好奇心が世界を変えた
2日目の目玉は2限目。量子力学の世界的権威、外村彰・日立製作所フェローが授業した。
外村氏は、1ナノメートル(10億分の1ミリメートル)以下の世界を見ることができる透過性電子顕微鏡を駆使して、ミクロの世界に挑戦してきた。この道に入ったきっかけについて「大学(東京大学理学部物理学科)で『電子が波である』というのを聞いたからいつか見てみたいなあと思って」と、好奇心に後押しされて現在までの40年があることを話した。
量子力学は、「電子は粒子ではなく波である」という仮説に基づいて誕生したものだが、そのことを視覚的に捉えることに成功した「電子の二重スリットの実験」について。また、リニアモーターカーに代表される、「超伝導」の実用化の決め手となっている「磁束量子」のメカニズム解明について。英国王立研究所で行われる歴史と権威ある科学講演会「金曜講話」で講演した時のエピソードなどを話した。
最後に、「日本は今まで、電子顕微鏡は『お家芸』だった。生産もメーカーも学術もダントツだった。しかし次の世代へ技術が伝わっていない。電子顕微鏡の分野は小さな分野で。研究も2・3年で成果を要求されるので、技術者がいなくなり絶滅の危機に瀕している。」と、この教室から後継者が出てくることを期待した。
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1限目は、青森大学大学院の江田稔教授が、理科教育の現状と問題点、求められるありかたと、文部科学省がどういう活動をしているのかということを紹介した。
日本のDNA受け継いで
この日から始まった、夜7時半からの8限目「講話」では、塾を主催するNPOネットジャーナリスト協会の理事長でもある東芝・岡村正会長が「明日の日本を担う皆さんへ」と題して行った。
岡村会長は、近年のBRICs諸国(ブラジル・ロシア・中国・インド)の急激な経済成長を上げ、「日本が世界2位の経済大国でいられることは不可能」としたうえで、「資源は持たない、人口は減る、軍備はない、その中で日本が世界に尊敬される国になるためには科学技術立国を目指すしかない」と現在の国際経済状況を解説した。
また、技術開発を巡る情勢について「20世紀は『ものの豊かさ』を追求、いかに早く、小さく、大量に作るかといった物理量で世の中を快適にしようとした。ところが、ものが豊かになった21世紀は、『心の豊かさ』を求める。それは驚きと感動、安心と安全など。これを満足させる商品は何か、そして商品開発のための技術開発とは何かという、お客さんの立場から(さかのぼった)発想が必要」と、科学少年たちへアドバイスをした。
さらに、日本のもっとも大きな特長について「①消費者の感性が非常に高い②高度で均質な労働力、国民の教育レベルが高い③組織に対する忠誠心が高い。この3つの特性をフルに活かして科学技術立国を目指さなければならない」と説明した上で「これが我々日本人のDNA。この非常にハイレベルなDNAをもった人たちが皆さん。これを活かして、あなたたちの時代に科学技術立国として花開かせていただきたい」とお願いした。
しょうゆなどを入れる魚型・筒型のプラスチック容器の中に、少量の水を入れ、ふたに重しをつける。それを水を入れたペットボトルの中に浮かべ、ふたをすると、「浮沈子」と呼ばれる実験道具のできあがり。
ペットボトルを握ることで、中のプラスチック容器が浮き沈みする現象について考えた。
6限目は、「空飛ぶタネ」。ラワン、アルソミトラなどの植物は、種子が、風に乗って飛散しやすい形になっていることを紹介。その種子の形状を、発泡スチロールなどを使って製作。40人全員で飛ばしっこをした。
7限目は、「ペットボトルの飛ばし方」。水を入れたペットボトルに、空気入れで空気を5気圧まで注入。空気圧で飛んでいくペットボトルロケットの飛距離が、重さ、水の量でどう変わるのかを考えた。
「次は水の量は250(ミリリットル)でいこう」、「わー、すごい飛んだ!」とグループ全員で首をひねりながら、芝生の上を駆け回っていた。
※「スーパー先生と子どもたち」(2006年)の記事を事務局にて再編。再収録しました。