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第3回「創造性の育成塾」夏合宿レポート(4) 8月6日(水)
【夏合宿レポート】 2008年8月06日

毛利さんによる塾生の宇宙体験


1時限目 「神経伝達速度」
高橋和光 江戸川区立小松川学校 教諭

最初に、人間の五感の特性について動画で紹介。

視覚に関して、白い紙に付けた二つの点で盲点を確認、点が見えなくなる部分は、白くなることを確認し、「それでは色のついた紙で実験すると、盲点の部分は何色に見えるか?」と質問しました。様々な仮説が飛び交う中、実験。結果は、しるしが見えなくなる部分は、紙の色になりました。これは、視覚を脳が補っているからと高橋先生が解説。普段、何気なく使っている五感には、神経によって複雑な働きがあることを学びました。

その後、研究を進める上で、Fair Test(フェアテスト)であることが重要と紹介。フェアテストとは、調べたい条件は一つに絞り、それ以外の条件は全て同じ状態で実験をするということ。塾生たちは、落下物を挟んで掴む反射のテストで、それぞれに予想を立て、実験の方法を考え、結果を考察し、どうすればフェアテストができるのか、その一端に触れました。

2・3時限目 「どうなっているの?頭の中」
伊藤正男 理化学研究所 脳科学センター特別顧問

伊藤先生は、冒頭、「昔、エジプト時代から心は心臓にあると信じられてきた。脳に心があると分かるのには時間がかかった。ギリシャ人は羊を食べていたので脳だと知っていたようだが」と、脳と心の話から切り出しました。
続けて、脳とは何ぞや、とも言うべき興味あるメモを配布。
「私たちは感じたり、考えたり、何かをするのはすべて脳の働きによるのですが、その仕組みはどうなっているのでしょうか。まだわからない不思議なことが沢山あるのですが、次の10の問題について、皆で一緒に考えてみましょう」

 

1) 頭の中にあるものは?
脳の形、どう進化したのか

2)何に似ているか?
パイプオルガン、電話、コンピューター

3) コンピューターにどう似ているか?
神経細胞、シナプス

4) コンピューターとどう違うか?
知、情、意の働き

5) コンピューターは人に勝てるか?
演算速度と記憶容量、チェスの試合

6) 脳の働きには限度があるのか?
コラム遺産

7) 脳の働きはどう発達するのか?
臨界期

8) 脳のようなコンピューターは作れるのか?
人工知能の話

9) 考える脳の仕組みとは?
外の世界のモデル、直感とひらめき

10) こころは脳の働きか?
脳と心の問題

以上をエピソードを交えて逐一説明した後、「システムとして脳がどう働くか、まだ研究は不十分。科学はまだ手探り状態」と実情を披露していました。その中で、伊藤先生は「証明できたものではない。マユツバと思って聞いてもらえれば良い」と、謙遜しながら自信が滲む『(小脳)内部メンタルモデル』とでも言うべき説を展開しました。脳の『運動』、『思考』の司令システムの解明に向けての仮説として、同モデルの存在を解説しました。

小脳研究の世界的権威である伊藤先生の講義だけに、塾生たちは真剣に聞き入り、質問時間になると、すかさず何人もが手を挙げました。「直感できる人間のようなコンピューターができますか?」「脳を良くすることを人工的に細胞をいじってできますか?」「脳に心があると、どのように確かめて決めたのですか?」などの質問が続きました。

これに対し、伊藤先生は「脳を良くするのは難しい。脳を悪くするのは簡単だ…」「心が脳以外にありようがない。本当に脳が心を生み出すのか、と疑問に思っている人、脳の外にあるという人もいる。信号の出入り、そして、運動を起こすのだから、脳の中にある。脳のどこにあるかは分からない」。いずれも、良い質問だと繰り返しながら丁寧に答えていました。

