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宇宙空間で水が氷るとどうなるか?あなたは考えたことがありますか?
~3期塾生の質問に毛利衛・日本科学未来館館長が答える~

【今日のひとこと】 2008年12月17日

第3回「創造性の育成塾」夏合宿で、日本科学未来館館長・毛利衛さんに宇宙での水の氷り方を質問したところ、「NASAでもそれをやりたいけど、うまくできない」とのことでした。製氷装置を用いると、中に入れた球体になった水が徐々に動いて壁にへばり付きうまく出来ないそうです。

そこで私が考えた実験方法は、船内に製氷装置を持ち込むのではなく、宇宙空間の温度変化を利用して氷をつくるというものです。

月の温度
高い時:100度以上 低い時:マイナス150度以下

宇宙服の表面温度
高い時:100度以上 低い時:マイナス100度以下
     ※中川 人司 著『宇宙授業』参考

上記から、耐熱性のあるピストンに水を入れ宇宙空間に水を出し、球体になり浮いたところに影をかけ氷らせればよいのではないかと思ったのです。

水だと都合が悪い場合は融点が130℃程度の低融点合金を用いれば、水が氷る様子を想定できると思います。ただ、水の場合は氷る時に体積が増え、金属は固まる時に体積が減るという違いがあります。

これに対し、日本科学未来館館長・毛利衛さんにお聞きしたく、「創造性の育成塾」事務局を通じてお願いしたところ、幸運にも毛利さんから直接お電話をいただき、お話を伺うことができました。

水については、スペースシャトルの電気は燃料電池から得ているので、電気を作るときに副産物として水ができます。この水は定期的に宇宙に捨てられるのですが、その時、雪の様に細かい氷になるそうです。

低融点合金については、実際にインジウムという物質の結晶を作るときに行われたことがあるそうです。私の実験方法については、日光が当たっている側の温度の上昇と、影になっている側の温度の低下が、どちらが先に金属全体に及ぶかが分からないので成功するかどうか分からない、とのことでした。つまり、金属の日陰になっている面の冷たさが、日光の当たっている面の暖かさよりも早く金属全体に及んでしまった場合は、金属は溶けることはないので私の実験は成立しないということです。

また、その時、偶然毛利さんと一緒にいらっしゃった第42次南極越冬隊隊長・本吉洋一さんにも電話での質問に応じていただきました。本吉さんからは、「南極で寒い時に、50~60℃のお湯を空中にばらまくと花火の様に飛び散るが、同じ事を水でやるとただ空中で氷ってぱらぱらと落ちてくるだけです。」という大変興味深い話をしていただきました。毛利さんは、「今の南極にある日本の基地における技術は世界的にも進んでいて、重力と空気があるという宇宙との違いを除いて、君の考えた実験は南極でも出来るかもしれない。」と教えていただきました。

重力と空気の有無は地球と宇宙における最も大きな違いだと思うのに、なぜ毛利さんと本吉さんは南極の話を出したのか‥‥

インターネットで南極のことを調べてみると、『南極観測のホームページ』に本吉さんが言っていた現象は「お湯の花火」と呼ばれていて、気温が-30℃を下回るような低温化でしかできないことが分かりました。南極のお湯と宇宙の水がはじけるのは、気温と液体との温度差が関係あると考えられるのでしょうか?

温度差の実験をすることは今の私には無理なので、学校の理科の先生に協力してもらい、真空中で実験し水の様子を観察してみました。

 
 真空実験装置
 
この写真からは分かりにくいが、約21℃で沸騰する水

実験結果

常態での水温 23.3℃ → 真空では水温約21℃で沸騰・水蒸気発生 → 約3分半で水温16.7℃

この実験では水が約21℃で沸騰する様子を見ることができました。私の、水は約100℃で沸騰するという固定概念が崩れた瞬間でした。また、水温が下がる理由は気圧が低くなるのと、沸騰によって水蒸気が発生し気化熱がうばわれる、などがあることが分かりました。

今までは宇宙空間に水を放置すると少しゆがんだ球体の氷になると予測していました(冒頭の写真)。この実験を通して、宇宙空間は真空で無重力だから水を出すと沸騰し、ばらばらな水滴になり、小さなあられ状に氷るのではと思いました。また、「お湯の花火」現象から、水と宇宙空間との温度差が大きい場合は、あられ状ではなく粉状になってしまうのではないでしょうか。つまり、毛利さんの話に出てきた「シャトルから宇宙に捨てた水は雪のような細かい氷になる」というのは、このことなのではないのでしょうか。

とても恥ずかしいのですが、今の私に想像できるのはここまでです。また、なぜ毛利さんが私の実験は南極でもできるかもしれないとおっしゃったことについては、未だにすっきりしません。もし皆さんが知っていることがあれば教えていただければ幸いです。

毛利さんや本吉さん、我校の校長先生や理科の先生は私の考えた実験に対し、いつも「おもしろいな~」と言うだけで、決して答えは教えてくれませんでした。しかしそのおかげで、私は宇宙に関する本を読みあさり、インターネットで調べ、色々なことを知ることができました。本当にありがとうございました。
(安田 風眞・3期塾生)