実験から、貿易、宇宙、遺伝子、科学技術、科学オリンピックの話まで、盛りだくさんの授業
1時限目 「浮いているってどんなこと?」
瀬田栄治 葛飾区立亀有中学校 校長
最初に、瀬田先生は自身のことを振り返り、「小さい頃から何かを作ったり、壊れたものを直すことが好きだった。みんなにも、“好き”ということを大事にしてもらいたい」とメッセージを送りました。
今日の授業のテーマは“浮く”ということ。ペットボトルの中にハチを入れ、重さが2つの総量であることを確認し、「もしこのハチが飛んでいたら、重さはどうなるか」と質問。塾生の予想は分かれ、磁石を用いて確認してみることに。筒にドーナツ型の磁石を通し、もう一つを反発させて浮かせる。そのとき重さはどうなるか。
塾生が見守る中、浮いた磁石と共に乗せた筒の計量計の数値が映し出されると、塾生からは「おぉー」という声が上がりました。
結果は、浮いていても、磁石の重さは加算されました。
そこで、その原因を全員で考察。すぐに「上向きの力と同じ大きさが、下向きの力となって働いているから」という答えが導き出されました。“浮く”という事象がどのように起きているかを考えることで、答えを出すことができました。
2・3時限目 「ようこそホネホネ動物園~動物の頭骨標本の比較」
小林輝明 新宿区立新宿中学校 主幹
自身の学校から持ってきた、人間の骨格標本と並んで立った小林先生は、最初に、人類の起源からの歴史に触れ、人類と、そのほかの動物との骨格の比較をしました。
3時限目には、机の上には30個体27種もの動物の頭骨が並びました。
この中から、10種の指定された動物の頭骨を探すというのが、この時間の課題。塾生は、普段なかなか触れることのできない様々な動物の頭骨を細かく観察しつつ、何が作用して違いが生まれるのかを真剣に考えていました。
塾生同士相談しつつ、最後に先生が答えを発表。細かな違いを見つけるのが難しく、解答が発表されるたびに、教室のあちこちで喜びと落胆の表情が見られました。他のものと比べることで、類似点や相違点を探し、そこからまた新しい発見があると、小林先生は比較の大切さを説明しました。
授業の最後に、小林先生は修行における「守・破・離の教え」を紹介。最初の段階では、先人、指導者の教えを守り、その通りにやってみること。それが身についたら、自分独自の工夫をして、指導者の教えになかった方法を試行錯誤をする。これを繰り返していくうちに、指導者の教えから離れて、自分のスタイルを見つける、「離」の段階に到達するというものです。
この教えを通して、塾生に、この夏合宿の期間で様々なことを吸収し、自分のものにしていくよう、励ましました。
4時限目 「縁の下の力持ちも悪くない~「海」と「船」のはなし」
草刈隆郎 日本郵船㈱会長
日本の海運業界のトップを担う日本郵船の会長は、最初に自社の最大の柱である船について紹介。
「文明は船が運んだ」として、遣隋使や鉄砲伝来などを例に、その歴史を丁寧にたどりました。そして、自社の業務内容を紹介し、「船がなければ貿易は成立しない」と、国の経済も左右することを説明。更に、「船は大事な脇役。日本郵船のコマーシャルで取り上げているサザエさんのフネさんの立場が当社の役割と考えています」と話しました。
最後に、「今は運搬の方法が増え、中でも船はイノベーションが遅れている。理系の人に興味を持ってもらい、技術を開発してもらいたい」と、今後の展望に期待を込めました。
この日紹介された30万トンの船は1槽いくらくらいするのかという質問には、「造船所の制作ペースに限りがあるので、出来上がるまでに5年ほどかかり、170億円にもなるときもあり、莫大です」と答えていました。
5時限目 「月周回衛星の成果と月球儀」
中村日出夫 全国中学校理科教育研究会 顧問、JAXA宇宙教育センター 参事
中村先生は、最初にJAXAが提供する最新の月の映像を紹介し、その後、ペーパークラフトの月球儀制作に取り掛かりました。この月球儀は、月周回衛星「かぐや」の観測データをもとに作られたもので、まだ一般には配布されていないもの。直径約10cmの小さな月球儀の制作に、塾生たちはそれぞれ器用に手を動かしていました。
中村先生は、最後にまとめとして、今回の夏合宿のプログラムに、毛利衛宇宙飛行士やJAXAの講演が多いことを挙げ、「今回のテーマは生物ですが、宇宙の話が多い。しかし、宇宙を知ることは、地球の将来を知ること」と、生物学と宇宙の関わりが深いと話しました。
6時限目 「生命の暗号」
林崎良英 理化学研究所 オミックス基盤研究領域 領域長
DNAとRNAの説明から始めた林崎先生。抽出したDNAを塾生に見せた林崎先生は、DNAの遺伝子情報に関する解説をし、DNA情報には、30億もの文字列があることを話しました。
