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新エネルギーとしての「雪氷エネルギー」のこと
【今日のひとこと】 2008年7月25日

 洞爺湖メディアセンター前にて
洞爺湖サミットのサイド取材に行ってきました。また、私はNPO法人雪氷環境プロジェクトの会長の役目もあり、7月2日、札幌で開催したシンポジウム『地球温暖化を救う、雪氷エネルギー』の総合プロデューサー兼コーディネーターとして、7月1日から、北海道入りをしていたのです。

シンポジウムは、「雪氷エネルギー活用の事例」と、「暮らしの中の雪氷利用の再発見と、雪氷文化を考える」というテーマで、世界でも雪氷利用の権威であるスウェーデンから、ボウ・ノルデル・ルレオ工科大学教授、日本からは、北海道大学大学院、室蘭工業大学、帯広畜産大学などから、素晴らしい研究と実践をなさっている著名な4人の教授のご参加を得て、まず、第一部として、各事例のプレゼンテーションをしていただきました。

この第一部に続き、第二部のパネルディスカッションでは、パネリストに作家の神津カンナさん、「不都合な真実」の翻訳者で環境ジャーナリストの枝廣淳子さん、道立北方民族博物館館長の谷本一之さん、日本スケート連盟会長・参議院議員の橋本聖子さん、そして、ノルデル教授にも加わっていただき、たっぷり3時間半、自由にわいわいと、大いに雪と氷について語りあいました。なお、このイベントの開催のご挨拶は、経済産業大臣政務官で参議院議員の荻原健司さん。かつての、スキーノルディックのオリンピック選手。氷の橋本さんと雪の荻原さん、国会の「雪氷コンビ」でした。

いま、エネルギー分野に軸足をおいている私としては、洞爺湖サミットでは、問題の温室効果ガス削減の長期目標として、2050年までに世界全体の排出量を少なくとも50%の削減を達成するという決意にG8が合意し、首脳宣言でUNFCCC(気候変動に関する国際連合枠組条約)の「全締結国と共有」すること、そして今後、この条約のもとで「交渉、検討」を続け、「採択を求める」と明記されたこと。これは、大きな成果ではないか、と考えています。

野菜貯蔵用の貯槽の中の雪山
ところで「雪氷エネルギー」ですが、日本には昔から「氷室」とか「雪室」が食料を貯蔵するシステムとして、この冷たい自然エネルギーを有効に利用してきました。新エネルギーというと、風とか太陽が話題に上るのですが、自然エネルギーの施設利用としては、雪や氷は、はるか昔から存在していたのです。

私は、1998年から内閣府原子力委員会の5人のうちの1人として、3期9年委員を務めましたし、いまも資源エネルギー庁の総合エネルギー調査会の原子力部会や需給部会、省エネルギー部会、新エネルギー部会の委員を務めています。

平成12年、私は新エネルギー部会で「雪氷を新エネルギーとして認めるべき。日本は昔から、氷室、雪室と自然エネルギーを有効に利用してきた。現在も、北海道、東北などの寒冷地では利用技術も向上し、かなりの効果を上げているのです」と強く主張しました。その結果、平成13年3月27日、新エネルギー部会では「雪・氷・冷気を新エネルギーとして認める」ことを決定したのです。私としては嬉しかったのですが、昔から利用されているのに「新エネルギーとはこれいかに。ほんとは旧エネルギーですぞ」の心境でした。

翌14年1月、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」の施行令を改正し、冷蔵・冷房に使う雪氷冷熱を、風力や太陽光とおなじく、国の支援対象とすることが閣議決定されました。

今回のサミットでは、雪冷房が話題になりテレビでも紹介されましたので、ご覧になった方も多いと思います。それは、留寿都村のルスツリゾートに設置された「国際メディアセンター」に隣接する横長の建物の地下に、冬場から貯めていた7千トンの雪を入れ、サミット期間中パイプを通して、冷風をセンターに送ったのです。一階の床の一部がガラスになっていたので、貯めている雪の様子がよく見え、各国の記者の方々も「クリーンで優しい冷房だ」と大喜びでした。

また、メディアに紹介されていたのは、貯雪槽からの冷気で貯蔵されている沼田町のお米、その名も「雪中米」。いまやブランド米として、売れに売れています。穀物や野菜のほかにも、旭川市の老舗の酒造には、「雪氷室搾り」と銘打った『一夜雫』があり、いままで邪魔者・厄介者だった雪が酒造りに活きる「雪中長期熟成貯蔵酒」まであるのです。
そう、雪氷エネルギーは、おいしさをも作り出しています。

地球環境問題をターゲットにしたサミットは終わりましたが、雪氷エネルギーをはじめとする新エネルギー、省エネルギー、原子力はCO2を出さないエネルギーとして、国の地球温暖化対策の柱になっています。

今後も、折りをみて、雪氷利用の楽しく、おいしく、人の身体にも優しい事例のあれこれを、ご紹介していきたいと考えています。
(木元教子・評論家)