板挟みこそ創造性の源(鈴木 寛 東大大学院・慶応大 教授)
毎年、この夏合宿で講義をしてくださる「すずかん先生」こと鈴木先生。はじめに、塾生へ「理系を学ぶにしても、文系は重要だ」とメッセージを送ります。ご自身は、文系に進みましたが、科学者や医師をサポートする立場になり、理系の基礎知識が大変役に立ったといいます。
鈴木先生は、特定の診療報酬の増加や再生医療推進など、数々の医療イノベーションを行ってきました。しかし、そのような医療政策の判断は、板挟みの連続であったといいます。例えば再生医療推進法は、再生医療の研究者や難病の患者には応援されるが、薬剤被害者や動物愛護団体からは批判されるというジレンマがありました。
話題は生命倫理に移ります。現在では脳科学や再生医療、遺伝子工学などが発展し、それとともに、技術の進歩に伴う問題が露になってきました。世の中が進むにつれて治療とそれ以外の線引きは常に変化し、なおかつこの境界を判断するのは非常に難しいことだと先生はいいます。先生は犯罪を起こすリスクが高い人への予防的投薬の是非、人工中絶の是非、意識をもった動物に対する動物実験の是非など、生命倫理という学問において扱われている議論を列挙し、実際にこれらの問題が認められるべきか考えるように塾生に促しました。
先生は最後に、生命倫理を考える上では基本的な科学的知識が必要で、またそれ以外の哲学や芸術といった分野の知識も重要となると話し、理系、文系、芸術などを幅広く学ぶことの重要性をもう一度塾生に確認して授業を終えました。
今後医学や生命科学の分野で活躍するうえで、研究技術や基礎知識を磨くだけでは不十分であり、生命倫理や研究倫理について考えて、時にはジレンマの中で判断することが不可欠です。塾生には、科学技術を進歩させるだけでなく、社会におけるこれらの技術のありかたまで見据えて科学に関わっていくために、幅広い知識を得て、科学進歩に伴い生じる問題について取り組んでいってほしいと期待します。
(7期 野村 俊貴)
講義を動画でご覧いただけます。
映像の公開は終了しました。(23.8.28)
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