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科学との向き合い方 ~科学を伝えることで、学ぶこと~

【今日のひとこと】 2012年7月31日
自分は東京大学サイエンスコミュニケーションサークル"CAST"というサークルに属しています。
"CAST"は実験を見せたりして、主に小学生を相手に、理科の楽しさ、面白さを伝えていくという活動をしているサークルで、第1回育成塾の講師、滝川洋次先生の講義の受講生が中心になって作られたサークルでもあります。

"CAST"はサイエンスコミュニケーションを標榜しています。サイエンスコミュニケーションというのは、「科学知識を平易に広く一般に伝えていく」 活動一般を指し、その中には、科学館や研究所などの開放や一般向け講演、さらには、中学校の理科の授業も含まれていると言えるでしょう。

僕がこのサークルで実際に活動して思うのは、知識を 正しく、分りやすく、そして聞いている人が楽しめるように伝える、というのがいかに難しいか ということです。そもそも、それを表現する理論そのものが、かなり高度なケースも多いです。
正しく伝える、というのが一番大事なことだけに、できる限り努力しているものの、殆どの場合、完璧な説明などというものは不可能で、必ず抜け目ができてしまうのです。

それは僕自身の、理論に対する理解の未熟さを示しているのでもありますが、同時に、理論自体、理想的あるいは、近似的条件で説明することは容易でも、現実世界の事象については、数式モデルを作ることから難しく、さらにその数式を解くのはこの上なく難しい (だからスパコンが開発されているとも言える) ということを示しているのではないだろうか、と思います。

しかし、そうだとしても、平易に説明しなくてはならないだけに、説明の内容自体がかなり甘い説明に妥協していると感じるようなことも多くあります。
ただ、だとしても、その実験を面白く、そして、説明するメカニズムによる現象をいかに正しく見せるか ということがより大事であり、(実験によっては、説明するメカニズム以外のメカニズムによって、結果だけうまくいくように見えてしまうことすら多々ある) こちらもまたやはり難しいことで、それは科学者が実験で有用な情報を作り出す過程を再現しているとも言えるでしょう。

科学というものが発展していく中では、相当な苦労がたくさんあったに違いないし、今現時点でもそういうことが繰り返されているでしょう。そして、そんな中から理論を組み立てていくのはこれまた大変なことでしょう。

僕自身は、そうして何世紀にもわたって積み上げられた科学知識をわずかな期間で勉強しているという訳ですが、さすがに、それだけのものを吸収していくというのは決して容易なことではありません。夏休みに入ってからというもの、一日を全て費やして教科書を読むこともありますが、遅々として目標通りにいかないことの方が多くあります。
ひたすら理解できない、そういう時間は非常に辛いものでもあります。

しかし、それでも、科学は楽しい。
そして、時に理論をやっていて理解できなくて苦しくても、目の前で起こる不思議なことを見ていると、自分が科学に向き合い始めた原点を思い出す。
サイエンスコミュニケーション活動は、それを見た人間が、少しでも科学に興味を持ち、自発的に科学に関わろうとするようになることが目的ですが、同時に、伝える側にとっても自分自身の原点に立ち返る良い機会になります。

育成塾では科学オリンピックを意識していて、それに自分が大いに関わったことは間違いないでしょう。科学オリンピックのメンバーは非常にレベルが高いし、そこで学ぶところも非常に大きいです。
そうした所で、学問的に、高度に科学を学ぶということは非常に大事なことで、切磋琢磨してより高い学習ができればこれほどに良いことは無いでしょう。
が、それだけでなく、学ぶと同時に、その学んだ知識をわかりやすい言葉で表現してみる。そして、身の回りのことについて、一度、自分の知識で説明を試みてください。
そのとき、自分がどれだけ理解できているか、そして、自分の学んだ知識がどの程度のものかというものが見えてくるでしょう。

勉強してもしても、寧ろたくさんの謎が出てくるくらいでしょう。
第7期塾生の皆様、そんな謎に向き合える機会を十分に楽しんでください。そして、その他の皆様も、積極的に科学に関わりましょう。時には本気で、高度なものにも挑戦してみましょう。

正しくステップを踏めば、塾生ならそれこそ一般相対性理論も、量子力学も高校卒業までに理解できることでしょう。
それと同時に、学んだ知識を分りやすく説明するとか、身の回りを見渡して、不思議な実験に向き合って、原点を見返してみましょう。



2012年 8月16日(木)10:00 から、日本科学未来館で "CAST" 他、約10の大学生主体のサイエンスコミュニケーション団体による発表「サイエンスリンク」を開催します。ぜひ参加してみてください。

詳しくは http://sc-link.net/index.html  をご覧ください。

(森 雄一朗 ・1期塾生)