4・5時限目 「何のために勉強しているの?私たちの未来、毛利さんと語ろう」
毛利衛 日本未来科学館館長 宇宙飛行士

授業前に流された日本未来科学館の紹介のビデオを見た塾生は、その画面の中でガイドを務めていた毛利館長が目の前に現れ、喜びの表情を見せました。

前半は、同科学館の、科学コミュニケーター五十嵐海央さんが、まだまだ浸透していない“科学コミュニケーター”の仕事についてを紹介。自身が科学コミュニケーターになるまでの流れを振り返り、毛利先生の小さな時はどうだったのかを聞きました。

毛利先生は、塾生と同じ中学2年生のとき、ガガーリンの世界初の有人宇宙飛行を自宅のテレビで見て感動。しかし、このときは宇宙への想いは憧れで、自分が宇宙飛行士になれるとは思っていなかったと話しました。

毛利先生が科学を目指すきっかけになったのは、高校1年生の時。20世紀に一度しかない日食を、自らが代表選手になっていた体育祭を休んで見に行きます。日食になった途端、カラスが一斉に飛び立ったり、空気が冷えたり。太陽の有難さや、人間の及ばない力を感じ、一週間日食の夢を見たくらいの衝撃を受けたそうです。

その後、塾生に、「何のために勉強しているの?」と問うと、塾生からは「自分の好きなことをレベルアップさせたいから」「将来人間のことを深く考えるため」「好きだから」との答えが返ってきました。

また、7月31日にNASAが発表した火星に水の存在が確認されたというニュースを挙げ、「今生きている時代というのは、皆さんのご両親の世代とは(新たにいろんなことが発見、解明され)全く違う。だから皆さんは、ご両親の言うことだけでなく、自分の良いと思った新しいことにどんどんチャレンジしてください」とメッセージを送りました。

しかし、「既に、宇宙には“住む”時代」という毛利先生は、「将来、宇宙に行きたい人?」という質問に、塾生からの反応がなく、とてもがっかりした様子。将来、日本から出たくないという生徒も多く、「住みやすいから」などの理由に、自身の宇宙飛行の経験をもとに、「宇宙に出て、今ある環境が、いつまでもある保証はないということを実感しました。私達は、地球でしか生きられませんが、その環境はいつ変わるかわからない。生きるか死ぬか、ぎりぎりの新しい環境にチャレンジし、そこで得たものから開発されたもので私達は発達する。現在の環境にいたのでは成長しない」と、熱く語りかけました。

続けて、五十嵐さんによる超伝導実験の披露。初めて見る塾生も多く、磁石が浮かんだ瞬間、塾生の顔には驚きの表情が見られました。

この“浮く”という現象について、毛利先生は「“浮く”という言葉がなくなるくらい浮くのは当たり前のこと」という宇宙飛行中の、様々な実験映像を紹介。「実験は条件が違えば結果も違う。自分で体験し、その体験をもとに、より良いものを目指せば、得られる」と、新しい世界への自らの足でのチャレンジの重要さを強調しました。

最後に、「何のために勉強しているの?」という質問への答えとして、「社会で生きていく力をつけるため」という答えを示した毛利先生。個人個人が自分の能力に挑戦して能力を上げ、それにより全体のレベルが上がり、未来への生命の繋がりに貢献することが、私たちが勉強することの意味と語り、「宇宙では全て人工物に囲まれた不自由な生活でしたが、地球に戻ってきてエンデバー号のハッチが開き、自然を感じたときに、“これが地球だ”と、自分達にとってかけがえのないものなのだと実感しました。この宇宙船地球号を操縦していってください」と、将来に期待し、励ましました。

講演後の質問の時間には毛利先生を多くの塾生が囲み、宇宙での生活に関することを中心とした質問が殺到しました。トイレのこと、訓練のこと、毛利先生は一つずつ丁寧に答え、わからないことばかりの宇宙での体験談に、塾生は目を輝かせて聞いていました。

