「創造性の育成塾・夏季合宿レポート」③=8月6日

 「創造性の育成塾」の第2回夏季合宿が4日、山梨県富士吉田市の「(財)人材開発センター、富士研修所」で開講した。今年のテーマは「化学」が中心。全国から選ばれた理科好きの中学生40人に対し、ノーベル化学賞受賞者の白川英樹さん、同賞授賞の李遠哲さん(台湾)をはじめ、わが国屈指の科学者、研究者、教師が、11日までの9日間、講義、実験、講話を続ける。
昨年の第1回合宿(物理)は各方面から高い評価を受け、今年は企業の研究所のノーベル賞候補の研究者の講義や実験が新たに加わったほか、授業の模様が初めてライブ配信される。富士山登山なども盛り込んだ計約3000分のカンヅメ授業で、塾生たちが将来の科学者への夢をつかんでくれることが期待される。毎日の授業の模様を報告する。

『1時限』=「科学の世界の右と左」=黒田 玲子 東京大学教授、総合科学技術会議議員

 黒田先生の授業では、自然界の右と左の話から始まった。
普段気に留めない右と左の違いに、実は重大な意味があるという。
分子にも左右の違いがあり、右だけを集めること、左だけを集めること、あるいは両方を混ぜることによって、結晶の形が変わる。そのようなことが発見された歴史を話し、自らの構造解析の研究内容も交えながら、「最先端のことを調べるときは、道具から作らなきゃいけないんです」と、自らの名前がついた装置を写真で見せた。
また、「巻貝の巻型の研究」を説明。たった一つの遺伝子で決まる右巻きと左巻き。その巻き方が決定するのは、第3卵割(受精卵の細胞分裂)のときだという。卵割するその瞬間に、右に動くか、左に動くかで、巻形が決まる。その瞬間の貴重な映像を見せてくれた。研究のために設立した巻貝大量飼育システムの写真を見せながら、「巻貝が何よりもかわいい。出張先から研究室に電話すると、研究室のみんなの無事より先に、巻貝の無事を聞いちゃうんです」と冗談を交えて話した。こんな黒田先生に、塾生たちは、権威ある学者の生の姿に接し、身近に感じたようだった。
巻貝の研究で、今までの説を覆す結果を出した黒田先生は、塾生に、「教科書を、頭から信じるのではなく、書き換えるような仕事をしてください」と、訴えた。
 質疑の時間には、「中学生のときから巻貝に興味があったのですか?」という質問に、「まったく興味がありませんでした。中学のときは小説を読んで、絵を描いているような文系の学生。理系に行くと思っていませんでした。皆さんもこれからおもしろいことにいっぱい出会うと思います」と、幅広い趣味に接することも促していた。
塾生は、「分子の構造解析の話は難しかったけど、わかりやすく話してくれたのでよかった」「巻貝について、あれだけ話せるのはすごいと思った」と、黒田先生の研究に対する熱意に触れたようだった。

 

『2・3時限』=「燃料電池-それは気体から電気をつくる未来のエネルギー」=小林 輝明  新宿区立新宿中学校

まず、燃料電池とは、水素と酸素を使い、水に電流を流して水素と酸素を取り出す電気分解と、逆の仕組みで発電するもの。これが実用化すれば、環境に最も優しい発電になる。未来のエネルギーとして注目されていると、状況を説明した。
塾生は、実験器具を組み立てるところからスタート。四苦八苦して組み立てた手作りの燃料電池で、電子メロディーが鳴ると、「鳴った!」と嬉しそうな歓声を上げた。
小林先生は、「電気分解から発電ができるのでは、という、逆転の発想が大切。そのためには、ひとつのことをじっくりと見て、共通点、相違点を見つけるという創造性を持ってください。この発想が未来を変えるかもしれません」と、アドバイスした。

 

『4時限』=「触媒」=藤田 照典 三井化学触媒科学研究所長

 「触媒がなければ現代生活は成り立たない」と主張する藤田さんは、三井化学が研究している触媒がどういうものなのかという説明から始めた。触媒は、「欲しいものを効率的に作る道具」と表現し、他の企業の商品である車や電化製品などに比べ、三井化学はそういった製品の原料・材料を作る、「縁の下の力持ち」であるとした。触媒の動きをイメージとしてアニメーションにしたものを流すと、塾生からは「おぉー」との歓声。「作った甲斐があった」と、藤田さんも嬉しそうだった。
プラスチックから紙おむつ、車の部品など幅広く私たちの生活を支える触媒を、企業の中で、消費者の声を直接聞きながら開発することで、世の中に貢献できる可能性が高いと、触媒のこれからの可能性を語った。
塾生の多くは授業後に藤田さんのもとへ集まり、質問したり、サインをもらったりしていた。藤田さんは授業後、「触媒は裏方の役割が強い製品。多くの人に、触媒のことを知ってもらえたらと、思います。今日は塾生さんの意欲が高く、若いエネルギーに触れることができました」と喜んでいた。

 

『5時限』=「酸化・還元 ~時計反応~」=兼龍盛 江戸川学園取手中学校・高等学校

塾生の前に準備された、ペットボトルの紅茶を、コップに注ぐと、紅茶の色が消え、透明になる。この仕掛けは、実は入れた液体が紅茶ではなくうがい薬。ヨウ素であるうがい薬を、塩素中和剤であるチオ硫酸ナトリウムがほんの少し入ったコップに注ぐと、この二つが反応し、色が消える。そんな驚きを交えた実験からスタートしたこの授業では、この色が消えた反応の中にある、酸化と還元の仕組みを追究する。
兼先生は、「原子や分子は、普通の顕微鏡でも見ることができない。その仕組みを探るために必要なのは想像力」と、身近な薬品でできる実験を例に、わかりやすく説明した。

 

『6・7時限』=「ロボットプログラミング(LEGO MINDSTORMS)」=高畠勇二 練馬区立八坂中学校校長

 授業が始まる前から、着席した塾生は、目の前に置かれたたくさんの器具に興味津々だった。この授業で使うのは、LEGO MINDSTORMS NXTというロボット。塾生2人に1体割り当てられたこのロボットを、プログラミングし、指示通り動かすという実験。
パソコンを立ち上げ、指示を入力し、ロボットに繋げ、指示を伝達する。作業を繰り返したが、ロボットはなかなか塾生の思うようには動いてくれない。
「ロボットは指示したとおりにしか動きません。指示したことと違う動きをしたと思ったら、何が違ったのかを確認することが大切です」と、高畠先生はアドバイスする。
この日、夕飯を食べた後の自由時間にも、ロボット操作に打ち込んでいた。8日に、「夏合宿ロボットコンテスト」で、その技術を競う。
いつになっても私たちの未来の象徴であるロボット。この実験を通して、夢のロボットを開発する研究者が出ることを期待した。

※「創造性の育成塾・夏季合宿レポート」(2007年)の記事を事務局にて再編。再収録しました。
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