毎月第2金曜日の夕刻、僕は大阪駅近くの喫茶店で開催される「コケサロン」に参加しています。コケサロンというのは、コケ好きの人たちが集まって、コケについて調べたり、情報交換したり、語り合ったりする会です。
何を隠そう僕もコケ好きの一人で、普段は学校周辺のコケを観察しているのですが、まだまだ初心者でわからないことが多く、ベテランメンバーの方たちからコケについていろんなことを教えていただいています。
コケ、正式に言うと蘚苔類は、皆さんの家や学校の周りのいろんなところで見ることができる身近な植物です。維管束や根を持たないため植物体はとても小さく、種子植物やシダ植物などの維管束植物より「下等」とされています。
一方で、コケには他の植物にない特殊な能力を持つものがいます。今日は、地球環境を守る助けとなっているコケをご紹介しましょう。
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ワタミズゴケの群落とワタミズゴケ茎葉体(出典:「コケの写真鑑」ホームページ) |
蘚類のひとつであるミズゴケの仲間は、世界の湿地に広く分布しています。ミズゴケは、細胞壁内にフェノール化合物を含み、酸性を持つため、微生物に簡単には分解されません。しかも、ミズゴケが生育する湿原は気温が低くて貧栄養なところが多く、枯れたミズゴケの植物体はほとんど分解されないまま長年にわたって蓄積され、泥炭(peat)と呼ばれる有機物の膨大な埋蔵物を形成しています。
デンマークで発見された湿原ミイラ「The Tollund Man」
(出典:Silkeborg Public Library, Silkeborg Museum and
Amtscentret for Undervisning, Aarhus Amt.)
イギリスやデンマークなどの泥炭湿原では、ミズゴケが作りだす細菌の活動しにくい環境に守られて数千年も保存されてきた「湿原ミイラ」がいくつも発見されています。また、泥炭はヨーロッパなどで昔から燃料として使われています。
このような特殊な性質を持ったミズゴケですが、どうして地球環境を守っていると言えるのでしょうか。実は、ミズゴケは大気中のCO2濃度を減らす働きをしているのです。
大気中のCO2濃度は、光合成によって植物の体内に取り込まれることで減少します。ですから、熱帯雨林などの森林はたくさんのCO2を吸収してくれる有用な植物群落です。ところが、森林を形成している木や草が枯れてしまうと、その植物体は微生物に分解され、体内に有機物として貯め込んでいた炭素を再びCO2として大気中に放出してしまうのです。
それに比べて、ミズゴケの群落は光合成によってCO2を吸収し、枯れたあとには分解されることなく泥炭となって何千年にもわたって炭素を貯め込んでくれます。世界中で、約400億トンの有機炭素が泥炭に備蓄されているといわれています。ミズゴケ湿原は、地球規模で大気中のCO2濃度の安定に寄与している炭素貯蔵庫なのです。
ミズゴケは、何千年もの間ミイラを守っていただけではなく、地球環境も守ってきたのですね。 |