膨大な文字列の中の、たった一文字の違いで、お酒が飲める人と飲めない人が分かれることを解説。DNA情報の文字列の一部を見せ、どこに1文字の違いがあるか尋ねると、早速塾生が発見。先生も驚く速さで、教室には拍手が起こりました。
DNA情報を解読することで、病気や、性格までもがわかってしまう可能性があることを解説。膨大な時間がかかるとされていた解読も、2010年には8分で解読できてしまうという予測に達したことなど、科学技術の驚異的な発達も紹介しました。
一方で、究極の個人情報であるDNA情報には、セキュリティーの問題があることにも触れ、今後、科学技術の発達に伴った慎重な判断が必要と話しました。
途中、昨日に引き続き、突然の雷雨で停電が発生。しかし慌てることなく授業を続けようとする林崎先生に、塾生も和み、大きなハプニングにはならずに授業が行なわれました。
7時限目 「想像こそ創造への出発」
月尾嘉男 東京大学名誉教授
月尾先生は、科学技術と日本の将来の関係性を、研究開発投資や研究者数、そして特許数などで世界の中でも上位にあることを挙げ、科学技術立国として確立していけば、「安泰な日本」になる、と紹介。しかし、一方で、GDP(国内総生産)あたりの教育費や、若者の科学への関心は世界の中で見てもとても低いということも指摘、危機感を表しました。
想像することが、創造することの第一歩と話し、空を飛ぶことなど、想像から挑戦が始まり、失敗を繰り返し、しかし不屈の精神を持って繰り返しチャレンジすることで、さまざまなことが創造されてきたと語りました。
技術には需要と供給があるとも話す月尾先生。便利さを手に入れた代わりに、フロンガスや、迷惑メールなど、それぞれに代償もあることにも触れました。
最後に塾生へのメッセージとして、“目指せフロンティア”と掲げ、「誰もやっていないことをやれば、その日からその世界の第一人者になれる」という、自身が研究に悩んでいるときに送られた言葉を送りました。
「創造をするためには想像力が必要ということだが、コンピューターにも想像力が必要なのか」という質問には、映画・「2001年宇宙の旅」などを紹介し、「今までに多くの人が考えてきた問題。人間並みの頭脳を持つことの危険性も考えなければならない。しかし、現実には(現在の)コンピューターがまったく新しいことを創造することはできず、そこに至るにはまだ程遠い」と答えました。
8時限目 「国際生物学オリンピックが目指すもの」
石和貞男 お茶の水女子大名誉教授、同オリンピック日本委員会運営委員長
「創造性の育成塾」では“科学オリンピックを目指す”をサブタイトルに掲げ、世界の高校生を中心にした国際科学オリンピックへの参加を呼び掛けています。来年は、各種科学オリンピックのうち、国際生物学オリンピックが日本で開催されることから、石和先生に講話をお願いしました。
石和先生は、来年の「つくば大会」へ向けた国内予選の結果などを披露し、その中で「今年はちょっと、問題が難しかったようだったが、来年は少し易しくしなければならない。皆さんは中学2年生、再来年には是非、挑戦して下さい」と参加を呼び掛けました。
また、専門の生物学について、「21世紀は生命科学への期待が大きい。自分の好奇心を満たすだけでなく、世の中の要求に応えることも重要です」との立場を強調していました。
最後に、自分の中学生時代を振り返り、「(科学者として)君たちに伝えたいことは『原点は子供の頃に。チャレンジし続ける気持ちこそが才能、誰もなし得なかったことを目指す意欲が創造へと導く』」と生物好き中学2年生への励ましの言葉を贈りました。
「塾のワンシーン」コーナー
「朗報!塾1期生が国際生物学オリンピック国内第一次予選に合格、おめでとう」
特別選抜塾生として合宿に参加している、1期生の中山敦仁君(灘高校1年)が来年、筑波大学で開催される第20回国際生物学オリンピックの国内予選も兼ねた、「生物チャレンジ」の第一次試験に合格したことが5日、分かりました。
「生物チャレンジ」は7月20日、全国66会場で開かれ、小、中、高校生2069人(応募2484人)が挑戦しました。
この中から80人が一次通過という難関でした。
第2次予選は8月21日から3泊4日、筑波大学で実施されます。
ちょうどこの日、石和貞男・同生物学オリンピック日本委員会運営委員長の講話があり、授業の後、中山君の合格を知った石和先生は「おめでとう」と中山君と握手、一次合格を祝福しました。
続けて、石和先生は「この(創造性の育成)塾の実験の授業を大切に取組んで、実験の手順などを、しっかり学んでおいて下さい」などと、アドバイスしていました。
中山君は「大変、為になるお話をお聞きしました」と喜び、意欲を燃やしていました。
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