昨年の第1回合宿(物理)は各方面から高い評価を受け、今年は企業の研究所のノーベル賞候補の研究者の講義や実験が新たに加わったほか、授業の模様が初めてライブ配信される。富士山登山なども盛り込んだ計約3000分のカンヅメ授業で、塾生たちが将来の科学者への夢をつかんでくれることが期待される。毎日の授業の模様を報告する。
『1時限目』-「理科の面白さ」=龍崎邦雄・江戸川区立小岩第二中校長 瀬田栄治・葛飾区立双葉中校長
「錯視」がテーマ。白黒の図。黒に視点を置くと女性二人が向き合う。白に視点を置くと中国古代の盃になる。そのほか、ちょっとした付属物が入ると平行線なのに斜線に見えるなど、塾生は“目の錯覚”に驚かされた。「人の目は正確といわれるが、このようなことがしばしばある」と龍崎先生。
続いて瀬田先生は、薄いプラスチックの円筒の中にオモチャのヘリコプターを入れ、その時の円筒の重さと、ヘリコプターが円筒の中で飛んだときの円筒の重さ、さらに円筒の周囲に穴が開いた時、それぞれの重さの比較を問うた。さまざまな要件での比較を考える課題だった。
『2,3時限目』-「ハランの葉の不思議さについて観察を通して考える」=渡辺昭・ソニー教育財団総括主幹
ハラン(葉蘭)の葉を一人一枚づつ渡される。それぞれに、その特徴を書かせる。次に左右不相称の葉の主脈の左右それぞれの面積の測定。それぞれが創造性発揮して測定に挑んだ。塾生たちは初めて見るたった一枚の葉から繰り出される出題に、真剣に挑み、
ほとんどが正解にこぎつけた。
午後 『4,5時限目』-「化学が作る未来社会」=姫島義夫・東レ研究・開発企画部長ほか
化学分野の新しい素材をを用いた新製品を数多く世に出し続ける東レの特別実験講座。いろいろなデモンストレーション実験を繰り出した。
① 自動車、航空機などに使用されているカーボンファイバーは燃えにくい、切れにくい
糸の特性を生かし、消防服、防弾チョッキになっていると言う。その布が燃えない実験。
② 石油から採った酸化化合物と、ジアミンからナイロン糸を作り出す実験。
③ ぬるま湯と氷水のつなぎ目に電極を接すると、その先の風車が回り始める。温度差での発電実験。
そのほか、同社が取組む新技術も紹介された。
『6時限目』-「物質の粒子概念について」=山口晃弘・品川区立小中一貫校日野学園主幹
「水とエタノール」を同量づつ試験管で混ぜた後の体積の変化。「水と水」「エタノールとエタノール」の場合も変化を求めた。「水とエタノール」では事後、体積は減ることを確認する実験。すべての物質には粒子があり、それぞれ大きさが異なる。水とエタノールの場合はエタノールの粒子が水のそれより大きい。そこで、エタノールの粒子の隙間に水の粒子が入り込むため、元の体積が減る。塾生たちは組になって取組んだが、中には液をこぼしたりエタノールが蒸発するなどで、なかなか減らない組も出て、苦しんでいた。
『7時限目』-「宇宙飛行士の仕事と夢」=山崎直子・宇宙飛行士
NASA(米宇宙航空研究所)で訓練中の女性宇宙飛行士、山崎直子さんが日本での訓練のため帰国した機会にお願いしての特別講義だった。
数年後に宇宙飛行を予定している山崎さんは訓練用の青い宇宙飛行士姿で登場、小学生のころ、宇宙に夢を抱いたこと、東大で航空宇宙工学を専攻、宇宙飛行士に挑戦した時の試験のことなどから話を始めた。
続けて、スライドを使って、8年間の厳しい訓練で身に付けた「宇宙の生活」(睡眠、トイレ、食事など)について解説した。さらに、宇宙に行ってからの研究課題としては①新合金の製造実験②半導体、たんぱく質結晶成長実験③生命科学実験など宇宙での実験が期待される分野に取組むと話した。
この後、「宇宙クイズ」。「宇宙船の中で、紙飛行機は真っ直ぐ飛ぶか」「宇宙船酔いはするか」などが出され、塾生たちの答えは半々に割れ、「エーッ」。
最後の塾生たちからの質問は圧巻だった。山崎さんは、相手が将来の科学者を夢見る塾生ということもあって40人の塾生のうち15人からの質問に一つ一つ実に丁寧に答えた。いくつかを紹介する。
Q =宇宙ステーションの「きぼう」(日本の実験棟)でやりたいことは?
A =6ヶ月滞在することになりますが、動植物を持っていって育てたい。それも何世代も続けるつもりで。それに船外遊泳もしたいと思っています。
Q =船内で重病にかかったらどうしますか。
A =軽い場合は自分たちで治療します。重い時は近くのロシアのステーション「ソユーズ」で帰還しますが、それはなかなかできません。一番かかる重病は歯痛だそうで、その時はペンチで自分で歯を抜かなければならないそうです。
Q =宇宙で楽しみにしている食事は?
A =ラーメン。粘り気のある汁をパックでもっていきます。それから寿司。皆に握ってあげるつもりです。
講義の後、塾生と富士山をバックに記念撮影、その後も塾生たちは山崎さんを囲んで三々五々、写真撮影を頼み、山崎さんはそれにも快く応じていた。
『8時限目』-「正義感だけではダメだよ、環境問題」=中西準子・国立産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センター長
昭和40年代はじめ、取り組んだヘドロ公害(静岡県冨士市の製紙工場から排出された汚泥汚染問題、田子の浦港がヘドロの海となり、公害の象徴言われた)での調査から、その後、各種防止策が施された結果、改善された経過を説明した。
続いてDDTの世界での禁止からマラリア対策として昨年の一部緩和策の背景。
最後は、専門の「リスク問題」。
「リスクは用途によって影響が異なる。単純に決め付けられない問題だ」として①地球温暖化と原子力②農薬と耕地の開発③水道水の消毒と発ガン性物質―を例に揚げ、「各リスクを定量的に計測して、リスクを推定できる科学を身に付ける必要がある。正義感は往々にして悪者を徹底的に排除する方向があることは注意する必要がある」と、力説した。
女性宇宙飛行士の山崎直子さんが行う講話には、メンバーが参加した。