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「キムチをたべて宇宙で健康」実験
【今日のひとこと】 2008年4月8日

ソユーズ宇宙船で国際宇宙ステーションに向けて、韓国からはじめて宇宙に飛び立つのは、女性研究者(生命工学で博士)、イ・ソヨンさん(29才)です。(8日打ち上げ予定)応募者3万6千人のなかから選ばれたそうです。イ・ソヨンさん は20才代の若さです。しかし、最初の宇宙飛行士であるロシアのガガーリンさんは、飛んだときに27才でした。この記録をやぶるのは君たちかもしれません。

さて、今回の宇宙飛行のめだまのひとつは、宇宙キムチです。我が家の常備菜には、白菜キムチ、オイキムチ、モヤシやゼンマイのナムルなど韓国の味が、じんわりたくさん含まれています。そんなこともあって、韓国のキムチや日本のさまざまな漬け物などの発酵食品(そして、20を過ぎた人にかぎりますが、すこしばかりのお酒)を、宇宙で楽しめたらよいなと私は考えています。

宇宙に出ると、ヒトのからだにさまざまな変化があらわれます。ところが、おなかの中がどうなるのかは、あまりよくはわかってい ません。重力のない宇宙で、力んでウンチが簡単にでてくるだろうかどうかは、ひょっとして遠泳中にウンチをしてみるとわかるかもしれません。ただし、浮いてこないウンチだとわかっていないときは、この実験はしないほうがよいでしょう。

宇宙で便秘に苦しんだフランスの宇宙飛行士が初めてウンチをすることができた時は、その宇宙船にいた皆が祝福したそうです。しかし、宇宙飛行を職業としている宇宙飛行士は、おなかの具合がすこし変でも、変だったと報告をすることが少ないようなのです。そのような事情があって、これまで研究が進みませんでした。しかし、これから宇宙に滞在する期間が長くなるにつれて、便秘やおなかの具合は、大きな問題になるかもしれません。

わたしたちの腸のなかにはたくさんのバクテリアがいて、消化を助けたりわたしたちの健康を支えています。キムチは漬け物のなかでもたくさんの乳酸菌がふくまれていて、腸の中のバクテリアのはたらきを助けるのが知られています。腸の中のバクテリアは、それぞれを単離してからたくさん増殖させて研究するのが難しいタイプのバクテリアです。

このようなバクテリアのことを詳しく調べるのに、メタゲノミクスという遺伝子の分子(断片)を直接に解析する方法がこのごろ発達しています。「キムチをたべて宇宙で健康」というわたしたちのキャッチフレーズが正しいかどうかを詳しく調べるのに、このメタゲノミクスは大いに期待されています。

宇宙キムチは、常温で1年放置しても安全に食べることができるといういまの「宇宙食」の基準を満たすために、プラスチック袋に密封されており、その袋が発酵が進んで膨らむのをふせぐために、キムチをつくった乳酸菌は滅菌されたものです。宇宙キムチには、食べる時のかみごこちとか、おいしい味がそこなわれない工夫がされています。

乳酸菌はいなくなっても、乳酸菌がつくった物質が宇宙飛行士の腸の中のバクテリアにとってよい効果があるかもしれませんね。
(山下雅道・JAXA宇宙科学研究本部理学博士)