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植物園は花ざかり
【今日のひとこと】 2008年5月02日

僕の家の近くにある長居植物園では、大阪市立自然史博物館植物研究室の学芸員の先生方による植物園案内が毎月第4土曜日に行われています。5月の植物園案内に僕も補助スタッフとして参加してきましたので、今花ざかりを迎えている植物をいくつかご紹介したいと思います。

オリーブ(モクセイ科):たくさんの黄白色の花をつけています。オリーブの花は、開花の時点でまずおしべが発達して花粉を飛ばし、その後、めしべが成熟します。これを雄性先熟と言います。自家受粉を防ぎ、他株の花粉を獲得するための工夫です。

 
オリーブの花(おしべが見える)   1週間後のオリーブの花(めしべだけが残っている)

タイサンボク(モクレン科):高木で葉も大きいタイサンボクは、大枝の先に白くて大きな花を咲かせています。タイサンボクの花は、オリーブとは逆にめしべが先に成熟して、めしべが閉じるころにおしべが成熟する、雌性先熟です。また、自家不和合性という自株の花粉では受精できない性質も持っています。自家受粉を防いで他家受粉をするための機構が二重に備わっているのですね。

タイサンボク

オオキンケイギク(キク科):「大金鶏菊」と言う名前にふさわしく、黄色い花を華やかに咲かせています。実は、北アメリカ原産で、特定外来生物に指定されている植物です。繁殖力が強く、生態系に悪影響を及ぼしかねない生物ですので、ウシガエルと同様、育てるには環境省への届出が必要です。

オオキンケイギク

マテバシイ(ブナ科):黄色の雄花と雌花を咲かせています。雌雄同株で、雄花はブラシのような穂を作っています。雌花は柱頭を3つ持ち、雌花3つが集まってひとかたまりとなり、それがらせん状に花枝についています。そのため、どんぐりも枝にらせん状につきます。日本でどんぐりをつけるのは、ブナ科のブナ属、クリ属、コナラ属、シイ属、マテバシイ属に属する23種です。その中で、マテバシイ属は雄花の穂が上を向き、強烈な芳香を発して虫を引き寄せる虫媒花ですが、コナラやクヌギ、カシワ、アラカシなどのコナラ属は風媒花で、雄花の穂が下に垂れています。生物は、子孫を残すためのそれぞれの戦略に適した形態を持っているのですね。

 
マテバシイの雄花穂と雌花穂   マテバシイの昨年のどんぐり

イヌビワ(クワ科):イヌビワは野生のイチジクの仲間で、イチジクよりずっと小型ながらよく似た形の実をつけます。イチジクは、漢字で書くと「無花果」で、花が咲かずに実ができるように思われますが、もちろんそんなことはなくて、見えないところで花が咲いているのです。イチジクの仲間の花は大変小さく、つぼのようにくぼんだ花托の内側につきます。実のように見えるのは、この花托なのです。イチジクを食べると内側にプチプチした食感のものがありますが、あの小さなプチプチひとつひとつが花です。

イヌビワの実(花托)の中には、イヌビワコバチという小さな昆虫が寄生しています。イヌビワコバチの卵はイヌビワの花托の中にある雌花の子房に産みつけられ、子房の中で幼虫、蛹を経て成虫となり、交尾を行います。その後、イヌビワコバチのメスは生まれ育ったイヌビワの花托を出て、産卵場所を求めて別の若い花托に入っていきます。そのときイヌビワコバチのメスの体には生まれ育った花托の中にある雄花の花粉がついており、そのおかげで、イヌビワは外から見ることさえできない花を持ちながらちゃんと受粉することができるのです。

 
イヌビワコバチが入りかけているイヌビワの花托   イヌビワの雌花


世界にはイチジク属の植物が約800種あるといわれており、それぞれに独自のコバチが寄生し、花粉媒介していると考えられています。自然の作り出す工夫の巧みさには、本当に驚くばかりです。

これらの他にも、たくさんの植物が開花の時期を迎えていました。

雨が降っていたにもかかわらず、5月の植物園案内に30人余りの方が参加されました。参加者の皆さんはリピーターが多く、植物に詳しい方が大勢おられます。補助スタッフの僕にもいろんな質問をしてくださるのですが、残念ながら補助スタッフ歴の浅い(2回目)僕では力不足で、ほとんどお答えすることができませんでした。次回は、しっかり準備して下見ももっと念入りにして、質問5つ以上に答えることが目標です。

公園や庭園とは違って、植物園には見た目がきれいというわけではない花もたくさん咲いています。どの種もさまざまな工夫をして、子孫を残すためにがんばっているんだなあ、と感じました。
(中山敦仁【1期塾生】)