海藻から元素を取り出す(兼 龍盛 江戸川学園取手中学校・高等学校)

植物にはどんな物質が含まれているのでしょうか。今回は、だれでも手に入る身近なものを使って、植物から単一の元素を抽出し可視化する実験です。

まずは、うがい薬からヨウ素を取り出してみます。
ヘキサンとうがい薬の水溶液を試験管で撹拌すると、ヘキサン層はピンク色に呈色し、一方、イオン性化合物の一種である硫酸銅(Ⅱ)の水溶液をヘキサン抽出した結果、ヘキサン層は呈色しませんでした。
つまり、イオン性の化合物はヘキサン層に移動せず、ヨウ素のような物質だとヘキサン層に移動させて、分離しして取り出すことができるということです。

続いて、兼先生は、昆布にアルコールを加えて燃焼させたものを塾生に配布しました。燃焼した状態では、目的となるヨウ素は、イオン性の塩の状態で存在しており、塩は水溶性なので、お湯を加えることによって、溶出させることができます。

マドラーでよくかき混ぜて数十分後、コーヒーフィルターを用いて、プラスチックコップの中へ濾過します。この時、目的の化合物(ヨウ素の化合物)は水溶液として溶けているため、プラスチックカップの中へ滴下し、昆布の灰などの沈殿物はコーヒーフィルター上へ残るため、液体と固体の分離を容易に行うことができます。

ろ過した溶液の液性をフェノールフタレイン溶液で確認すると赤色となり、アルカリ性であることがわかりました。次に、市販のクエン酸洗剤を加えると、溶液の色は淡い茶色(元の色に戻った)へと変化し、液性が酸性となったことが確認できました。

さらに、イオン性の塩の状態で陰イオンとして存在しているヨウ化物イオンを、酸化還元反応によって単体であるヨウ素に変化させるため、オキシドールを滴下しました。この酸化還元反応には少し長めの時間を有するため、水溶液の色が濃い黄茶色となっていることを、塾生達は注意深く観察していました。

続いて、処理された水溶液には最終的に何の化合物が含まれているのかを定性分析する二種類の実験を行いました。

一つ目は、ヨウ素の抽出実験。
まず、ヘキサンが入っている試験管へ水溶液を注ぎ入れます。上下に試験管を5回振って撹拌すると、撹拌前は透明だったヘキサン層が、撹拌後はピンク色に呈色しました。

したがって、昆布中に含有されていた、ヨウ化化合物は、酸性条件下で酸化還元反応を行うことにより、ヨウ素となり、ヘキサン層へ移動したと考えられます。さらに、チオ硫酸ナトリウムを含んだ市販洗浄剤の粒を2~3個、試験管中のヘキサン−水二層系溶液に加え、よく撹拌したところ、ヨウ素が消費され、ヘキサンと水の二層に分かれた溶液は透明となりました。

そして二つ目は、鋭敏な反応として有名なヨウ素デンプン反応。
プラスチックコップ中に残った溶液へデンプン溶液を滴下すると、青紫色になりました。そして、反応溶液にもチオ硫酸ナトリウムを含んだ市販洗浄剤の粒を加えよく撹拌したところ、ヨウ素が消費され、溶液は透明(デンプン溶液が多いと白濁した溶液)となりました。

このように、昆布には、ヨウ素がイオン化合物として含まれており、酸化還元反応によって抽出操作を行うと、単体として取り出すことができ、その物性を色々な方法で調べることができます。また、ヨウ素(ヨード)の産出量は、近年チリ(約18400 t)が過半数割合を占めていますが、千葉県(約7100 t)は世界でも有数の産出地域を誇っており、日本国内では身近な存在となっていることも紹介されました。

最後に、兼先生より、Jonas Edward Salk博士の「Nothing happens quite by chance. It’s a question of accretion of information and experience. 何事も偶然だけでは起きない。情報と経験の蓄積が問われる。」という名言や、山中伸弥先生の「VW ; Vision and Work hard. 目的を明確に持ち、そのために一生懸命働く。」というメッセージの紹介。
「研究者の方は常に休みなく働き続ける。とても忙しくされているが、素晴らしい発見をされながら世界を牽引している。君達も一生懸命頑張ることを楽しく考えられるような仕事に出会ってください。」という言葉を残し、実験は幕を閉じました。

(3期 奥村 有紗)