話し合いを持ち、南沢の麻田ファームが「生産ラベンダー発祥の地」、富良野のファーム富田は「観光ラベンダー発祥の地」にしたそうだ。
これというのも、ラベンダーが有名になりすぎたからに他ならない。南沢地区町内会連合会の人がこう言った。
「現在ラベンダーが富良野の丘に息づいているのはうれしい限りです。しかし、北海道のラベンダーが南沢に始まった。その歴史だけは忘れることなく、残したいものです。」
有名な富良野には混むとわかっていても、この時期観光客の人の波が絶えない。
その一方で無名の南沢には、近くの市民が三々五々訪れてラベンダーを堪能している。(写真左)
5種類のラベンダー
同じ札幌南区に、さらに郊外の滝野地区に「滝野すずらん丘陵公園」がある。 国設の公園で広大な敷地に四季の花が植えられ、冬は子供たちの格好のスキーやソリのスロープとなる。ここにも、この時期ラベンダーが満開だ。南沢より広く、しかも国内で栽培されている5種類のラベンダーが植えられている。
ひとつひとつラベンダーの特徴を聞きながら、炎天下を歩いた。
紫色の濃いもの、薄いもの。
花穂が長いもの、短いもの。
香りの強いもの、弱いもの。
それぞれ特徴があるという。
一応すべてカメラに収めたが、皆同じように撮れていて区別がつかない。ただひとつ、白いラベンダーというものがあり、これは区別ができた。(写真右:白いラベンダー“アルバ”)
ラベンダーはシソ科の植物である。ヨーロッパの地中海地方が原産だという。
去年スペインを訪れた際、トレドに近いラ・マンチャ地方の丘の上に風車があり、その隣にお城があった。そのお城の石畳階段の途中にたまたまラベンダーが咲いていた。(写真左09.6.6)
色はあせており、匂いをかいでも風が強かったこともあって、さほどの香りもしなかった。原産地に自生しているものはこんなものかもしれないと思った。
富良野や札幌のラベンダーの方が、よく洗練されている。
香水や石鹸にするラベンダーは咲き始めの花を摘む。
トウがたった満開のラベンダーは、香水商品にするにはすでに時期を失しているという。
ラベンダーは単調である。その単調なラベンダーが丘一面に広がると、絵になり物語になる。
暑い夏が続き、猛暑日到来が伝えられています。
ラベンダーを吹き抜ける風を添えて、暑中見舞い申し上げます。
(完)
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。
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