「自分の限界に挑戦しよう―ヤヌス的に視野を広げて」
今日のハイライトは5時限目のノーベル物理学賞受賞者、江崎玲於奈先生の授業。「自分の限界に挑戦する時、自分の限界が見えてきた時に乗り越えていくためには、『ヤヌス的(二元的)な視点で物事を見ること』が重要。これから皆さんが限界を乗り越えるための材料を提供する」と、冒頭に授業の目的に触れ、以下のように科学を学ぶためのヒントを示した。
10代の時期を「これまでの自分(主観)とそれを批判するもう一人の自分(客観)が出てきたことを意識し、自我に目覚める時期。心身共に成長著しい時期。」と位置づけた。
その後で、ご自身のことに触れ「中学入試に失敗したが、キリスト教系の同志社中学に入学したことで、西洋文明の大きな2つの柱であるキリスト教と科学に触れることができ、当時は珍しい外国人教師に英会話も教えてもらった」と、挫折を乗り越えて多様な経験をしたことを紹介した。
続けて、科学の進歩について、「歴史を辿ると、先人達は常に『自分の創造能力の限界に挑戦』し『人間の能力の限界を突破』してきた。宇宙や物質の不変の原理を求める『物理・科学』が発展し、20世紀最大の発明、半導体トランジスタの発明に至った。その一方で、変化を続ける生命を探索する『生命科学』の発展は、20世紀最大の発見、DNAの構造解明につながった。」と分析した。
ノーベル賞受賞者には、成功と失敗、偶然と必然の交差の跡があることを紹介。江崎先生がノーベル物理学賞を受賞した、半導体『エサキダイオード』の開発についても、早くから着目し、研究を続けた「必然の結果」と、加えて「偶然の成果」の両面がある、と話した。
最後に江崎先生は、ノーベル賞を取るための必要条件として以下の5項目を挙げた。
1)今までの行き掛かりに捉われてはいけない。
しがらみに捉われると、ブレークスルーを感知できない。
2)大先生を尊敬するのはよいが、のめり込んではいけない。
のめり込むと自由奔放な若い自分を失う。
3)情報の大波の中で、無用なものは捨て、自分に役立つものだけを取捨選択しなければならない。
4)他人の言いなりにならず、自分を大事に守るためには、戦うことを避けてはいけない。
5)いつまでも初々しい感性と知的好奇心を失ってはいけない。
質疑応答では、塾生から質問が次々に飛び出した。
「ダイオードを開発するきっかけは何ですか」「量子力学にエキサイトしたことです」
「尊敬する大先生は誰ですか」「たくさんいるが、一人挙げるとすれば『シュレジンガー方程式』のシュレジンガーです」
予定時間を、1時間もオーバーする大サービスで塾生たちに応じた。
最後の山、相対性理論に四苦八苦-北原和夫・国際基督教大学教授
北原和夫先生は「アインシュタインの相対性理論」などを説明した。話の中には数式が多く出てきたこともあり、塾生達は理解するのに一苦労だった様子で、休み時間には質問のため先生の前に長蛇の列ができた。
また、最後に国際物理オリンピック日本代表の選考会を兼ねた物理コンテスト「物理チャレンジ」について紹介。北原先生が組織委員長を務めた2005年度大会の様子をビデオで見せながら、塾生に参加を呼びかけた。
「ノーベル賞をとれ」―有馬塾長
最後の授業は有馬朗人塾長。
「日本は残念ながら資源がない。一つ予言をすると、2030年に食糧不足にならない国はアメリカ1国だけ。中国もインドも輸入国になる。そんな中、日本はどうする?(克服するには)頭です。科学と技術で生き残るんです。」科学技術立国の必要を力説した。
そして、「私が塾を始めた理由は、大きな仕事をしてほしいから。科学者じゃなくてもいい。(例えば)大政治家になって世界を平和にしてくれてもいい。大きな仕事をみんながやってほしい。」と塾生への期待を述べた後、「自信を持て」「大きな夢を見よ」「くじけるな」「健康を大切に」「21世紀の日本と人類のために活躍せよ」など5つの心構えを説いた。
最後にスクリーンに『ノーベル賞をとれ』を映し出し、塾生に夢を託した。
そして「そのうち、皆さんの名前が新聞に載ることを望んでいます。」と話を締めくくった。
有馬塾長は「日本と世界の未来を担う若き人材育成のためのプログラムを優秀な成績で終えた」の修了証書を塾生一人一人に手渡した。