6時限目「生物世界の右と左」
黒田玲子 東大大学教授 猿橋賞受賞者
最初に様々な生物の写真や絵を見せ、自然界の左右対称であるものの多さを紹介。しかし、その中から「例外がおもしろい」と、非対称性について分子レベルで考える、自身の研究を解説しました。自らが考えた、靴と靴下の原理」を紹介し、生物の分子レベルの話をわかりやすく話しました。

先生の研究の中心である巻貝の研究では、「マウスでもなく、ハエでもなく、遺伝子一つだけで左右が決まる巻貝がおもしろい」と、熱が入りました。独自の飼育システムまで開発したこと、交配実験を繰り返したことなども紹介し、巻き方が決定する、第3卵割(受精卵3回目の細胞分裂)の時の貴重な映像も披露しました。

「生物の世界は未知のことばかり。自然の素晴らしさに感動し、生き生きとした心で実験していると、とんでもない発見をすることがある」と、自らも深い興味を持って研究に取り組んでいることを伝えました。

「つむじの右巻きと左巻きにも分子が関係しているのですか」などの質問に、「まだわかってはいませんが、そういった研究も進めてもらいたいですね」と、塾生に期待を込めて答えていました。

7・8時限目「植物の不思議(ネギの成長)」
渡部昭 ソニー教育財団統括主幹

最初に、茎部分を切った根の残っているネギ、根のないネギ各1本を各班に配り、観察した模様と、その結果、調べたいテーマを挙げさせました。皆、戸惑いの表情を浮かべると、先生が助け舟を出しました。

「ネギの茎は、なぜ、内側の方が伸びるのか」、その実験として、ネギの表皮から順に顕微鏡での観察を指導しました。

内側に進むほど、細胞が小さくなる。細胞が伸張成長していく、との説明。その実際を確認、スケッチ、デジタルカメラに収めて、やっと、納得の表情でした。

まだ、学習していない部分のテーマだったため、最初は戸惑っていた塾生も植物の成長のメカニズムの実像を目の当たりにした、貴重な実験体験だったようです。

「塾のワンシーン」コーナー

「ワーッ、きれい。これが日本だ」―塾生、アマンダさん、感激

EL Amanda de Yurie Arrafajr(通称:アマンダ)さんはインドネシアの高校生、この塾に特別参加した唯一の外国人。

と言っても、日本生まれ、インドネシア人の両親と一緒に小学5年生まで愛知県小牧市に住んでいました。帰国後も日本語を学び日本語能力検定1級も取っていて、日本語は不自由ありません。塾スタートの4日朝、起きると目の前に晴れ渡った富士山。それを見て歓声を上げました。

「授業は、漢字が時々難しい。塾OBや友達になった塾生に聞き、電子辞書(日・英語)を引くと分かります。とても充実した日々です」と心配なさそうです。

ちょっと気になるのが食事。イスラム教では豚肉は食べません。「豚肉部分は外して食べているので大丈夫です」と気にしてない様子でしたが、心配した運営担当の先生の勧めで、献立表を見て、食べられないメニューを告げ、別メニューにしてもらうようになりました。

カルチャーショックは?と聞くと「インドネシアでは30分遅れて教室に入っても平気。だけど、日本では皆、決められた時間をきちっと守る」と驚いていました。

「今回、初めて知った塾生は皆、とても優しくしてくれた。」と、いつも朗らかなアマンダさんの顔がほころびます。帰国したら新学期、高校3年生です。


女性サポーターの会

今日は、富士吉田市の合宿所に、女性サポーターの会のメンバー10名が集まり、夏合宿の様子を見学し、塾生と共に授業を受けました。

昨年に続く、合宿所での「女性サポーターの会」には、全日空・取締役の山内純子さん、キヤノン・社会文化支援部長の澤田澄子さんらが出席。

今回、4日から合宿所で塾生と共に授業を受けていた冒険家・登山家の續 素美代さんからのご報告を聞き、「とても真剣な表情で授業を聞いていた」「様々なことを体験し、日本の将来を背負っていってもらいたい」など、「創造性の育成塾」の話から、教育現場での話など、幅広く話し合われました。

(事務局・伊奈恵子)