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飛行機のエンジン洗浄がCO削減に大きな効果があるって、ご存知ですか?
【今日のひとこと】 2008年9月05日

昨今、気候変動(地球温暖化)や石油価格の高騰に関わるニュースのでない日はないくらい、現代の石油に浸かった文明の有り様に対して、世界中で強い関心が向けられています。京都議定書の次の世界的枠組みを確立する目論見は、先進国と新興国の思惑の違いが大きく未だ成功していませんが、いずれはどこかで合意が成立することでしょう。我々現代社会に住むものは、この様な制約を尊重して生きていかなければならない訳です。

さて私どもが属する航空業界に於いても、この様な社会の変化に歩調を合わせて様々な取り組みを行っています。 最も分りやすく効果の大きい対策は、燃費効率の良い新型機に更新することで各社各々の実状に合わせて取組んでいますが、一機50~200億円もする航空機を大量に更新するとなると、長大な資金が必要になるのに加え、パイロット養成や整備体制の準備にも時間や資金が必要とあって、一遍には進められないのが実情です。その中にあって、比較的手っ取り早く取組めて効果もそれなりにある対策の一つとして「エンジン洗浄」があります。

今日は、その「エンジン洗浄」のお話をしてみます。現在、民間航空輸送用の航空機(ジェット機やターボ・プロップ機)のエンジンは、ほぼ全て「タービン・エンジン」です。このエンジンの構造は比較的簡単で、前方から「圧縮機」「燃焼器」「タービン」に分かれます。前方から取り入れた大量の空気を「圧縮機」で数十気圧に昇圧し、「燃焼器」でそれに燃料を送り込んで燃やすことにより更に高温にしたものを、「タービン」を回す(従ってそれと回転軸で直結された圧縮機を回す)エネルギーと後方に噴出するエネルギーとに使用することで、航空機を前進させる推力を得ているのです。

ところで、この「タービン・エンジン」の燃焼効率は使用時間が蓄積すると低下する傾向があります。それは、「タービン・エンジン」を構成する各部品が損耗することが一つの要因ですが、もう一つ見逃せないこととして「圧縮機」の汚れがあります。取り入れる大気に含まれる汚染物質・塵芥・砂などが「圧縮機」の翼列(羽根車の様な動翼とその前後の整流・昇圧用の静翼)に少しずつ付着し、(境界層を厚くし)流路を狭めて効率を悪化させるのです。

この「圧縮機」の汚れ対策として航空業界が着目し大々的に実行し始めているのが、「エンジン洗浄」です。これは、航空機が地上停泊中に、必要な機器を準備して、エンジンを(燃料を入れずに)比較的低速で回転させつつ前方から一定度の水(通常洗浄剤等は使用しない)を送り込んで「圧縮機」の翼列にぶつけて、汚れをこそぎ取るものです。単純なやり方ですが、数分の洗浄で十分な効果が出ます。勿論、作業中にエンジン後方から少々汚れた水が排出されますが、これは必ず回収してしっかりした廃液処理を行います。

「エンジン洗浄」は最大で1%程度の効率回復に寄与すると見積もられています。たかが1%と思うかもしれませんが、日本の航空業界全体で1%改善できると、二酸化炭素換算で年間25万トン位に相当しますからばかになりません。航空会社によって頻度は多少異なりますが、概ね一エンジン当り年間2~4回程度の「エンジン洗浄」を行って二酸化炭素排出削減に努めているのです。
(山内純子・全日空株式会社取締役)
代筆:ANA整備本部 牧副本部長