「ニュートリノと重力波で探る宇宙の謎」梶田 隆章 東京大学卓越教授/ノーベル物理学賞

天文学は光を観測する望遠鏡とともに発展しました。しかし、光だけでは解けない宇宙の謎も実はたくさんあるのです。1912年のヘスによる「宇宙線」の発見から講義は始まりました。

お話は梶田先生が研究されてきた「ニュートリノ」へ。他の物質とはほとんど反応しないニュートリノですが、稀に原子核と反応して光を生じます(*1)。ニュートリノ天文学を開拓した 小柴先生(梶田先生の先生) (*2)は、この光を手がかりに「カミオカンデ」という装置を使い、超新星爆発から放射されたニュートリノを観測することに成功しました。たった10個程度のニュートリノは超新星爆発のメカニズムの解明につながりました。その後、約20倍大きなスーパーカミオカンデが建設されます。残念ながらそれ以降、我々の近くの銀河で超新星爆発が起こっていませんが、次の爆発を待つ一方で、宇宙全体で過去に起こった多数の超新星爆発のニュートリノの名残(*3)をかき集めて観測する計画も進行中です!

光で見えない宇宙を見る方法として、ブラックホールなどにより生じる「重力波」があります。レーザー光を干渉させ、わずかな時空の歪みを検出する実験が進められてきました(*4)。2015年にはブラックホールが合体した際に生じる重力波信号の検出に成功しました。重力波を捉えるのは、そんなに簡単な話ではありません。地球と太陽の間の距離に対して水素原子一個分くらいの距離の伸び縮みを測定する必要があります。日本でもKAGRAという重力波検出器の開発がスーパーカミオカンデと同じ岐阜県神岡町で行われています。2024年の能登半島地震による被害を乗り越えパワーアップしたKAGRAは、2025年6月、国際共同観測に復帰しました。KAGRAは、世界各地の他の重力波検出器とも協力しながら国際共同観測を行います。なぜ、競争ではなく協力なのでしょうか?重力波がどこから来たかを特定するには、複数の重力波検出器が必要だからです。

お話はニュートリノに戻ります。
ニュートリノが質量を持っていれば、飛行中にその姿を変えることが予言されていました。これを「ニュートリノ振動」と言います。この現象は実際にスーパーカミオカンデなどで観測され、ニュートリノには質量があるということがわかりました。これは「宇宙になぜ物質があるのか?」という大きな謎を解く鍵になるかもしれません。

様々な研究成果を上げてきたニュートリノ研究ですが、スーパーカミオカンデをさらにパワーアップさせた「ハイパーカミオカンデ」が2028年の実験開始を目指し、建設されています。 。梶田先生は、これを使って宇宙の謎を解くのは皆さんです!と講義を締め括られました。

質疑応答では、重力波実験装置に関する素朴な疑問から、ニュートリノの到来を待つ間の気持ちなど様々な質問が飛び交いました。

(*1) チェレンコフ光と呼ばれます。カミオカンデのようなニュートリノ検出器は「水チェレンコフ検出器」と呼ばれます。
(*2) 小柴先生は第一回創造性の育成塾でご登壇。
(*3) 超新星背景ニュートリノと呼ばれます。講義にもありましたが、スーパーカミオカンデの水にガドリニウムを加え感度を高めることで観測に挑戦しています。
(*4) 初日の五神先生の講義でも出てきたレーザーです。光で見えない宇宙の観測のために光を使うのは面白いですね。

(6期 直川史寛)