「ニュートリノと重力波で探る宇宙の謎」梶田 隆章 ノーベル物理学賞 / 東京大学卓越教授

講義

3講義目は、2015年12月、ノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章先生のご講義です。
高名な先生を目の前にした塾生の緊張も、柔和な雰囲気で話始められた梶田先生のお陰か、徐々にほぐれていったように見えました。

最初に、先生は天の川の写真を見せ、「美しい写真ですよね。でも、光の観測だけでは分からないこともあるんです。」と、話を始めました。

 1987年、2月23日。カミオカンデによって検出されたニュートリノは、超新星爆発の理解に貢献しました。当時の計算機ではシミュレーションはできなかったものの、その後の研究によって、メカニズムは解明されてきました。実際のシミュレーション映像を見せながら、「中性子星が球対称だと爆発は起こらないんです」と解説される先生のお話を、塾生は真剣に聞いていました。

 現在は、改良したスーパーカミオカンデにより、過去の宇宙で起こった超新星爆発から放出されたニュートリノの検出の研究が進められているそうです。「数年後には結果が見えるだろう、見えてほしい!」と、先生は熱い言葉をかけられていました。

さらに、そこからは重力波の話をされていました。
現在、梶田先生は重力波の検出施設であるKAGRAのプロジェクト代表をされており、力を入れているのだそうです。KAGRAは、重力波の観測によってブラックホール誕生の瞬間を観測し、重力波天文学に貢献することを目指す施設です。

重力波は、2015年の初観測から2023年初旬までで、世界中で90例が観測されています。ブラックホールの連星系は、互いを周回する中で、エネルギーを放ちながら近づいていき、最終的には2つのブラックホールはひとつの大きなブラックホールになってしまいます。その過程で放出されるエネルギーが、重力波として観測されるのです。

しかし、ブラックホール同士がひとつになる過程で放出されるエネルギーは莫大であるものの、実際に検出される重力波は、地球-太陽間の空間を水素原子1個分だけ縮める程の効果しか及ぼさないため、重力波の観測自体はとても難しいものなのだそうです。

続いて、「光では分からない宇宙の謎」ということで、ご自身の研究でもあるニュートリノの質量の話と共に、宇宙の謎との関連性の話をされました。

ビックバン直後の初期宇宙では、大量の物質と反物質が対生成されました。しかし、現在の銀河を観測すると、物質で構成されているように見えます。では、なぜ反物質は無くなってしまったのか?そこにニュートリノが関係しているのでは、と梶田先生は語られました。次世代のカミオカンデによって、その謎を解き明かす鍵となる観測がされるとのことです。塾生も期待に胸を膨らませている様子でした。

最後に本日の講義のまとめを話された後、「皆さんの中からも研究者が出て欲しい」と強く語られ、講義を締めくくられました。

その後も、「中性子星同士が合体してブラックホールが生まれるのはなぜか」「先生がニュートリノに興味を持ったきっかけは何か」といったような塾生の質問に、丁寧に答えてくださいました。

(16期 下川夕馨)