昨年の第1回合宿(物理)は各方面から高い評価を受け、今年は企業の研究所のノーベル賞候補の研究者の講義や実験が新たに加わったほか、授業の模様が初めてライブ配信される。富士山登山なども盛り込んだ計約3000分のカンヅメ授業で、塾生たちが将来の科学者への夢をつかんでくれることが期待される。毎日の授業の模様を報告する。
[開塾の挨拶]
開塾に当たり、有馬朗人・塾長が挨拶した。
「この塾は創造性をどうやって育てるかを目指している。そのために、ノーベル賞受賞者の白川英樹、李遠哲さんはじめ大勢の現役の科学者、研究者、中学校の理科教師など優れた先生たちが指導してくれます。この8日間で、理論的な面と実験で自然科学はどうなっているのか、自然科学の何がおもしろいのか、を学んで下さい」と、あの優しい語り口で話した。
さらに「『不思議、なぜ、と自然現象に関心を持て』として、『太陽はどうして上がるのか』『なぜ、台風が発生するのか』など世の中は不思議なことだらけ。人類はその不思議を一つ一つ解き明かしてきた。中学までは、えり好みしないで文科も理科も歴史、文学、生物、化学、物理など広く学んで下さい。そのうちに関心を絞って、『じゃあ』と目指した分野に突き進んで下さい」と、常日ごろの若者に期待する、有馬節が熱く語られた。
『1時限目』―「科学や技術が地球の危機、人類の危機を救う」
続いて有馬塾長の授業では、地球の危機として以下の3つを挙げ、それぞれの現状と将来、それへの科学技術の関わり方に触れた。
「地球は今、①エネルギー資源不足、②食料不足、③地球温暖化、とさまざまな危機に直面している。エネルギーや食料など、資源のない日本では、資源を輸入し、加工し、輸出していくことでやっていかなければならない。そのためには、夢だけではなく、科学的な技術、開発が不可欠であり、つまり創造性が必要になる」と塾長は語る。
これらの問題を解決する方法として、①節約(3R運動(Reduce,Reuse,Recycle)・もったいない運動)という抑制的な方法と、②新エネルギーとしてバイオマス(生物群をエネルギー源として利用する方法)が理想的とした。
最後に有馬塾長は、塾生に向けて、「大きな志を持つ」ことが重要と訴え、宇宙の進化、生命の起源、地震の予知など、いまだ解明されていない大きな謎を挙げ、これからの将来と、それを担う塾生に大きな期待を示した。
『2時限目』―「分子の衝突と化学反応」=李遠哲・前(台湾)中央研究院院長、ノーベル化学賞受賞者
講義の前に、と断って話し始めた「自分の育った経験」。
小学校時代は戦争で2年間学校へ行けず、自然の中で、四季の変化に触れ、人間の生きる姿を学んだ。中学時代には、先生が「クラス全員が同じ高校に合格」を呼びかけ、友達の皆に理科を教える役になった。それで一生懸命勉強した。自信を持てた。
更に、高校時代にクラブ活動に熱中したために病気で倒れ、学校を一ヶ月休んだ。その時、人生を深く考えた。学校や家を超えて、自分の道を探さなければならない、と決意したのが「立派な人間になりたい(有名、偉い人という意味でなく)」だった。
「学校や周りの人に左右、制限されずに自分の道を探し、自分の生き方は自分でコントロールしなければならない」と、自らの核となる指針を語った。
この決意を持って進んだカリフォルニア大学での指導教授は、何も教えずに、常に「What’s new?」(何か新しいことした?)としか言わない。そして、「次は何をするの」だけ。その繰り返しだった。
「何か大きなことを学べると思っていたのに、がっかりした。しかし、何かを指示されるのではなく、未知の世界に入り、新しいことを自分で学ぶことが、何よりも大切なことを教わった」と振り返った。この2人の“良い先生との出会い”が成功の礎になった。
◇ ◇
その後、李先生は化学反応の仕組みや、自らがノーベル賞を受賞するきっかけとなった実験の説明をした。
塾生は、まだ学校でも学んでいない化学記号やその仕組みに「難しい」と苦しみながらも、真剣に授業を聞き、休み時間には質問をするなど、積極的な姿勢がうかがえた。
