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「キトラ古墳壁画」特別公開を見て…
【今日のひとこと】 2008年5月30日

先日、奈良県高市郡明日香村にある飛鳥資料館へ、「キトラ古墳壁画 十二支 子・丑・寅」の特別公開を見に行きました。東京から新幹線で京都まで行き、さらに近鉄で橿原神宮前まで行きます。その後、バスで飛鳥資料館前まで行きました。当日は多くの見学者が来ていて、50分ほど並んでやっと見ることができました。この特別公開はかなりの人気で、長いときは2時間待ちもあるそうです。

キトラ古墳は、明日香村にある円墳です。1983年に、ファイバースコープによる調査で白壁に絵が描かれていることが発見されました。これは高松塚古墳に続く2例目の壁画古墳として注目を集めたそうです。特別公開は今年が3年目で、06年には「白虎」、07年には「玄武」、そして今年08年は十二支の「子・丑・寅」でした。どんな壁画かは、飛鳥資料館のHPで調べてみてください。およそ1300年前の壁画を見ることが出来ます。

「十二支」とは、動物の頭を持ち、人間の体を持つ神獣のことです。東西南北の壁画に描かれていた「四神」(「青龍」、「白虎」、「朱雀」、「玄武」)の周りに、この「十二支」が描かれています。壁画の漆喰の剥落により消失しているものもあり、現在は「子・丑・寅・午・戌・亥」のみが確認されています。

2004年から、キトラ古墳内の壁画を保存するために、壁画の取り外し作業がおこなわれています。この取り外し作業は次のように行われます。

1.レーヨン紙やガーゼなどを壁画の表面に張って補強(表打ち)する。
2.壁画のひび割れに沿って壁から切り離す。
3.取り外した壁画の裏に樹脂やレーヨン紙を張り(裏打ち)、表打ちを外す。
4.脱酸素剤と一緒に特殊なポリ袋に入れて保冷庫で保管、色が抜けてしまわないようにゆっくり乾燥させる。乾燥が終わったら修復する。 (飛鳥資料館資料より)

古墳の中は湿度が100%近くあり、その中で薄く脆い漆喰層を安全に取り外すために、様々な工夫がなされています。例えば、補強用のレーヨン紙も、いろいろな種類のレーヨン紙が試され、実際にはセルロースの誘導体であるヒドロキシプロピルセルロースが使われています。また、難航した壁画の取り外しには、鉄製のワイヤにダイヤモンドの粉末をまぶした電動カッター(ダイヤモンドワイヤ・ソー)を開発し、このダイヤモンドワイヤ・ソーを使って、なんとか取り外しができたそうです。これでも、「朱雀」の取り外しには1時間もかかったそうです。

「キトラ古墳」というと、歴史関係で科学とは関係なさそうですが、実は保存化学という分野があって、文化財の保存に科学(化学)の力が使われているのです。
(宮本一弘・開成中学校・高等学校教諭)