「脳の性差と多様性」大隅 典子 東北大学大学院医学系研究科教授

夏合宿の最終講義は、東北大学の大隅典子教授が登壇しました。
講義は、東北大学の理念の紹介から始まりました。同大学は「研究第一・実学尊重・門戸開放」を掲げ、1913年に日本の大学で初めて女子学生を受け入れた歴史を持ち、現在では国際卓越研究大学として分野横断的な研究を推進しています。

 大隅先生ご自身は、10代の頃になりたかった職業はキャスターや建築家など多種多様だったというお話もあり、塾生たちも親近感がわいたのではないでしょうか。

 次に、先生は脳の発生について、画像とともに説明されました。受精後3週間から神経発生が始まり、神経管であったものが6週、8週と成長していく様子を塾生は真剣な表情で見ていました。人間の大脳は、早くできた神経細胞がより深層に、後からできた神経細胞が浅い層に分布するインサイド・アウトパターンと呼ばれる層状構造をとっているそうです。これにより、鳥類などに比べて複雑な脳の発達が可能になりました。

 脳の発生のお話を踏まえて、今回の講義の主題である脳の性差について。
2000年代に入り実際に脳を取り出さなくても研究が可能になってから、脳の研究が大きく進んだことを、神経回路レベルの性差や脳の成熟の差の画像を見ながらお話されました。

 しかし、研究が進むと同時に、その研究結果を現在のジェンダー意識と結びつけるような短絡的な考えが見られたそうです。先生は、研究によって得られるのはあくまで平均値であり、個人差を軽視すべきではないことを強調されました。また、社会のジェンダー意識は脳の性差だけでなく、幼少期の性別の刷り込みや無意識のバイアスによって生まれてきていると指摘されていました。

 質疑応答も活発に行われました。「日本の女子の理系進学が諸外国に比べて少ないが、その原因の幼少期の刷り込みはどのように改善すべきか」という質問には、「まず、日本では男性が子育てに参加する時間が少ないことが問題である。男性が子育てにより参加することで幼少期の性別のイメージの刷り込みを少なくすることができるだろう。また、女性リーダーが少ないことが意思決定への女性視点の欠如を招いている。」と答えました。脳の研究だけでなく、女性の理系進学を促すことに尽力されてきた先生のお話は、塾生が社会のジェンダーバイアスについて考えるきっかけにもなったでしょう。

 最後に先生は、詩人金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」という言葉を引用し、脳の違いを優劣でなく個性として受け止める重要性を語り、講義を締めくくられました。


(14期・坂井陽葵)