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森と湖の国フィンランド(1)
【北の国からのエッセイ】

2010年08月18日

フィンランドの首都ヘルシンキから北西にほぼ200キロ、タンペレという地方都市がある。人口18万人、それでもフィンランド第2の都市であったが、最近ヘルシンキ郊外の衛星都市に抜かれて3番目になったらしい。
この地で7月下旬からイベント(ヨーロッパ碁コングレス)があり、2週間余り滞在した。 期間中は碁を打って国際親善に寄与するが、休日や公式対局1日1局の空いた時間を活用して、観光・趣味の自然観察とフィンランドを見て回った。

高緯度の町 タンペレ
タンペレは北緯61度に位置する。 日本の最北端の稚内が北緯45度だから、それよりはるか北に位置し、サハリンよりさらに北のカムチャッカ半島の付け根付近に相当する。夏至が過ぎたため白夜ではないが、それでも午後11時近くまで明るい。

このような高緯度でも日中の気温は20度から28度ほどあり、今年はとくに暑いようだ。面白いことに日中の最高気温は昼過ぎではなく、午後6時ころになることが多いのに気付く。午後6時はまだ明るくて昼間だということだろうか、夕食をとるには早すぎる。

例年より暑いといってもそこは北国、タンペレは札幌よりも少し気温が低く、快適な夏だ。朝は半袖では少しひんやりとする。酷暑の東京・関西方面からイベントに参加した日本人は、まるで別世界だと喜んでいる。

このタンペレの町を、より涼しく見せているのが湖である。
(写真左) 

人の数より湖沼の数が多いとオーバーに語られるフィンランドであるが、タンペレも湖の傍というよりは、2つの大きな湖を取り込んで発展した町のようだ。

2つの湖には18mもの水位差があり、この落差を利用した水力発電によって、国内屈指の工業都市となっている。


高い煙突があちこちに見受けられるが、黒煙や白煙をもくもく吐き出している煙突ではない。(写真右)
レンガ造りで観光資源の煙突のように見えて、とても工業都市とは思えない。

林業と農業の貧しい国だったフィンランドは、20世紀後半から携帯電話生産世界一など、IT産業を中心とした豊かな国に様変わりした。工業都市とは思えないしっとりとした街並み、市民の服装や表情から、生活を謳歌するゆとりが強く感じられる。(写真下左)

消費税は22%と高いけれども食料品は10%台、医療費は無料、教育も大学まで一切無料だという。

数十年前、日本の総理大臣が、「このままでは日本はフィンランドのようになってしまう」と失言したことに対し、フィンランド政府が猛烈な抗議をしたことがあるという。

日本では消費税を仮に20%にしても、医療費も教育も無料になるとはとても考えられない。それほど日本では税金が無駄に使われているということだろうか。いまとなっては「日本はフィンランドのようになってほしいと思う」と失言総理に申し上げたい気もする。

湖畔めぐり
生臭い話はさておき、さっそく湖を回る遊覧船に乗ってみた。(写真下:筆者) 
海のように広くても内水面だけに湖は穏やかだ。

フィンランドに無数にある湖沼は、氷河に削り取られた産物だ。悠久の地球の営みに思いを馳せながら、左右の自然を見渡すと、湖畔のあちこちに大きな起重機のアームが首を突き出している。この起重機も大きな煙突と同様、街の景観ポイントになっている。

タンペレは垢ぬけした面白い工業都市だ。湖畔に近い水面を見つめていると、何かしら小さくて黄色いものがいくつも眼に入った。


双眼鏡を取り出してみると、コウホネ(スイレン科)ではないか。(写真左)

こんなところでコウホネが観察できるとは驚いた。
コウホネには数種類あるが、葉が空中に突き出ず、水面に浮かんでいることから、日本でいうネムロコウホネかオゼコウホネの仲間だろうか。



後日湖畔の森を散策したとき、再びコウホネに遭遇した。船からとは違って、近いところにコウホネの黄色い花が可憐に咲いている。

カメラの焦点を合わせていると、カモがファインダーに入ってきた。パチリ。(写真右) 
もしかしたらこのコウホネは地理的関係からみて、遊覧船からみたコウホネではないかと思った。

湖畔の野花
人の手が余り入ってない湖畔には、少ない夏の野花が観察された。


ピンクのヤナギラン、黄色のアキノキリンソウなど、北海道でもおなじみの花に混じって、珍しいうす紫のエゾミソハギに遭遇した。(写真左)

エゾミソハギは阿寒湖畔で観察したことがある。
姿がハギに似ていてちょうど旧暦のお盆の頃に咲き、仏前に供えられる花、ミソギハギ(禊萩)が略されてミソハギになったらしい。

コウホネにしろ、エゾミソハギにしろ、懐かしい花にはるか彼方で再会できると、とても親しみを感じる。しかしどこかで見たようで思い出せない存在感のある花も咲いていた。(写真下)
一見マツヨイグサのようにみえるが、キバナウンランか。現地の図鑑ではキバナノレンリソウのようにも見え、はっきりしない。

もしキバナノレンリソウだとすると、同じ仲間のエゾノレンリソウは、襟裳に近い十勝の百人浜などで観察したことがあるが、花の色は紫だった。

もっとも同じ種類でも花の色は、広い地球上ではさまざまで、驚くにはあたらないと専門家はいう。春の妖精カタクリと言えばピンクを連想するが、アメリカでは黄色いカタクリがある。

フクジュソウは日本では黄色が定番でもヨーロッパでは赤、黄色いタンポポもロシアでは赤いタンポポ(コウリンタンポポ)である。しかし現実にはいつも見ているものと違う色の花をみると、珍しさも加わって興味がわくのも面白い。

異国の野山を歩いて、植物が数千万年の営みの中で、地域ごとにどのように進化していったのだろうかと思うと、時間がたつのも忘れてしまう。  (つづく)

(写真左:湖畔のあちこちで散見される煙突と起重機 )
望田 武司(もちだ・たけし)
1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。