分子の衝突を野球に例え、松井秀喜選手の打つホームランの話を出しながら、バットとボールが“衝突”、ボールの飛び方の軌跡を分子に置き換えて、その仕組みを説明した。
また、自らの実験に使った機械の写真を見せ、目に見えない分子の研究に塾生たちは目を輝かした。
李先生は最後に、「世の中で天才といわれている能力や、創造力というものは養成できる」とし、人に示されたこと、人と同じことをやっていては、科学の進歩はありえないと語った。
「成功体験をすることで、自分に自信を持ち、創造力が生まれる。そのためには失敗することももちろんあるが、今のアジアの文化には、失敗しても良いという文化、子供を尊敬して、自信を持たせる文化というものが足りない」と、自分自身で考え、成功することで、人と違うことを恐れない創造力が育まれるということを強調した。
ノーベル化学賞受賞者である自らを振り返り、「ノーベル賞を目指すのではなく、立派な科学者になって、社会の役に立つ、ということを目標にしてください」と、視野の広さの重要さを強調していた。
『4・5時間目(実験)』- 「燃料電池自動車を走らせよう」=小森 栄治・蓮田市立蓮田南中学教諭
生徒の手のひらに、シャボン液を垂らし、そこに酸素と水素を入れてシャボン玉を作る。そのシャボン玉に、先生が火を近づける。ボンッという音が鳴り、手のひらのシャボン玉が爆発。
このような実験で生徒を驚かせた後、メインの燃料電池の実験。プラスチックのケースに備長炭を2本入れ、それぞれを電極につなぎ、電気を通すために電解液でケースを満たす。これで電池は出来上がるが、この電池の動力を左右するのは電解液。何を入れれば一番良く電気を通すのか。班ごとにその研究に挑んだ。混ぜるものは、食塩、砂糖、入浴剤などさまざま。温度や量などを試した。この実験には正解はなく、目的は、「車を早く走らせること」。最後にレース。結果は10班中2メートルのコースを完走したのが2班。先生は、全部の班に何を混ぜたかを発表させた。「失敗にも原因があり、その一つ一つを突き止め、成功につなげることが重要」と、一つ一つの班の原因を探った。塾生たちは、思うようにいかずに難しそうだったが、“とにかくやってみる”ということも重要であることを学んだようだった。
『6.7時間目(実験)』-「炭素のゆくえを追いかけよう」=宮内 卓也・学芸大学付属世田谷中学教諭
木材(割りばし)に含まれるセルロースという成分が、加熱したり、他の化学物質と反応させることでどのように変化していくのかを学ぶ。加熱、酸素中で過熱など、実験をするごとに変化する。
二酸化炭素中に、点火したマグネシウムを入れる実験では、花火のように火花が散り、その反応の大きさに驚きの歓声が上がった。
宮内先生は、「通常の学校での授業よりも長い時間をとり、実験ができたことで、物質の変化という、繋がりのある実験をすることができました。物質が変化をしながら、めぐっているというイメージを掴んでほしい」と今回の実験のねらいを語った。
塾生は、「普段の実験ではできない大掛かりな実験ができておもしろかった」、「物質が変化していく様子が良くわかった」と、実験に満足していた。
『8時間目(講話)』―「創造性の育成」=関本忠弘・元NEC会長
日本で2人目のIEEE賞(世界最大の電気、電子分野の賞)受章者である関本さんは、自身の生い立ちから東大物理学科を経てNECでの取り組みを話した後、長年の経験から「能力=素質+教育」、「成果=能力+やる気+つき」との論を示した。
さらに、科学に挑む3つのキーワードを上げた。
《感じる》=「Whyの気持ちを常に持とう。それが本質に迫る」
《信じる》=「自信と誇り」を持ち、「謙虚と反省が必要」
《行動する》=「まず、意志ありき」そして「意欲から行動が生まれる」
最後はクラーク博士の言葉を引用「若人よ、大志を抱け」を塾生に訴えた。
質疑の時間には、「自分の素質を見つけるためにはどうしたらよいですか」という質問に、「自分にあった分野が見つかる時期は、人や分野によって違うが、さまざまな人と出会い、質問があったらぶつけていくことで、答えが見えてくる」と答えた。